2024年11月23日(金曜日)、弁護士の太田啓子さんにジェンダーに関する教育をテーマにお話いただきました。太田さんは、主に離婚等の家事事件を多く扱う弁護士として活躍されています。また、2020 年に出版された『これからの男の子たちへ―「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)の著者としても知られています。
今回のゼミでは、この本を書かれたきっかけや日本の性差別の現状に触れ、性暴力や性差別をなくすために必要な教育について問題提起されました。
(写真左から伊藤達矢さん、太田啓子さん)
太田さんには息子さんがお2人いらっしゃいます。彼らと接する中で、社会から受けるメッセージが、女の子に対するものと男の子に対するものでは異なっていることに気が付いたそうです。性差別を無くすためには、子ども時代からの教育が必須では?と考えたことが、本の執筆に繋がりました。
はじめに、いくつかの統計から日本の性差別の状況が示されました。世界経済フォーラムが公表しているジェンダーギャップ指数において、日本は下位の常連です。
雇用統計からは、高卒男性と大卒女性の年収が変わらないことや、女性は正規雇用の継続性が難しい実情が伺えます。1985年に男女雇用機会均等法が制定されて以降、共働きは多くなりましたが、今もなお、家事、育児、介護の負担は女性に偏っています。
日本の女性の無償労働時間は男性の5.5倍で、男性と比べてここまで多いのは他の国と比べても突出しているというデータもあります。性差別が完全に解消している国は存在しないものの、日本が他国に比べ遅れをとっていることは明らかです。
このような男女格差の背景として、ジェンダーバイアスがあることもお話しいただきました。
ジェンダーバイアスとは、男女の役割についての固定観念を持つことです。日常にジェンダーバイアスは溢れており、身近な大人の言動が子どもに影響を与えています。大人から子どもへ性差別的な価値観が伝播しやすい局面として、「家事」「教育」「暴力への対応」があります。
性格差を解消するためには、社会全体におけるジェンダーバイアスを取り除くことが不可欠です。太田さんは、弁護士の経験から、大人の価値観やジェンダーに関する歪みの矯正は難しいと考えています。そのため、幼い頃からの適切な教育が必要であることを強調されました。
教育の効果を示す例として、中学生を対象とした調査(NPO法人SEAN『人として強くやさしく』(「ジェンダーと暴力」の人権教育実践報告書))が紹介されました。暴力を受けた時の対応についてワークショップで学び、前後の意識の変化を調査したものです。
「暴力を受けた時にどうしますか?」という質問に対し、「誰かに話を聞いてもらう」と回答した割合は、男女で差がありましたが、学習後には男子で特に増加しました。これは、「暴力への対応」として「相談すること」の重要性を教えることで、子どもたちの考え方を改善できる可能性を示しています。
一方、大人も無意識に性差別をしている可能性を自覚し、性に関する偏見をアンラーン(学び落とす)していくことも必要です。性別関係なく、個人を尊重できるように、大人も子どもと一緒に学ぶ重要性が伝えられました。
太田さんのお話のあと、3~4人のグループをつくり、まずはゼミ生同士で意見交換をしました。
その後、講師の太田さんやファシリテーターの伊藤さんを交え、全体で質問や感想を話す時間を設けました。
男の子がいるご家庭のゼミ生からは、家庭の外から学んでくる子どもの性差別的な発言について相談がありました。
「ここ最近、ジェンダー教育に対する話題も雑誌等で盛んに取り上げられています。ジェンダーを意識した教育を実践している教員の言葉も参考になります」と雑誌もご紹介いただきました。
【関連著書】
『いばらの道の男の子たちへ ジェンダーレス時代の男の子育児論』太田啓子/著 光文社2024年
資料コード: 23559925 請求記号: 379.9/567 OPAC(所蔵検索)
『別居・離婚後の「共同親権」を考える 子どもと同居親の視点から』熊上崇/編著 明石書店 2024年
資料コード: 23575160請求記号: 324.64/18 OPAC(所蔵検索)
『SOGIをめぐる法整備はいま LGBTQが直面する法的な現状と課題』LGBT法連合会/編 かもがわ出版 2023年
資料コード: 23496813請求記号: 367.98/39 OPAC(所蔵検索)
『50歳からの性教育 河出新書059』村瀬幸浩/著 河出書房新社 2023年
資料コード:23562010請求記号: 367.9/582 OPAC(所蔵検索)
『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』太田啓子/著 大月書店 2020年
資料コード: 23172604請求記号: 367.5/180 OPAC(所蔵検索)
『集団的自衛権行使容認とその先にあるもの 別冊法学セミナーno..234』森英樹/編日本評論社 2015年
資料コード: 22796577請求記号: 319.8/892 OPAC(所蔵検索)
『人として強くやさしく : 子どもたちを被害者にも加害者にもしないために(『ジェンダーと暴力』の人権教育実践報告書)』
NPO法人SEAN 2007年 未所蔵
雑誌『クレスコ』 no.284 2024年11月号 「特集:ともに歩もう! ジェンダー平等を教育の世界へ」クレスコ編集委員会・全日本教職員組合/編 大月書店 請求記号 Z370/595
雑誌『教育』No.946 2024年11月号「特集:学校の『男性性』を問う」教育科学研究会/編 旬報社請求記号 Z3705/6
雑誌『SEXUALITY 季刊セクシュアリティ』No.118 2024年 10月号「特集:男子ってなんでそうなの?どうしたらいいの?」
エイデル研究所 請求記号 Z367/550
(県立図書館:イベント担当)