神奈川県立の図書館

書庫での邂逅

公開

ふたごのでんしゃ書影

新年明けましておめでとうございます。皆様にとって明るい良い年となりますようお祈りいたします。

図書館に来る途中、JRの車内を見渡してみると、新聞、本を読む人は皆無、ほとんどの人がスマホを一心に見ていて、こんな光景が当たり前となったのはいつ頃からでしょうか。

令和5年度「国語に関する世論調査」(文化庁)で、1か月に1冊も本を読まない人が初めて6割を超え、読書量が減っているとした人が過去最多の69%と、ますます読書離れが進んでいることが明らかとなりました。

スマホで時間が取られるなど読書に時間を割きにくい時代なのでしょう。

読書は知識を得るだけでなく、言葉を学び、感性を磨ぎ、表現力を高め、想像力を豊かなものにし、人生により深みを与えてくれます。幼い頃から本と出会い、本から拓く、思いやり、心のつながりを大切にしていきたいものです。

さて、県立図書館は社会・人文系の専門書を所蔵していることで知られていますが、実は、子どもたち向けの絵本や児童書も相当数所蔵しています。

その中から、なかなか古い本ですが、時代の変化の中で図書館活動の重要性を訴えた素敵な2冊を紹介します。

先日、当館の書庫の児童書が並んでいる棚で、偶然『ふたごの でんしゃ』、『しゅっぱつ しんこう』の背表紙が並んでいるのを見つけました。

懐かしさの余り手に取ったとたん、記憶が一気に半世紀遡りました。

本がなかなか買えなかった時分、小学校の図書室、そして「ほんとおはなし こどもきゃらばん*」のことなど思い出しながら、ページをめくってみました。子どもが好きな明るい色使い、そして可愛らしい挿絵も、そういえばこんな絵だったなと1ページ1ページ確かめながら、読み始めました。

1冊目の『ふたごの でんしゃ』は、最初は街の人から持て囃された双子の路面電車「べんけい」と「うしわか」が、自動車の交通量が増えていく中でその役割を終え、大人たちの紆余曲折した議論を経て、市長の英断で、「こどもとしょかん」として生まれ変わり、子どもたちに愛され続けるという内容です。 ふたごの電車の半生は、まるで時代の変化に喘ぐ自分たちにも置き換えられ、共感してしまいます。

1970年代の初め、まだまだ、図書館が子どもたちにとって身近でない頃に、いかに子どもたちに本に近づいてもらえるかという工夫の原点がやさしいタッチで描かれており、著者の慶応大学教授の渡辺さんは、実際に日野市にあった電車図書館を訪れて、この話を書かれたそうです。

しゅっぱつしんこう書影

続編の『しゅっぱつ しんこう』は、図書館に改造された路面電車の成功を受け、子どもたちに本を届けるための「図書館バス」「図書館電車」などが登場し、冨士山のふもとに作られた「なつやすみの くに」という巨大な施設に、世界中の子供の本が集められ、美術館や音楽堂も作られるという未来が描かれています。

現在の全国で建て替えられている複合施設型の図書館の原型ともいえる姿ではないでしょうか。

この2冊の本は、子どもたちが好きな電車を軸に、子どもたちに本の楽しさを伝えるとともに、図書館が建てられるまでの様々な出来事、そして図書館活動の重要性を訴える内容となっています。

ひと昔前までは、図書館を建てれば、本をたくさん揃えれば、読んでもらえた時代でした。

現在は、なかなか読んでもらえない、手に取ってもらえない時代に変化してきました。

いつの時代でも、こどもは本が大好きなはずで、私たち大人はもう少しだけ工夫をし、子どもたちのために、汗をかくことを忘れないようにしたいと思います。

県立図書館では、研究用に約4万冊の絵本や児童書を収蔵していますが、貸出できる本がほとんどです。

皆さんの利用をお待ちしています。

*「ほんとおはなし こどもきゃらばん」
神奈川県立図書館が、1974年11月から1984年3月まで、大型バスを改造した車を使って県内を巡回していた事業。

子どもたち40~50名が入ることができるバス内で、おはなし会、人形劇などを行っていた。

『ふたごの でんしゃ』 渡辺茂男/作 堀内誠一/絵 あかね書房 1973年

請求記号:913/ワ 資料コード:13091038 OPAC(所蔵検索)

『しゅっぱつ しんこう』 渡辺茂男/作 堀内誠一/絵 あかね書房 1971年

請求記号:913/ワ 資料コード:13115449 OPAC(所蔵検索)


(県立図書館長 市川 秀樹)