スペインの有名な建築家は誰かと問われれば、ほぼ100%の人が「ガウディ」と答えるのではないでしょうか。
いまなお建築中の「サグラダ・ファミリア」はあまりにも有名です。
私自身数年前にそこを訪れましたが、光の差し具合で色合いを変えるステンドグラスの美しさ、建物の細部に目を凝らせば生き物のような息吹を感じる独特な曲線美に圧倒されました。
本書でガウディと比較される人物の名は、「リュイス・ドメネク・イ・モンタネール」。
「誰?」と首を傾げる人が多いでしょう。ですが、代表作である「カタルーニャ音楽堂」や「サン・パウ病院」の名を聞けば、その知名度ゆえに彼の才能をぼんやりながらでも推し量れるはずです。
1849年(あるいは1850年※)、バルセロナの名家に生まれたドメネクは、建築・歴史・政治分野等に精通し、当時最高峰の芸術家として名を馳せ、大勢から尊敬されていました。
彼の手がけた作品はどれも繊細で上品、人々の荒んだ心を癒してくれるような見事な建築作品ばかりです。驚くべきことに、ドメネクはバルセロナ建築学校で25歳という若さで教授となり、3歳(もしくは2歳※)年下の苦学生であったガウディは彼の教え子でした。
裕福で才能があり、活動的で幅広い人脈のあったドメネク。一方、幼少期は病弱で親しい友人はおらず、才能はあったけれど貧しく、なかなかチャンスを掴めなかったガウディ。
本書では、いわゆる人生の「勝ち組」であったドメネクの名が何故埋もれてしまったのか、彼らの生い立ちからその生き様までを丁寧に追いかけ、読み解こうと試みています。
ところで、「サグラダ・ファミリア」は1882年に着工し、近年まで無許可と知らずに建築を進めていたそうですが、130年余りの時を経て最近ようやく建築許可を得て、ガウディ没後100年にあたる2026年に完成予定、とのことです。
その日が待ち遠しい反面、いつまでも未完成であって欲しいような複雑な気持ちがします。
建築作品に限らず、素晴らしい美術品の数々、美味しい料理、異文化が融合する魅力的な街、年間を通して気候の良いスペイン。
ぜひコロナ終息後の旅行先候補に加えてみてはいかがでしょうか。
※「リュイス・ドメネク・イ・モンタネールが生まれたのは一八四九年十二月二十七日(一八五〇年十二月二十一日とするとする説もある)旧市街のノウ・デ・サン・フランセスク通り十五番地である。」本書より
『ガウディになれなかった男 歿後、不遇の天才に屈したバルセロナ建築界のドン』 森枝雄司著
徳間書店 1990年 資料コード:80349954
請求記号:ケン/289.3/50 OPAC(所蔵検索)
(県立川崎図書館:つぶあん派)