県立図書館の新規事業「Lib活」のひとつである「after5ゼミ」が始まりました。
平日は図書館に寄る時間がないという方にもご参加いただけるよう、閉館後の19時からスタートする4回のゼミと、日曜の午前中に行う4回のブッククラブがセットになった講座です。
一方的に講演を聞くだけでなく、参加者が対話から学んでいくという初めての試みに、どの位応募があるだろうと不安がありましたが、30名の定員に80名近いお申込みをいただきました。ご応募いただきありがとうございました。
残念ながら今期にご参加いただけなかった方にも、ゼミの様子が伝わるようレポートしていきます。
2022年11月25日(金曜日)、第1回は日本仕事百貨の代表であるナカムラケンタさんに講演をお願いしました
ナカムラさんは、日本仕事百貨(外部リンク)を運営する株式会社シゴトヒトの代表をされています。
いろいろな生き方や働き方を届けるために、編集・デザイン・場づくりなどを通して活動されています。
東京芸術大学の特任教授である伊藤達矢さんにファシリテーターをお願いし、対話をしながらお話を伺いました。
(写真左から:ナカムラケンタさん、伊藤達矢さん)
最初に、ナカムラさんが取材を行った、様々な仕事に関わる人についてお話がありました。
日本仕事百貨で紹介する求人は、依頼者からの情報提供だけでなく、実際に現場に取材に行き記事にしていると聞いて驚きました。これまでナカムラさんが取材した件数は、15年間で1,000件近くになるそうです。
その中でも、「日光珈琲」を営んでいる風間さんのお話が印象に残りました。
風間さんは大学を卒業後就職しますが、思うようにいかず半年で辞職します。その後バーテンダーの仕事を見つけますが、お店が施工中で、一緒にお店を作るところから参加することになります。
バーに勤めるまでは地元はつまらないと思い込んでいた風間さんでしたが、実際にお店を作った体験とバーに来る人との交流から、地元で何か始めたいという気持ちになったといいます。自宅を改装してカフェを始め、今では6店舗を経営しているそうです。
どこかで、仕事がうまくいっている人は「これがやりたい」という強い意志を持って事業をスタートしていると思ってしまいますが、風間さんのように手を動かし実感しながら楽しい事を見つけ仕事にする道もあるのかと、お話を聞いているだけでもわくわくし、実際に日光珈琲に足を運びたくなりました。
伊藤さん「ナカムラさんはなぜこのように多様な働き方をする人々に出会い、それを仕事にしようと思ったのでしょうか。」
ナカムラさん「私は元々建築を学んでいて、人の場所を作る仕事をしていました。自分の場所を作ることを模索し、不動産の仕事に携わっていたこともあります。一番のきっかけになったのは、週に6日通っていたバーでした。今日も車でなかったら野毛に寄りたいところです。皆さん野毛はお好きですか?(一同頷く)最高ですよね。
自分は何故そのバーに週に6日も通っているのか考えました。お酒も食事も美味しい、内装も居心地が良い、でもそれだけじゃない。ある日、バーテンダーや常連さんに会いに行くのが目的だと気付きました。場所は人だと。そこから場所と人を結びつけることが出来ればと思い始めました。
建築家ももちろん大切な仕事です。例えば、神奈川県立図書館をデザインした前川國男さんも素晴らしいですが、僕は中で働く司書のみなさんが素晴らしいと思っています。場所と人をうまく結びつけることが出来れば、みんな生き生きと仕事をすることができると思い、求人の仕事を始めました。」
この言葉にはスタッフ一同、顔には出さずに静かに感動しておりました。
ナカムラさんの講話を受けて、ゼミ生に3、4人のグループを作って話し合っていただく時間を作りました。
after5ゼミは、年齢も職業も経験も異なる人たちが、ゼミや読書から自分の考えを伝え合い、少しずつ価値を創造できるような場になることを目的としています。ゼミ生同士の会話が盛り上がったところで、ナカムラさんに聞いてみたいことを伺いました。
【成功した例ばかりでなく、失敗例も聞きたいと思いました。グループでも「自分でやりたいことと現状が結びつかない、踏み出せない」という声がありました。ヒントがあれば嬉しいです。】
ナカムラさん「紹介した人達も、決して順風満帆だった訳ではありません。小売りで失敗した事をきっかけに飲食に切り替えて軌道に乗った人、借金を抱えて苦労された人もいました。個人差はありますが、失敗した時にさっさと諦めて次の一手を考える人が多かったかもしれません。Aが駄目ならB、次はCとやっているうちにどこかで手ごたえがあり、Aは試行錯誤の時間だったと捉えるような、前向きな考え方が共通しているように思いました。」
伊藤さん「私も様々なプロジェクトに関わっていますが、プロジェクトを進める際に生まれるデコボコやつまずきも、一段階進むと必要なプロセスだったと思えます。"不必要"や"無駄"も理にかなったもので、それも価値だと思います。」
ナカムラさん「人に指摘されて『あれは失敗だったのか』と思う位、すっかり忘れていることもあります。失敗するかもしれないけれど、打席に立ってバットを振ってみる。風間さんの場合は、最初に自宅をカフェにする方法をとりました。借金は一概に悪いものではないけれど、額が大きすぎて行き詰まらないよう、最小のリスクで動くのもひとつのやり方だと思います。」
【仕事と場所をすれ違いなく結びつけることが出来れば生き生きと働けるというお話がありましたが、コロナ禍ではテレワークなどで人と場所が切り離されていると感じます。その傾向は好ましくないと感じていますか。】
ナカムラさん「個人的には、定例的な事はオンラインでも動きますが、新しいことが始まるのは対面の時が多いと感じます。脳のミラーニューロンは相手の感情やふるまいに共感する細胞だといわれていますが、相手の気持ちが伝わって事が動くことがあります。私は人に会いたいと思っています。」
その他の質問にも丁寧な回答をいただきました。
現在、経営に回ることが多いというナカムラさんですが、言葉の端々から取材をすること、人の話を聞くことが好きという気持ちが伝わってきました。
「言葉を引き出し、根っこに至る部分を探して、必要としている人に届くように見立てることが楽しい」という言葉に、"生きるように働く"ヒントがあると感じました。
ゼミ後のアンケートからは、もっと対話の時間が欲しいというご意見が多く見られました。これから行うブッククラブで実現していければと考えています。今期のゼミが、自分の心が動く仕事、お金だけではない何かを求める仕事を考えるきっかけになれば幸いです。
(県立:イベント担当)