論文というと難しく堅苦しい内容で、そのテーマについて研究していないとなかなか読む機会がないと思います。
本書は"論文は読みにくい"という、そんな考えを変えてくれます。素朴な疑問を大真面目に追求した実在の論文を厳選し、その論文の解説と関連する研究を紹介しています。
私たちが日常でふと疑問に思う些細なことを、時間と労力をかけて調査している研究者がいると思うと、「ありがとう...」と不思議と感謝したくなるのは私だけでしょうか?目次を見るだけでもおもしろいのですが、その中から3つの論文をご紹介します。
「スマホの会話を聞くのは ふつうの会話を聞くより迷惑」
私も以前から不思議に思っていました。電車で人と人が会話している姿を見ても全く気にならないですが、たとえ口元を隠し小声で会話をしているとしても、一人で電話をしている人を見かけると少し不快に感じます。ハンズフリーで会話している人を見ると、「大きな声でひとりごと言っている...」と驚いてしまうと同時に、やはり少し不快に感じます。それはなぜなのか?研究結果の最後の一文に妙に納得しつつ、笑ってしまいました。
「ポケモンGOは健康を増進させる」
サービス開始当時の熱狂ぶりがうかがえるような、ポケモンGO(スマートフォン向け位置情報ゲームアプリ)を研究対象にした論文です。
私の知人夫婦もポケモンGOを始めたところ、休日は二人でポケモン採集に出掛けることが夫婦共通の趣味となり、たくさん歩くことで足の調子が少しずつ良くなり、歩ける距離が伸びたと話していました。
身近に実例があることで、納得しながら読む事ができました。
「マーラーを聴くと坂道は急に見える」
この論文では、実験参加者を2グループに分け、坂道の傾斜を認知する実験について書かれています。
ハッピーな曲(モーツァルト「アイネクライネナハトムジーク」)を聴いたグループよりも、落ち込む曲(マーラー「交響曲5番アダージェット」)を聴いたグループの方が、坂道の角度を急であると報告した、とあります。
桜木町駅方面から神奈川県立図書館へ向かう道に、紅葉坂というかなり急なのぼり坂があります。
神奈川県立図書館へお越しの際は、ハッピーな曲を聴きながらご来館ください。
疑問に思っていたことが解決する論文や、新たな興味が湧くような研究に出会える一冊です。
『すばらしきアカデミックワールド オモシロ論文ではじめる心理学研究』 越智啓太 著 北大路書房 2021年
資料コード:23334105 請求記号:140.4/176 OPAC(所蔵検索)
(県立図書館:絶対にマーラーを聴きながら出勤しない!)