神奈川県立の図書館

『鈴木成一装丁を語る。』 鈴木 成一 著

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「鈴木成一装丁を語る。」書影

本は紙で読むのが好きか、デジタルで読むのが好みか。

「紙の本」という言い方をすることがあるように、「本」の形態も多様性の時代です。やっぱり紙の本はいいなと思うのは、書棚に並んだ背表紙や、表紙から受けるモノとしての印象が、その本を手に取るきっかけの一つになるからだと思います。

テキストが紙の本として図書館や書店に並んでいるのは、装丁を手掛ける人がいるおかげです。その装丁の世界で第一人者の一人とされる鈴木成一氏が、自身が手掛けた装丁を解説しているのが、この本です。

本書では、鈴木氏が装丁を手掛けた約120冊の本を、装丁の手法別に紹介しています。「タイトル文字で伝える」「イラストを使う」「著者本人、または関係する品を出す」「アート作品を併せる」など、9つの手法に分類し、1冊ごとに鈴木氏による解説があり、表紙の写真、判型、製本、資材、印刷・加工の情報が掲載されています。

「タイトル文字で伝える」という手法の本として紹介されていた、桜沢エリカ著『掌にダイヤモンド』(祥伝社、1997年)では、鈴木氏の事務所に届いた請求書に書かれた文字が特徴的でぴったりだということで、その方に依頼してタイトル、目次などを書いてもらったとのこと。事務職員だろうその方は、ご自分の文字が本のタイトルになるなんて、さぞやびっくりしたのではないでしょうか。確かに印象的な文字でした。

「アート作品を併せる」という手法の本として紹介されていた、桜庭一樹著『私の男』(文藝春秋、2007年)では、表紙に画家マルレーネ・デュマスの絵画を用いています。デュマスの絵画とは知らず、この小説をもとに描いた絵だと思っていました。この本以後、デュマスは作品使用を許可していないというエピソードも、興味深いです。

また、質感を重視し、光りものの用紙を使ったり、箔押しをすることで制作費用が上がると、本の定価も上がるそうです。当然ではありますが、出版社側としては予算もあるだろうし、でもぴったりの装丁を目にしたら、これで出版したいと思うだろうし。出版社の決断の結果が図書館に並んでいるのだなと、しみじみ書棚を眺めてしまいました。

「はじめに」の中で、「装丁には正解がある、と私は思っていまして、原稿を読めば、「本としてこうなりたい」というかたちがやっぱりあるわけですよ。個性をちゃんと読み込んで、かたちにする。」と鈴木氏は言っています。

この感覚に似たようなことをどこかでも聞いたことがあるような...と思ったら、夏目漱石の小説『夢十夜』の中の「運慶が仁王像を彫っている話」でした。運慶が見事な仁王像を作るのは、土の中から石を掘り出すように、鑿と槌の力で木の中に埋まっている仁王像を掘り出しているだけだから間違うはずがないという、天才の仕業を表現した部分です。

鈴木氏は「結局、装丁というのは、作家として自己表現するのではなくて、本の個性をいかに表現してあげるか、ということ」とも書いており、その本が発するメッセージを探るという表現もされています。やはりプロの目には、埋まっている本のかたちが見えているものなのだなと、仁王像を彫る運慶の姿を重ねてしまいました。

本書には、「本の各部名称」「本の形状名称」「製本の主な種類」「印刷」「加工」が図入りで紹介されています。本の造作について知りたい時にもわかりやすく、本を扱う仕事に携わる人にとっても、知っておくべき情報が満載であることも、おすすめしたい理由です。

『鈴木成一装丁を語る。』 鈴木成一 著 イースト・プレス 2010年

請求記号:022.57/44 資料コード:22432744 OPAC(所蔵検索)

(県立図書館:もっと装丁を知りたくて)