2025年8月22日(金曜日)、第2回「after5ゼミ」が開催されました。
子ども大学くまもと学長でいらっしゃる田尻由貴子さんにお話しいただきました。
(写真右から田尻さん、ファシリテーター伊藤達矢さん)
2007年、熊本慈恵病院の看護部長であった田尻さんは、日本で初めての赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」開設に向け、中心的な役割を果たし、その後の運営にも長く携わっていらっしゃいました。現在は「子ども大学くまもと」で、いのちの大切さを伝える活動を続けていらっしゃいます。
田尻さんは看護師、保健師、助産師の免許を取得後、町立病院の総婦長を経て、熊本慈恵病院で妊婦さんの産後鬱対策に取り組まれました。
2004年、生命尊重センターの呼びかけで、熊本慈恵病院理事長の蓮田太二氏らとドイツに視察へ行くことになります。2000年からドイツで始まった匿名で赤ちゃんを預かる「ベビークラッペ」という取り組みは、4年間で国内70カ所の施設に広がっていました。キリスト教系の病院、公立病院、保育園など公立・民間の区別なく、様々な機関が取り組むシステムに感銘を受けた田尻さんは、日本に戻り新生児遺棄の状況について調べました。
長年「おめでたい出産」を見てきた田尻さんにとって、全国で1週間に1人の割合(調査当時)で新生児が遺棄されている状況や、熊本県で新生児遺棄事件が続いたことに衝撃を受けます。
田尻さんが尊敬するマザーテレサの言葉「愛の反対は憎しみではなく無関心である」に後押しされ、蓮田さんと共に赤ちゃんポストの設営に着手しました。
前例のない赤ちゃんポストの設営には多くの課題がありました。日本には現在でも内密、匿名出産に関する充分な法整備がありません。悲しい事件が後を絶たない現状にもかかわらず、「親が子どもを育てるのが当たり前」という根強い圧が、法整備の遅れや妊婦の孤立につながっています。
「こうのとりのゆりかご」の運営に公からの支援はなく、運営費用は現在でも寄付と病院の負担で賄っているといいます。
2025年、東京都墨田区で国内2件目になる赤ちゃんポストの運用が始まりました。妊婦さんと赤ちゃんの孤立を未然に回避し、命を守ることの社会的な理解が進むことが望まれます。
「こうのとりのゆりかご」は"育てられない赤ちゃんを預かる"ことが目的ではありません。予期せぬ妊娠で悩む妊婦さんが安心して相談、出産できる場所を提供して心と体をケアすることが主であり、ポストは最終手段だといいます。
最初は「育てられない、預けたい」と話す相談者も、会話を重ね傾聴を続けることで「自分で育てたい」「養子縁組を考えたい」と気持ちが変化していくそうです。出産後は産後鬱の尺度を数値化し、数値が高い人には家庭訪問を行うなど産後鬱予防のケアが用意されています。
最後に、性教育のお話しがありました。妊娠出産が若年化する昨今では、正しい時期に正しい性教育を受ける事が不可欠です。予期せぬ妊娠で心身共にリスクを負うのは主に女性です。性別による不平等をなくすため、男女格差のない性教育が重要だと繰り返されました。
田尻さんは現在、「こうのとりのゆりかご」に預けられた経緯をもつ宮津航一さんと共に、子どもたちに無償で学びの場を提供する活動をしています。どんなに困難な状況にあっても「命を救うことが1番。それになんの問題があるの?というスタンスでやっています。」と笑顔で話されました。
すべての命が救われ、いつか赤ちゃんポストが必要のない社会になるために出来ることは何か。ゼミ終了後のブッククラブでもそれぞれが考え続け、対話が続きました。
(写真第2回ブッククラブの様子)
【関連著書】
『「赤ちゃんポスト」は、それでも必要です。 かけがえのない「命」を救うために』 ミネルヴァ書房 2017年
請求記号:369.41/24/3 資料コード:22960587 OPAC(所蔵検索)
『はい。赤ちゃん相談室、田尻です。 こうのとりのゆりかご・24時間SOS赤ちゃん電話相談室の現場』 ミネルヴァ書房 2016年
請求記号:369.41/24/1 資料コード:23638836 OPAC(所蔵検索)
(県立図書館:イベント担当)