公開

星はまたたき物語は始まる書影突然ですが、皆さんはご自分のことを文系・理系のどちらだと思いますか?

わたしは自分のことを文系だと思っているのですが、同じく文系の方の中には「理系ジャンルに苦手意識がある」と思っている方もいるのではないでしょうか。


社会に出て仕事をしていると、結局どちらの知識も必要になる場面に出くわすことがあります。

わたしは過去に、機械関係の文章を書く仕事をしていたことがあります。いきなり意味不明の専門用語が飛び交う環境に置かれ、心が折れそうにもなりましたが、不思議とそれらの意味がだんだんわかってくるにつれ、新しいものの見方を知ることや今まで持っていた知識が徐々に繋がっていくことの面白さも感じました。

今回紹介するのは、そんな種類の面白さを味見させてくれる本です。


いくつかのテーマに沿って物語を紹介し、物理学者である著者の知識や発想をまじえながら、科学と文学の隔てなく多面的に作品を味わう試みをしています。

例えば、3章「星の船とウサギの罠」で取り上げている作品の中に、池澤夏樹著の小説『星に降る雪』があります。主人公が勤めている天文台「スーパーカミオカンデ」については、レンズ状のものが内部に沢山付いている写真を見たことがあり、ニュートリノという物質を観測しているという説明を読んだことがあっても、それが一体どういったものなのか、わたしは今までピンときてはいませんでした。

作中では、その施設にとって「地球は自分たちを埋め込んだ透明な球体」であり、「宇宙全体を見るために実際は地下千メートルの闇をじっと見ている」と表現しているそうです。さらに著者の補足によると、ニュートリノという粒子は、地球を含め「あらゆる物質を素通りしてしまう」が、「確率は低くとも、水の中でニュートリノと原子核の衝突が起こり得」、その衝突で青白い光が発生することでその存在が観測されるそうです。わたしはこれを読んではじめて、スーパーカミオカンデが深い地下に埋まっていることを知り、表現からそのすごさや魅力までもが同時に伝わってくる感じがしました。


他にも、4章「ライオンの心 ロボットの心」では、きむらゆういち著の童話『あらしのよるに』を取り上げています。

この作品はオオカミとヤギが出逢い友達になるというお話ですが、現実にメスライオンがオリックス(ウシ科の草食動物)の赤ちゃんを育てた事例を紹介しています。そこから話は、動物にも心はあるようだ、では心というものはどこにあるのかという問いへと繋がっていきます。


そのほか、小惑星が地球に衝突するとき人々はどんな選択をするのか、亡き人の思いを知るラブレターについてなど、引用作品そのものに興味をそそりながらも、周辺知識も調べてみたくなるような内容が詰まっています。巻末には紹介作品一覧もついており、次なる楽しみにも繋げることができます。

まさに作者も言っているとおり、本来学問というのは文系・理系の隔たりなく「物事を問う楽しみ」「面白さを味わう知的営み」であることを思い出させてくれる本です。


最後に、司書だからこその感想として、この本は図書館そのものに似ている気がします。

図書館は様々なジャンルの資料、知識が集まっている場所です。知りたいことが明確に定まっていなくても、書架を見て歩けば「世の中にはこういうことを研究している人がいるのか」「こんな角度でまとめてある本もあるのか」という発見があります。

もしお時間があれば、図書館で目的の資料のお隣の列や、普段は見ないようなジャンルの書架もぶらぶらと眺めてみてはいかがでしょう。

新しい興味との出会いが待っているかもしれません。


『星はまたたき物語は始まる 科学と文学の出逢い』 小山 慶太 著

春秋社 2009年 資料コード:81363038 請求記号: 404/284 OPAC(所蔵検索)


(県立川崎図書館・最近マダミスにはまりました)