チェコの作家カレル・チャペックは、1920年に「ロボット」という言葉を創り出し、戯曲『RUR』で一世を風靡しました。人造人間が人間の代わりに労働を強いられたため、反乱を起こすという話です。
この作品で一躍時の人となったチャペックは、1924年ロンドンにおける国際ペン・クラブ大会に招かれて英国を訪れました。ちょうど100年前のイギリス、第一次世界大戦終焉から第二次世界大戦が始まるまでの、つかの間のおだやかな時期を紹介したのが『カレル・チャペックの見たイギリス』です。
チャペックの観察眼と作家としての表現力で、当時のイギリスを様々な角度から紹介します。多趣味で絵画・音楽・動物を愛し、園芸家でもあったチャペックは、木が一番美しいのはおそらくイギリスだと言い切ります。イギリスの保守的な部分・歴史主義・そして生真面目なイギリス紳士が、年輪をへた古木のようであると。一方古い木や物には、好奇心が旺盛でいたずら好き、陽気な小人や妖精がひそんでいるようだと、ファンタジー大国イギリスを表現します。また、イギリス人の堅苦しさや交通事情の悪さを、ウィットを含ませながら非難したかと思えば、歴史あるケンブリッジ大学の美しさをほめたたえます。ケンブリッジ大学と友情を結んでしまったからには、オックスフォード大学をほめそやすわけにはいかない。と、どんな辛口の感想を言おうか悩みながらも、やっぱりオックスフォードのことも好きになってしまう可愛らしさもあります。批評の眼でみつめながら、チャペックの根底にある人・動物・植物様々なものへの愛にあふれた文章に心がほっこりとしてしまいます。
またチャペックは、同時期にロンドンのウェンブリーで開催していた、大英帝国博覧会の人ごみの中にもいました。展示されている機械の、物質としての完全さを讃えて、イギリス産業を支えるすべての断面に感心しながら、博覧会の展示から見えてこないその下にある人たちにも思いを馳せます。
「機械はすばらしく欠点がありません。ところが機械に仕えたり、あるいは機械に面倒を見てもらっている人の人生は、すばらしくもなく、きらきら光り輝いてもいません。機械より完全でもなく、魅力的でもないのです」とチャペックは記しています。
『RUR』の世界のように、機械(ロボット)に仕事を任せることへの疑問や問いかけを、チャペックは常に抱いていたのだと思われました。AIの発展で、無くなるであろうと言われている仕事の未来や、チャットGPTによる文章の生成が行われる現代に対して、チャペックだったらどのように切り込んできたでしょう。嘆きつつも共存の世界を示してくれたのかもしれませんね。
チャペックと共に旅した気分で、独創的でありながら普遍性があり、多面性も併せ持った100年前のイギリスをのぞいてみませんか?
『カレル・チャペックの見たイギリス』 カレル・チャペック/著 栗栖茜/訳 合同会社海山社 2022年
資料コード:23419971 請求記号989.55/7 OPAC(所蔵検索)
関連書
『R.U.R.ロボット 1 カレル・チャペック戯曲集』 カレル・チャペック/著 栗栖継/訳 十月社 1992年
資料コード:20441036 請求記号:989.52AA/2 OPAC(所蔵検索)
(県立図書館:好きな作品は『ダーシェンカ』)