曇天模様の日でも、太陽が昇っている昼間でも、星を見ることのできる場所がプラネタリウムです。
1923年に近代的な投影式プラネタリウムがドイツで初公開されました。
近代プラネタリウムがドイツで誕生して100年になる2023年に出版された本が、今回紹介する『星空をつくる機械 プラネタリウム100年史』です。
本書では、プラネタリウムのルーツである「天球儀」や「天体運行儀」の歴史、プラネタリウム投影機の仕組みと構造、近代プラネタリウムの誕生と世界中に広がっていく様子などが語られています。
特に興味深かったのは、第4章以降の日本でのプラネタリウムに関するエピソードでした。
今やプラネタリウムは日本全国にありますが、第二次世界大戦前は、東洋初のプラネタリウムが設置された大阪市立電気科学館と、東京・有楽町にあった東日天文館だけでした。
東日天文館は空襲により焼失し、わずか6年半でその歴史を終えました。 大阪市立電気科学館は空襲により屋上の望遠鏡設備が被災し、投影が一時休止になりましたが、プラネタリウムは奇跡的に戦火を免れ、1946年2月には投影を再開。1989年に電気科学館が閉館するまでの52年間、その地で親しまれました。
明石市立天文科学館は1995年の阪神淡路大震災で壊滅的な被害を受けましたが、1998年3月に再開した時、4日間で2万人の来館者があり、筆者は「人々がプラネタリウムの星の光に震災復興の希望を重ねていることを強く感じた」そうです。
戦後も震災後もプラネタリウム投影機が復興の象徴になり、人々を勇気づけたのだなと思いました。
また、「どの時代にも面白い人がいて、熱い想いを持っていた」 と「おわりに」にある通り、この本に登場する人たちにはものすごい情熱を感じました。
例えば、国産プラネタリウムの開発の際に、ある会社の方が時を隔てて2人、同じプラネタリウムに通って投影設備を観察し、その熱心さに根負けした解説員の方が、投影機作成に関する助言や図面の閲覧を許したという逸話や、星の説明を行う際に用いられるポインター(矢印)が故障するというハプニングに見舞われながらも、機転を利かせて解説を成し遂げた逸話など、まさに「個々のエピソードの積み重ねが歴史を作っている」と思いました。
「個性あふれるいろんな人たちがプラネタリウムに命を吹き込んだ。プラネタリウムが生んだ人のつながりと育成は、各地で見られ、今も広がっている。」と書かれていましたが、それはプラネタリウムに興味を持って来るお客さんに対しても言えることだと思いました。実際、本書にも最初はお客さんとして来場し、のちにプラネタリウムを開発したり、解説者になったりした方が登場します。
はじめに筆者は、「可能ならいろんなプラネタリウムに訪れて本書を読み返してほしい」と書いています。
神奈川県立川崎図書館に近いプラネタリウムには「かわさき宙と緑の科学館」があります。
この本を読んだ後に是非プラネタリウムにおでかけください。
『星空をつくる機械 プラネタリウム100年史』 井上 毅 著 KADOKAWA 2023年
資料コード:81795155 請求記号:440.76/17 OPAC(所蔵検索)
(県立川崎図書館:K)