息子が電車好きなので、殆ど興味のなかった電車等の乗り物情報にも思わず目がいってしまう...
そんな自分に変化して20年、可愛らしかった息子はすっかり大きく小生意気になりましたが、私のその性質はしっかり根付いてしまったようです。
そんな私がふと手にとったこの本はたいへん興味深いものでした。昭和61年に東京都が策定した第二次東京都長期計画において、「公共交通網を充実するため、区部北東部に新交通システム等を導入する」と東京都の計画事業に位置づけられてから22年、平成9年の建設着手からは10年をかけて、平成20年に走行距離9.7キロ、日暮里から見沼代親水公園駅(足立区舎人)までを結ぶ日暮里・舎人ライナーが開業しました。
本書は、その計画から開業までを、インフラの建設、駅舎・連絡通路の建設、電気施設、安全対策など、全8部構成でまとめたものです。計画や建設が進められる中、次々に出てくる課題をどう乗り越えたのかといったことが多数の図や写真により紹介されています。
なお、新交通システムとは「道路を立体的に利用した専用軌道上を走行し、バスと鉄道の中間程度の輸送力を持つ都市交通機関」です。
私がたいへん惹かれたのは、駅をどこに設置するかということ(「第1部 日暮里・舎人ライナー開業までの道のり」に収められている「ルートと駅位置」)です。
当たり前ではあるのですが、乗換(鉄道だけではなくバス停も考慮)の利便性、駅の間隔、更に車両基地の設置と引込等も考えねばならない等、課題が思ったよりも多いと感じました。そして舎人公園の地下に、車両基地があるとは思いもしなかったので驚きました。新交通システムである日暮里・舎人ライナーは、既存の道路の更に上に設置されている線路から地下へ潜り込むという高低差があるために、最急勾配は65‰(パーミル)となるそうです。
また、「第2部 インフラの建設」の「2.インフラ工事の概要」には、工事のたいへんさも書かれています。例えば「既成市街地の日交通量4万台を越える幹線道路上での工事」のように、既に開発されている地域の工事だったことが一番の難点だったのだと感じました。平日昼間の交通量を考えるとそれをストップさせることはありえず、夜間工事のみで進めていかねばならない。夜間道路規制をしても作業時間は実質毎日5時間程であり、なかなか一気に進められない。翌朝の交通再開までがタイムリミット。常に気を抜けず、緊張感は相当なものであったと思います。
中央指令所で集中的かつ効率的に運用するためのシステム「総合管理システム」についても書かれており、乗客として乗っているだけでは知ることのできない裏側を知ることが出来、面白かったです。自動列車制御装置(ATC)やタイヤパンク検知、車載カメラによる軌道モニタリング等々多くの監視、操作が可能な数々の技術に驚かされ、それにより運転手を配置しない無人の自動運転が可能なのだと納得しました。そういう所に着目しながら乗るのも楽しそうです。
開業より10年余り経ち、近隣の人々にとってもう欠かすことのできない日暮里・舎人ライナー。
この本片手に蘊蓄述べながら、いまだに電車好きの息子と乗ってお出かけしたくなる...そんな本でもありました。
『新交通システム建設物語 日暮里・舎人ライナーの計画から開業まで』「新交通システム建設物語」執筆委員会編著 成山堂書店 2011年
資料コード:81479644 請求記号 681.8/52 OPAC(所蔵検索)
(県立川崎図書館:息子は電車好き)