バッタのコスチュームを身にまとい、虫取り網をかまえる姿が強烈な本書は、ファーブルに憧れ昆虫学者を目指し、「バッタに食べられたい」という夢を叶えるため、そしてバッタがもたらす「蝗害」から人類を救うため、若き博士(バッタアレルギーあり)が実験室を飛び出しアフリカ・モーリタニアへ渡り、バッタの研究に人生をかけ奮闘した2011年からの3年間を記録したノンフィクション作品です。
舞台となるモーリタニア・イスラム共和国は日本の約3倍の国土面積を持つ砂漠の国で日本ではタコの産地として知られています。研究対象はサバクトビバッタ。砂漠や半沙漠地帯に分布する大型バッタです。
仲間の数が少ない時は「孤独相」と呼ばれる緑色をしたおとなしい姿をしていますが、数が増えると「群生相」と呼ばれる黄色に黒色が混じった姿に変わり凶暴化し、数百億匹からなる巨大な群れをなし、移動しながら植物を食べつくし農作物に大きな被害を与えます。このバッタによる天災は「蝗害」として古くから恐れられてきました。
バッタへの溢れる愛と情熱をもってしても、研究者として生きる道のりは楽なものではありません。
到着した空港でいきなり入国拒否にあい、持ち込んだお酒は全て没収、相場よりも高い給料を出して雇った現地のスタッフはアフリカンタイムで遅刻、砂漠では危うく遭難、30万かけて用意したバッタ飼育用巨大ケージは海風で朽ち果てます。日本からの荷物を受け取りに郵便局に行けばぼったくりにあい、中身はねずみにかじられ...など様々な困難が立ちふさがります。
それでも決して諦めることなく、次々と起こるトラブルに立ち向かっていきます。日中は40度を超え、夜は15度近くまで下がる砂漠の過酷な環境で行うフィールドワークでさえもバッタがいれば苦とならず、観察を通して研究テーマを見出し、仮説を立て、論文を書くためのデータを取っていきます。
しかし、さらなる試練が著者を襲います。モーリタニア建国史上で最もひどい大干ばつが起き、まさかの「バッタがいない」状態になってしまいます。そして「さしたる成果をあげることなく」研究費と生活費が保障された2年間が終わり、ついには無収入状態に陥ってしまいます。
果たして著者は子供の頃からの夢である「バッタに食べられたい」を叶えることができたのか? 研究者として安定した収入を得ることができるのか? ミドルネームの「ウルド」に込められた意味とは?
答えは、軽快な文章とカラー写真も含めた豊富な写真、そして「孤独相」も「群生相」に変化するほどのバッタ愛が混みあっている本書を読んで、ぜひご自身の目でお確かめください。
『バッタを倒しにアフリカへ』 前野ウルド浩太郎著 光文社新書 2017年
請求記号:486.45/1 資料コード:81688467 OPAC(所蔵検索)
(ペンネーム:バッタを探しに多摩川へ)