公開

『タコとだいこん』書影利用者の皆様のご要望に応じて書庫から資料を取り出す業務を担当していると、様々な本に出会います。
もともと本を読むことは好きですが、目に留まるものはどうしても似通ってきてしまいます。
この点で自分からはあまり積極的に手を伸ばさないような資料とも関わりを持つこの業務は、わくわくするところがあります。迅速な処理を心がけながらも、時には思わずタイトルを控えてしまうことがあります。
今回ご紹介する絵本も利用者の方から請求があり、書庫に探しに行くことになった資料です。書架へ辿り着き、表紙を見て顔がほころび、思わずページを捲ってしまいました。


最初は海に暮らす「タコ」と畑で育つ「だいこん」が結び付かず、とても独創的なテーマだと感じましたが、調べてみたところ「タコが畑の大根を盗む」という話が古くから全国各地で言い伝えられていることを知りました。
作者の方も小さい頃に本で読んだこの奇妙な伝説が忘れられず、今回思い立って自分の脳内にある伝説のイメージを描いたのだそうです。


作品は
「ある ひ タコは おもいました 『だいこん たべたい』」
と始まりますが、そもそもこのタコはどこで大根を知ったのでしょうか。夜な夜な町を探索する中で、土に埋まる白いものを発見したのでしょうか。冒頭から読者の想像を掻き立てます(ちなみにタコには好奇心があり、キラキラとした白いものに反応する性質があるそうです)。そしてここから畑に大根を盗みに行くタコの様子が色彩豊かに描かれていきます。タコの赤、大根の白、海の青、畑の緑がページいっぱいに広がります。
どのページも印象深いのですが、特にお気に入りなのはタコが陸に出立する場面です。絵だけで構成されるページですが、海面から満月を見つめるタコの後ろ姿からは静かなる決意のようなものをひしひしと感じます。
果たしてこのタコは願いが叶い、大根を食することが出来るのでしょうか。


この作品は「タコが畑の大根を盗む」という逸話が元になっていますが、実はタコは芋も盗むと言われており、『日本国語大辞典』には「いも‐どろぼう【芋泥棒・芋泥坊バウ】 蛸(たこ)の異称。畑の芋を食うという俗説による」という項目があります。
タコが陸に上がって悪さをするという逸話が広まっているのは、タコの姿形が人間のように見えることや、水中から上がると、うねうねと足を動かして陸上を這うタコの様子が関係しているのかもしれません。
一方でタコの持つひょうきんなイメージが悪さをしてもどこか憎めない印象を与えているようにも感じます。長い足に大根を巻き付けて、口を尖らせたようにこちらを見つめる表紙に目を引かれ、そして盗みを働くタコを許してしまいそうになるのは、タコの持つ愛嬌のなせる業なのかなと思います。

この絵本に描かれているのはあくまで物語なのか、それとも信じがたい本当の話なのか、皆さんはどう思われますか。


『タコとだいこん 講談社の創作絵本』 伊佐久美/作 講談社 2022年
請求記号:E1/イ 資料コード:23563513 OPAC(所蔵検索)


『タコと日本人 獲る・食べる・祀る』 平川敬治/著 弦書房 2012年
請求記号:664.77/7 資料コード:22604714 OPAC(所蔵検索)


『日本国語大辞典 第1巻』 小学館国語辞典編集部/編 小学館 2006年
請求記号:813.1/144/1 資料コード:21908934 OPAC(所蔵検索)


講談社えほん通信 「『タコ』と『大根』が主役!? 絵本新人賞579作品の頂点に『傑作』のおスミつき(2021年度 第42回講談社絵本新人賞)」(外部サイト)
(2025年8月17日確認)


(県立図書館:いもたこなんきん)