20~30年位前まで、"虫を食べる"という行為は、大好きだったテレビ番組『世界ウルルン滞在記』やバラエティー番組の罰ゲームのようなものでしか見る機会がありませんでした。
しかし、ここ数年、乾燥させたコオロギを粉砕したものを原料とした"コオロギクッキー"や"コオロギせんべい"を店頭で見かけるようになりました。"イナゴの佃煮"は昔からある料理だったせいか今まで違和感を持つことはありませんでしたが、ポップな感じで平然と陳列されているコオロギ商品を"わざわざ虫を食品加工するのかー、普通に商品として販売して需要はあるのかなー"と何となく不思議な感覚で見るようになりました。
さて、飽食といわれ大量の食料廃棄が問題となっている昨今、ヒトはどうしてコオロギ(昆虫)まで食料にすることになったと思いますか?
本書は、「人と昆虫が共存できる時代が到来した、という思いを強くしている」「かつての昆虫少年」が「食料としての昆虫の役割を中心に、多面的に昆虫とヒトとのあるべき姿を探っていく」ものです。
著者は、持続可能な食料として昆虫を活用する意義やリスク、食文化や産業、今後の昆虫食の展望について、国連食糧農業機関(FAO)の見解やデータ等を提示しながら、これまで研究事項として取り上げられることが少なかった「昆虫食」という分野を読み手に分かりやすく伝えようと冷静に、時に熱く、著しています。
全7章から構成されている本書で、著者が昆虫をヒトの食料として活用しようと提案する理由のひとつに、牛や豚といった家畜を生産することに伴う温室効果ガス排出量からみた地球環境問題を挙げています。
例えば、牛(家畜)とトノサマバッタ(昆虫)をそれぞれ700kg生産(出生または孵化~出荷)した際に排出される温室効果ガス量の概算を比較すると、牛が約2,400kgであるのに対しトノサマバッタは約34kg、数値が少ない方が環境に優しいことになるので、昆虫を家畜の代替とすることは温室効果ガス排出量の削減につながるとしています。廃棄されている農作物を昆虫の食物とすることにより、食料や飼料といった有効な資源に変換できる等、これまで害虫として扱われてきた昆虫を益虫として活用するメリット、また、食料としての昆虫が持つ高い栄養価(タンパク質、ビタミン、脂質、炭水化物)についても食肉と比較しながら紹介しています。
EUでは2015年に新規食品としてコオロギやミロワームが指定され、食用昆虫のリスク評価が進みつつあり、デンマークやオランダ、ベルギー、ドイツでは部分的に昆虫食品の流通を始めているそうです。
思い返せば、日本人が牛肉を食べるようになったとされているのも明治時代あたりから。食用昆虫が「小さな手乗りの家畜」となる日も遠くはないのかもしれません。
『昆虫食スタディーズ ハエやゴキブリが世界を変える』水野壮著 化学同人 2022年
資料コード:23340326 請求記号:383.8/517 OPAC(所蔵検索)
(ペンネーム:ハチミツはミツバチの分泌液)