本書は毎日新聞の記事を元に書籍化されたもので、取材班がヤングケアラーたちの実態をインタビューし、全国調査に至るまでの過程と、支援が本格化するまでの道のりが描かれています。
家族介護者を支援している一般社団法人・日本ケアラー連盟は、ヤングケアラーについて次のように定義しています。
「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートをおこなっている18歳未満子ども」
ヤングケアラーは、介護に忙殺されて本来受けるべき教育を受けることができず、同世代との人間関係も満足に構築することができません。
調査を進める中で、どこまでをヤングケアラーと認定するか、その境界線の難しさが浮かび上がります。
家族の世話をする若者は、世間から「親孝行な子」「えらい子」「仲の良い家族」と称賛されることはあっても、「支援すべき対象」とみなされることが少ないのです。
確実に存在しているはずのヤングケアラーは社会の陰に埋もれ、多くの人々の目に入らない「透明な存在」だと記されています。
社会の陰に埋もれてしまう原因は他にもあります。社会経験の少ない子どもたちは、過酷な状況下におかれても外部に助けを求めることを知りません。
取材を受けた元ヤングケアラーは、「子どもの知識の無さをなめちゃいけない。半端なく知識がない。だから『助けて』と外部の世界に手を伸ばせない。」と指摘しています。この様な子どもたちの現状に心が痛みます。
本書は、社会がヤングケアラーという身近な存在を認知し、理解を深めてほしいと訴えます。
ヤングケアラー支援の先進国である英国。そこで活動する支援団体の担当者は「最も大事なのはヤングケアラーの声を聞くこと。必要な支援は1人ずつ違う。」と語っています。
元ヤングケアラーの若者は、その渦中にいる子どもたちに向けて「受け止めてくれる人は必ずいる。希望を捨てないで。」とメッセージを送っています。
個々の家庭の問題に行政や他人が介入するのは難しいことですが、子どもが子どもらしい生活をおくることができるよう、周りの大人たちが手を差し伸べる必要があります。
国や自治体によるヤングケアラー支援が本格化し、子どもたちへの具体的な支援策が盛り込まれていますが、まだまだ課題は山積みです。
ケアする人も家族も、幸せになるための支援が進むことを切実に祈るばかりです。
『ヤングケアラー 介護する子どもたち』 毎日新聞取材班 著 毎日新聞出版 2021年
資料コード:23334154 請求記号:369/655 OPAC(所蔵検索)
(県立図書館:猫になりたい)