
2024年パリオリンピックが開催されました。
その前の2020年東京オリンピックは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて1年延期になり、更に無観客での開催になったことが思い出されます。テレビで見た新国立競技場は無観客なのに、客席の椅子の色の効果で人がたくさん入っているように見えたのが印象的でした。
東京オリンピックに向けて建設ラッシュが進み、その中でも国立競技場の建て替えは世間の注目を浴びました。
当初はザハ・ハディッドの案のデザインが採用されましたが、いろいろな問題が出てきてやり直しになってしまいました。
やり直しコンペの条件は設計・施工一括方式で、施工業者が設計者とチームを組んで参加するというものでした。
世間から厳しい目で見られる中、ゼネコンから依頼された隈健吾がどのような思いで新国立競技場の設計に関わったのか、覚悟が書かれています。
新国立競技場の設計にあたって隈研吾が意図したことは、神宮外苑の杜にふさわしい競技場になるように、なるべく建物の高さを低くしたいということと、地元の自然素材を使いたいという2点でした。
チームのミーティングでは聞き役に徹し、そうすることで仲間から最新の技術やアイデアを引き出し、そのうちプロジェクトの評価軸が見えてくると語られています。締め切りまで2ヶ月半しかない中で、創造性を発揮するためには風通しのいい場を作り、メンバー間に信頼関係を構築することが重要だったそうです。
さらに隈研吾はやり直しコンペの要項を読んで、絶対木でいくべきと確信したとのことです。木の加工技術が進化し、予算、デザイン、安全性すべての面でリーズナブルな素材になり、木を使う設計が現実的になったことが追い風となったのが理由です。
また、国産材を使うことで木を切り、そこにまた木を植えるという、森に健康的な循環が作り出されることになります。日本の木造建築における伝統的な技術も、デザインのヒントに使われているそうです。環境と調和し、最先端の技術を集結し、我が国の気候・風土・伝統を現代的に表現するスタジアムに、木が最適だと隈研吾は確信したのだと思います。
政治・経済・社会的な事情がさまざまにからみあった中で、その土地の歴史や環境、教養などをデザインする建築家の情熱がこの本を読んで感じられました。神奈川県立図書館には前川國男が設計した前川國男館(旧本館。2026年度まで改修工事のため休館中)があります。
その当時の社会的背景やデザインへの思いなどに触れると、建築への見方が変わるかもしれません。
『なぜぼくが新国立競技場をつくるのか 建築家・隈研吾の覚悟』 隈研吾著 日経BP社 2016年
請求記号:780.67/11 資料コード:22882583 OPAC(所蔵検索)
(県立図書館:木のぬくもり)