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『イノベーターズ1・2 天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史』 ウォルター・アイザックソン 著

公開
イノベーターズ書影 今や私たちの生活になくてはならないコンピュータにインターネット。一体誰が発明したのでしょうか。

スマートフォンならスティーブ・ジョブズじゃないの?と言いたくなる私ですが、答えは違うようです。

コンピュータもインターネットもスマートフォンも、誰かひとりが生み出したものではなく、ほとんどがコラボレーションのなかから生まれてきたそうです。

今回ご紹介する『イノベーターズ』は、どのような人々によってどんなコラボレーションによる創造が成されたのか、そんなデジタルの歴史を書いた本です。


そもそも、デジタルに関わる人たちというと理系の人々をイメージしてしまうのですが、本書が全編を通して繰り返し伝えているのが、「芸術と科学の交差するところにイノベーションが生まれる」という考え方です。

科学一辺倒ではなく美を大切と考える人々こそがデジタルの歴史を生み出してきた、と。

レオナルド・ダ・ビンチやアインシュタイン然り、そしてスティーブ・ジョブズも子どもの頃は自身を文系だと思っていたというエピソードが書かれています。


面白いのが1833年にまで遡る第一章です。芸術と科学の融合を体現した女性、信奉者からは「世界初のプログラマー」と称されるエイダ・ラブレス。

計算機械の概念を超えて数だけではなく、音楽や美術作品も処理できる可能性を見出したのです。機械式の計算機に魅了され、今日のコンピュータのプログラム、あるいはアルゴリズムと呼ばれる仕組みを解き明かしました。時代的にも出来事としても遠い世界の人物に感じられますが、本書はエイダを1人の女性として生き生きと綴っています。

エイダの父親はかの有名な詩人のバイロンですが、「狂気あふれる悪漢」とも言われ、色恋沙汰の尽きない彼がどのようにエイダの母となる女性と出会ったかドラマチックに書かれています。

ロマン主義に傾倒する父親のようにしてはならないという考えから数学教育を施す母親、「アヘンのせいか血筋のゆえか、おそらくその両方だろうが」自身を過大評価し天才と自称するエイダも、晩年にはギャンブルとアヘンにのめり込み「男に恐喝され、家宝の宝石まで質入れする始末」と、なかなかの破天荒な人生でした。だからこそ忘れ難い人物として記憶に残るのかもしれません。

父親を反面教師としたからこそ、エイダは数学の道を歩むことになりましたが、バイロンから受け継いだ詩的なものの見方で数学の方程式に美を見出したのでした。そんな父と娘でしたが、エイダが生まれてわずか1か月ほどで夫婦仲の悪化により生涯離れ離れのまま、バイロンは36歳で亡くなります。

皮肉なことにエイダがこの世を去ったのも36歳でした。一度も言葉を交わすことのない親子でも血は濃かったということでしょうか。


2冊からなる本書は、登場人物たちが身近に感じられ、あっという間に読み終わります。

そこにはさまざまな人間ドラマがあり、変わり者だったり頑固だったり内気だったりした人物がチームワークによって才能が引き出されるといった例が多く見られます。エイダが科学に魅了されたのも、コンピュータの父と言われるチャールズ・バベッジとの出会いがあったからでした。

のちにバベッジが新しく発明した計算機械を、唯一理解したのはエイダでしたが、全てがうまくいったわけではなく、バベッジは発明品を完成できないままこの世を去ります。それでも二人の交流がデジタル史に何かを残したものであることに変わりはありません。

よい「ものづくり」は、決して一人で成すのではなく、よいチームワークが大切なのだと思いました。


今、手にしているパソコンもスマートフォンも、決して無機質な機械というだけでなく、その背景に人間臭い物語を経てこうして存在しているのかなと、しみじみしてしまう私です。


『イノベーターズ 1・2 天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史』

ウォルター・アイザックソン著 講談社 2019

1 資料コード:81729469 請求記号:A2/007.2/5/1 OPAC(所蔵検索)

2 資料コード:81729477 請求記号:A2/007.2/5/2 OPAC(所蔵検索)


(県立川崎図書館:サーモンとたまごのサンドイッチ)