第2回ゼミが2024年8月23日(金曜)に開催されました。
講師の西井開さんは臨床心理士として、DV加害男性や虐待を行った父親を対象とした脱暴力やパートナーとの関係修復のサポートに携わるとともに、2017年から当事者研究グループ「ぼくらの非モテ研究会」(以下、非モテ研)を立ち上げ、活動を続けています。
写真左から伊藤達矢さん、西井開さん
「非モテ」とは、1990年代末からインターネット上に登場した言葉で、一般的にはモテないことを意味します。西井さんは「自分の弱さを見せられない」と言われてきた男性が、この言葉を媒介に自らの経験をよく語ることに注目しました。今回は、非モテ研で語られた事例や臨床心理士としての活動から見えてきた、男性たちの抱える苦悩とその背景について、4つのトピックを取り上げお話しいただきました。
1.からかい・いじり
男性集団内の「からかい・いじり」について、「非モテ」男性が追いつめられ、自己否定に陥っていく過程について話されました。例えば、「背が低い」、「太っている」といった身体の特徴や、「恋人がいない」、「性経験がない」といった恋愛・性に関した経験に対する「からかい・いじり」があります。これらにより、男性は集団内の序列をつくります。「からかい・いじり」を受けた当事者は、「男らしさ」という慣習の縛りや集団からの離脱を危惧し、反抗せず、受け入れることを繰り返すうちに、自己否定に陥ってしまいます。
2.男性集団内の限定的な関わり合い
特に中高生の男性同士の話題は、下ネタや恋愛に関する限定的な内容が多いとのお話がありました。集団から排除されないためには、これらの男性の文化に深く根づいた「メンズトーク」に適応していくことが強要されます。
3.男性のメンタルヘルス
日本での男性の自殺者は女性の2倍というデータが紹介されました。その背景には「男性は耐えることが当然」と考え、弱音を吐くことを許さない「男らしさ」へのこだわりや、論理的であることやスピード感を重視する企業文化も影響しているのではと考えられます。
4.恋愛からの焦り、強迫観念
自己否定に陥り、集団から排除されてきた「非モテ」男性は、恋人さえいれば自分の欠点が解消され、一発逆転できるという妄想を膨らませていきます。女性は男性をケアすることが当然と考え、優しく接してくれた女性を自分の女神のように勘違いし、理想化します。女性との恋愛に過剰な価値を求め、相手の気持ちを無視して拙速なアプローチをしてしまい、拒否され、さらなる自己否定への悪循環や孤独、DVに発展していく可能性があります。
以上、4つのエピソードには、男性の生きづらさの仕組みが示されています。
知らず知らずのうちに「正しい男性像」のような社会規範を学び取ってきたのであれば、逆に「学び落とす」こともできるのではないかと、西井さんは考えています。あたりまえを疑い、自分や相手を押さえ付けていないかを問いながら「新しい男性のあり方」を模索していく必要性があると述べられました。
西井さんのお話を伺ったあと、ゼミ生は3~4人のグループに分かれ感想を話し合いました。ゼミ生からの質問の中には、10代の息子さんを心配する声もあり、西井さんからは「学校外のコミュニティに参加すること」の大切さが伝えられました。
前回のフェミニズムに続き、今回は男性の生きづらさを学びました。当館はどちらに関する本も所蔵しています。ぜひ多方面から読んでみてください。
西井開氏 関連著書
『「非モテ」からはじめる男性学 集英社新書1076』 西井開/著 集英社 2021年
資料コード23269483請求記号367.5/189 OPAC(所蔵検索)
『モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究』 ぼくらの非モテ研究会/編著 青弓社 2020年
資料コード23214463 請求記号367.5/181 OPAC(所蔵検索)
『どうして男はそうなんだろうか会議 いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと』 澁谷知美/編 筑摩書房 2022年
資料コード23387954 請求記号 367.5/200 OPAC(所蔵検索)
『あたらしいジェンダースタディーズ 転換期を読み解く 臨床心理学増刊 第15号』 大嶋栄子/編 金剛出版 2023年
資料コード23505084 請求記号367.1/922 OPAC(所蔵検索)
(県立図書館:イベント担当)