コロナ禍でしばらく会えていない知人と、文通をする機会がありました。
手紙を受け取ると、封筒に貼られた切手のデザインに思わず目が留まります。
四季を感じる自然、美味しそうな食べ物、可愛いキャラクター。
相手の好きなものを思い浮かべながら、切手を選ぶ時間も楽しいひと時です。
本書は「切手ビジュアルヒストリー・シリーズ」の1巻目として刊行されました。
世界初の切手、「ペニー・ブラック」の誕生に至る歴史を取り上げています。
「ペニー・ブラック」とは、その名の通り、黒色で刷られた1ペニーの切手で、中央には英国を象徴するヴィクトリア女王の横顔が描かれています。
前半では、「ペニー・ブラックを解剖する」と題し、初心者がどのような点に着目すべきか解説しています。
例えば、「ペニー・ブラック」には12種類の"版"があります。版を見分けるためには、切手の左下と右下に入れられた「チェック・レター」と呼ばれるアルファベットの傾きや形の違いを調べるそうです。細かな違いを見分けるのは難しいですが、切手の奥深い楽しみ方を垣間見ることが出来ます。
後半の「ペニー・ブラックとその時代」では、いよいよ英国における郵便の歴史を辿っていきます。
17世紀前半、国家の財政難により王室駅逓が民間へ開放されます。それ以降、郵便制度が政治との密接な関わりを持ちつつ、紆余曲折を経て整備されていきました。やや複雑になりがちな政治史も、郵便という観点からひも解けば、自然と流れが整理されていきます。
そして、19世紀に郵便改革が訪れます。この改革により、差出人が郵便料金を支払う前納制が提案され、「切手」のアイディアが広く受け入れられるようになったといいます。切手を貼って投函する仕組みは、確実に配達されるという保証があってこそ成立するものです。
郵便制度の起源から歴史を辿ってくると、切手の登場に対して感慨深いものがありました。
「ペニー・ブラック」が誕生してから、およそ180年。メールやSNSで手軽に連絡できる時代においても、切手はなお人を惹きつける力を持っていると思います。その原点を本書で探ってみてください。
『英国郵便史ペニー・ブラック物語』内藤陽介著 日本郵趣出版 郵趣サービス社 2015年
資料コード:22845184 請求記号:693.8/175 OPAC所蔵検索)
(県立図書館:お気に入りの切手は天体シリーズ)