神奈川県立の図書館

『キックオフの笛が聞こえる―日本のラグビーは横浜から始まった』 長井勉 著

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1859年の幕末開港以来、西洋文化が流入した横浜では、鉄道開業、アイスクリーム発祥など事始めの記念碑を多く目にします。

しかし、横浜中華街にある山下町公園の「日本のラグビー発祥の地 横浜」記念碑はあまり知られていないことでしょう。

これは2019年、ラグビーW杯の日本開催に合わせて建立されたものです。

本書ではその地が選ばれた経緯を中心に、神奈川県ラグビー協会の長井勉氏(認証アーキビスト)が横浜のラグビー史話を掘り起こしていきます。

日本ラグビー発祥の年といえば、田中銀之助とE・B・クラークが慶應義塾の学生にラグビーを初めて指導した1899年とするのが定説でした。しかし、幕末1866年に横浜フットボールクラブ(YFBC=現YC&AC)という居留地西洋人ラグビーチームの設立総会が山下町で行われたことが判明しました。

その根拠となった英字新聞の記事を横浜カントリー&アスレチッククラブ(YC&AC)の歴史研究家マイク・ガルブレイス氏が英国のワールドラグビーミュージアムに送ったことで、YFBCがアジア最古のラグビークラブとして2015年8月に認定されました。

YFBCの結成には1862年、英国人が薩摩藩士に斬られた「生麦事件」が影響しています。居留地の警備に送り込まれた英国人兵士がラグビーを始めたのです。兵士には本国のパブリックスクール出身者が多く、そこでは規律を重んじるラグビーが教育に取り入れられていました。お国の習慣が異国の地でも兵士や居留民に楽しまれたのです。教科書に出てきた血生臭い事件が、日本ラグビーの始まりと関連しているとは驚きです。

本書からは歴史を記録し、関連資料を保存すること、またそれを公開することの大切さに気付かされます。

表紙にも用いられた当時の英雑誌掲載の挿絵では、富士山を背景に外国人同士のラグビーの試合をちょんまげ姿の男性や和服の女性が物珍しそうに眺める様子が描かれています。

この場所は現在、横浜DeNAベイスターズの本拠地、横浜スタジアムがある横浜公園と推測されています。

また、図書館のガラス原板写真史料集から、YFBCの設立総会の場所であるラケットコート・バンガローと、ラグビー伝道師E・B・クラークの父が経営する横浜ベーカリー(記念碑所在地)を一枚におさめた写真を発見する場面には興奮します。ラグビー発祥の地にふさわしいレガシーが近接してあったことが一目瞭然です。

なお、本書は世界・日本のラグビー史や日本ラグビーデジタルミュージアムについても触れています。

異国の地で、戦争の無い平和な時間に、お国のスポーツとして若者達のエネルギーを発散させていたラグビーがこれからも楽しめる世の中であってほしいものです。

メンバー個々に体格などの違いを活かした役割があり、観客席に敵味方の区別がないところなど、多様性のスポーツともいわれるラグビーと、異国の文化を真っ先に受け入れてきた横浜との縁を感じさせる一冊です。

『キックオフの笛が聞こえる―日本のラグビーは横浜から始まった』長井勉著 丸善プラネット 2021年

資料コード:23271190 請求記号:783.48/33 OPAC(所蔵検索)

(県立図書館職員:デクちゃんみたいに走りたい)