日本の旅客鉄道は、1872年に新橋と横浜を結んで始まりました。このことをご存じの方も多いでしょう。では貨物鉄道が開始したのはいつでしょうか?実は旅客輸送の翌年である1873年には貨物鉄道も始まっていたのです。
1872年から150年が経過した2022年には「鉄道150年」としてイベントやキャンペーンが大々的に行われ、目に留まった方も多かったと思います。しかし、それに比べ翌年の2023年が「貨物鉄道150年」であったのは、あまり知られていなかったかもしれません。
県立川崎図書館では、図書館の出入口付近にある展示スペースを「ものづくりギャラリー展示」と名付け、ものづくり技術を支える工学・産業技術・自然科学分野に関する資料や、関連する様々な物等の展示を行っています。
令和7年4月から9月までの「ものづくりギャラリー展示」を担当することになり、私はテーマを「鉄道貨物輸送」としました。貨物鉄道は、私たちが日常的に直接かかわる機会が少ないため、旅客鉄道に比べて目立ちにくい存在かもしれません。しかし、物流で私たちの生活を支える、なくてはならない重要なインフラであり、大切な存在だと考えたからです。
ものづくりギャラリー展示では、様々な企業・団体の皆様にご協力いただき、物品やパネルなどをお借りして展示することもあります。日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)の本社に伺ったときに広報の方が「貨物鉄道は古い歴史がありながら、二酸化炭素排出量が少ないなど、現代的テーマで注目されている」とお話しされ、「古くて新しい物流」と表現されていました。この言葉がとても印象的で、展示や関連講演会の準備を進めるうえで私の中のテーマのように意識していました。
令和7年8月30日(土曜日)、ものづくりギャラリー展示関連講演会として県立川崎図書館カンファレンスルームにおいて、講演会「川崎と貨物鉄道」を開催しました。講師には、日本近代史、近代都市史を専攻され、鉄道に関する書籍を複数著されている鈴木勇一郎氏(川崎市市民ミュージアム学芸員)をお迎えしました。
講演では、国鉄の誕生から全国に巨大なネットワークが形成されていく過程、輸送システムの変遷、当時の貨物鉄道の作業現場の状況などが、講師の親しみやすい語り口でわかりやすく解説されました。ハンプと呼ばれる小高い丘の上から貨車を自重で滑走させ、職員が飛び乗ってブレーキをかけるという、危険も多かった作業の様子が紹介されると、参加者からは驚きの声が上がっていました。
鈴木氏の近刊『国鉄史』(講談社選書メチエ)の結びでは、国鉄改革に尽力された故・葛西敬之氏(JR東海名誉会長)の「あらゆる制度設計なんて三〇年も持ちやしない」(p.252)という言葉が引用されています。日本の鉄道の基本的仕組みが約40年の周期で大きく変化してきたことを示したものであり、国鉄民営化から40年近く経過した現在、貨物鉄道を含む日本の物流体制にとっても興味深い記述ではないでしょうか。
貨物鉄道の役割は、預かった荷物を確実に相手先へ届けることです。この使命は今も昔も変わりません。しかし、そのための体制や仕事の意味、そして生み出される価値は時代とともに変化しています。
根本的使命は変わらなくとも、時代によって体制や意味づけが変わるのは、鉄道や物流に限ったことではありません。それは、私たち図書館司書の仕事にもあてはまります。資料の収集・整理・保存を行い利用者の「知る権利」を守る役割は不変ですが、その役割を果たすための体制は変わる可能性があります。爆発的に進む社会の情報化やAIの革新的発展により、図書館司書の役割や仕事の進め方も新しくなっていくかもしれません。
150年余の歴史を持つ貨物鉄道とその変遷について知ることで、自分たちの仕事についても、その不変的役割を改めて考えさせられました。そして、その役割を守り続けるためには、時代に応じた新しい方策を模索していかなければならないのです。私たちの仕事もまた「古くて新しい」のだと感じました。
【関連著書】
『国鉄史 講談社選書メチエ 792』 鈴木勇一郎/著 講談社 2023年
請求記号: 686.21/187 資料コード: 23527955 OPAC(所蔵検索)
(神奈川県立川崎図書館:EF66)
ものづくりギャラリー展示「鉄道貨物輸送」と関連講演会「川崎と貨物鉄道」を担当して
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