神奈川県立の図書館

企画展示関連講演会兼文字・活字文化の日記念講演会「『源氏物語』再発見~与謝野晶子からのメッセージ~」を開催しました

公開

講演中の松岡智之先生(お茶の水女子大学准教授)

10月27日(日曜日)、神奈川県立図書館の企画展示「源氏物語を取り巻く女性たちと文化」に関連し、講演会を開催しました。

また本講演会は、文字・活字文化への関心と理解を深めることを目的とした「文字・活字文化の日」の記念講演会を兼ねての開催となりました。

企画展示内のコーナー「『源氏物語』を読み解いた女性たち」に関連し、与謝野晶子と『源氏物語』のつながりについて、お茶の水女子大学准教授の松岡智之先生にお話いただきました。

はじめに『源氏物語』のあらすじに触れ、第一部の「桐壺」~「藤裏葉」の巻を「光源氏の恋と栄華の物語」、第二部の「若菜」~「幻」の巻を「人生の意味を問い直す物語」、第三部の「匂兵部卿」~「夢浮橋」の巻を「心の交通/不交通」の物語であると定義し、現在の通説となっている三部構成説についての紹介がありました。

次に、『源氏物語』を訳したことで知られる与謝野晶子が唱えた『源氏物語』の複数作者説が紹介されました。晶子は、複数の著作物の中で、五十四帖全てが紫式部の筆によるものではなく、「若菜」以下の後編は、娘の賢子(大弐三位)による作ではないかという説を述べています。

江戸時代以前から、宇治十帖が紫式部ではなく、娘の賢子による作ではないかという説はありましたが、「藤裏葉」と「若菜」の間に区切りを入れた点で、与謝野晶子の説は画期的でした。

晶子が「藤裏葉」で前後編を分けた理由として、「藤裏葉」で光源氏の境遇が「すべて円満にめでたく栄華の頂点」を見せたこと、「若菜」上下の文章が「にわかに冗漫の跡のいちじるしい」ことを挙げています。また、後編の作者が紫式部の娘・賢子であるとしている理由として、物語後半に出てくる和歌と、大弐三位の歌の詠みぶりがよく似ていることなどを挙げています。

その後、この与謝野晶子の説が、『源氏物語』研究者にどのように受容されてきたかが紹介されました。

池田亀鑑は、「若菜」を境界に前後の二篇を分けるという考え方は注目すべきである、としつつも、作者までも異なるという説については懐疑的な見解を示しています。また、玉上琢彌も、幸福な結末を迎える「藤裏葉」巻で物語を分ける考えには同意しつつも、積極的な証拠が見出されないことから、作者を別とすることは賛成しかねる、という意見を述べています。

最後に、池田亀鑑が提唱した『源氏物語』の三部構成説が紹介されました。亀鑑は、『源氏物語』の構成を、女君の物語単位で把握し、三部構成で捉えることを提唱し、以後これが『源氏物語』研究の通説となりました。

複数作者説は否定されたものの、与謝野晶子が「藤裏葉」と「若菜」で物語を分けることを提唱したことが、『源氏物語』研究者に受容され、現在の『源氏物語』を三部に分けてとらえる考え方が生まれたのでした。

講演会後の質疑応答では、近年のテキストデータサイエンスを用いた研究で、『源氏物語』の助詞の出現率を巻ごとに比較したところ、五十四帖の中ではっきりとした分かれ目は出現しなかったことや、『源氏物語』の現代語訳における各訳者による訳文の違いの特徴などについて、ご説明いただきました。

松岡先生、ご講演いただきましてありがとうございました。

講演会関連資料

『よみがえる与謝野晶子の源氏物語』 花鳥社 2022年

請求記号:913.36/470 資料コード:23381585 OPAC(所蔵検索)

『与謝野晶子が詠んだ源氏物語 鶴見大学図書館蔵『源氏物語礼讃』二種』 花鳥社 2024年

請求記号:911.16/1122 資料コード:23538812 OPAC (所蔵検索)

松岡智之先生 著書

『源氏物語を読むための25章』 武蔵野書院 2023年

請求記号:913.36/502 資料コード:23571011 OPAC(所蔵検索)

『言葉から読む平安文学』 武蔵野書院 2024年

請求記号:910.23/324 資料コード:23553837 OPAC(所蔵検索)

(県立図書館:イベント担当者)