神奈川県立の図書館

『アワシマ信仰 女人救済と海の修験道』 有安美加/著

公開

アワシマ信仰書影 わたしは日頃あまり読書をしない身なのですが、時おり腹を減らした青虫のごとく、とにかく本を読み漁りたい気分になることがあります。そんな時はあちらこちらと書架を徘徊し、本を手にとって軽く目次を眺めてはまた戻し、そんなことを繰り返してようやくこれと決めた本を持ち帰るのですが、その渉猟が実に楽しくて、図書館とはまことに素敵な場所だなとしみじみ感じます。

...と、なにやらダイレクトマーケティングじみた始まりになってしまいましたが、今回はそうして物色した一冊、『アワシマ信仰 女人救済と海の修験道』をご紹介します。


アワシマ信仰とは主に安産や婦人病平癒、裁縫上達や夫婦和合といった女性関連のご利益をアワシマの神に祈願するという、女人救済の信仰だそうです。しかしこの女人救済という側面は、実は近世に普及・定着したものらしく、江戸期には「アワシマ神は少彦名命(すくなびこなのみこと)であり、婦人病に限らず病全般を癒す」(p.31)との批判もあったようです。
ちなみに少彦名命とは、大己貴命(おおなむちのみこと=大国主命)とともに国造りを行った神様で、万病平癒やら鳥獣害除けやら酒造りやらのマルチなご利益があります。アワシマ信仰の本貫とされる和歌山の加太淡嶋神社では主祭神として、大己貴命、神功皇后とともに祀られています。
そんな少彦名命がアワシマの神であるなら、女人救済とはたしかに妙な話です。


ではそもそもアワシマ信仰とは本来どんな信仰だったのか。そしてなぜ近世以降は女人救済の信仰となったのか。その歴史的変遷を考察したのが本書になります。博士論文がベースになっているということで、片手間に軽く読める本では全くないのですが、きっちりと調査し収集された参考資料と、それらを基に丁寧に分析された論考が、「ああ、わたし今めっちゃ読書してる」という確かな満足感を与えてくれます。しかしかなり複雑で難しく、3回くらい読み直してなお理解できたかと問われれば、悲しいかな多分できていません。


というわけで、本書の内容を私なりに説明すると、アワシマ信仰とはもともとはリアス式海岸地域に発生したもので、地先小島や海岸洞窟を他界の門として神聖視し、太陽を崇拝するという基層信仰がまずあり、そこに「磐立たす」少彦名命と彼を崇敬した神功皇后との関係性、また稚日女尊(わかひるめのみこと)/大日孁貴(おおひるめのむち)と天照大神という太陽女神の関係性が加わり、さらに中世からの梅毒の流行を受けて疾病平癒祈願が盛んになり、それら諸々の背景に修験者の活躍があり、それらが絡み合ってやがて女人救済になったという感じです。


うむ。我ながら何の説明にもなっておらず大変申し訳ないです。しかも間違って解釈している可能性がありますので、正しく理解したい方はぜひ本書をご確認ください。

しかしそんな体たらくにも関わらず、ここにこうして紹介しようと思えるくらい、本当に本当に面白い本なのです。
特に女性学に興味のある方、民俗学に興味のある方、そして少彦名命に興味のある方には、自信をもってお勧めできます。
己には難しすぎる本に、うんうん唸りながら何度もページを戻って読み直して、読み終わってさらにもう一度最初から読んで、そうして結局理解できなくても、それでも面白かったと思える。
読書とはまことに不思議で魅力的です。
あれ。またなんかダイレクトマーケティングみたいになってしまいましたが、偽らざる本心からの言葉ですよ。


『アワシマ信仰 女人救済と海の修験道』 有安美加/著 岩田書院 2015年
資料コード:22838353 387.02/18 OPAC(所蔵検索)


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