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講座チラシ

昨年度に引き続き、講座「図書館で哲学を~withコロナ時代の哲学~」をオンライン(Zoom)開催しました。

この講座は、初心者向け哲学講座として20211月に第1回が開催され、その後第2回、3回と続く全3回のシリーズ企画です。


「哲学」と一口に言っても、その内容は多岐にわたり、イメージする事柄は人それぞれではないでしょうか。

こちらの講座では「公共哲学」を取り上げ、現代の課題(新型コロナウイルス感染症)と哲学という組み合わせから、「withコロナ時代の哲学」を考えます。第1回に続き、講師には哲学博士で星槎大学学長の山脇直司氏を迎え、コロナ禍のさまざまな課題について、各回のテーマに沿ってご講義いただきました。


令和3627日に開催した第2回は「政治的リーダーシップ、メディア、民主主義~それらの連関を再考する」をテーマに、3部構成で行われました。

哲学史に残るプラトンやマキャベリなど、一度は耳にしたことのある哲学者たちの古典的な遺産から始まり、リップマン、デューイといった哲学者たちへ歴史の流れを踏まえつつ、「政治的リーダーシップ、メディア、民主主義」のテーマをもとに現代のニュースで取り上げられるキーワードに関連づけて解説していただきました。

多くの哲学の古典の概要に触れる機会にもなり、読書につながる講座内容でした。


第3回「多文化共生の哲学-国際的、国内的展望の中で考える」をテーマにした講座は令和31212日に開催しました。前半は人権宣言や黒人公民権運動などに関連する実際に起きた出来事を取り上げ、国際的な歴史の流れに沿って多文化主義の台頭や、それにかかわる哲学者の思想を交えて解説していただきました。

後半では、日本における多文化共生の理想と現実と題して、共生の概念から現状の問題について、また実際に行われている取り組みについて事例を用いてお話しいただきました。

特に神奈川県内のいちょう団地に関する内容を多く取り上げていたこともあり、多文化共生社会の現状をより身近に感じた方も多かったのではないでしょうか。


第3回参考資料

国際的・国内的な観点から、文化の多様性と基本的人権の尊重を両立させるためにはどのようなことが考えられるのか。講座の締めくくりには憲法97条をもとに現代の多文化共生の在り方について解説していただきました。



画像資料

『新多文化共生の学校づくり』山脇啓造 編著 明石書店2019

資料コード:60787322 請求記号:K37.1/277/2019 貸出不可 OPAC検索


『いちょう団地発!外国人の子どもたちの挑戦』清水睦美 編著 岩波書店2009

資料コード:23293541 請求記号:334.41/204 OPAC検索


事後アンケートでは、「多文化共生について学び考えることで理解も深まり、当事者意識が高まった」「今後も自分事として考えていきたい」といった感想をいただいており、今回のテーマについて考えていただく良いきっかけになったようです。

また、アンケート内でのご質問について山脇先生よりご回答いただきました。個別でのご返答が難しいため、こちらに掲載させていただきます。


〇受講者様のご質問

基本的人権の尊重によってある文化が否定され、劣っていると見做されることもまた差別的だなあと思います。

山脇先生の公共哲学に関する著書などを読んで勉強しようと思いますが、何か返答をいただければ幸いです。


  • 山脇先生からのご回答

今回の講演の根本テーゼ(きも)は「文化の多様性の擁護」と「基本的人権の保障」の両立でした。

したがって「基本的人権の尊重」と「他の文化を劣っているとみなすこと」は相容れません。

また、何度も繰り返しますが、人権という言葉はhuman rights という複数形の概念で、自由権と社会権に大別され、特に後者の中の生存権は最も基本的であることを頭に入れる必要があります。そしてそれは「他者の尊厳」を含む概念です。

ですから、私は基本的人権には「権利」でなく「権理」という日本語を当てるべきだと思います。これは、2008年秋に出版した『社会とどうかかわるか(岩波ジュニア新書)』で強調しているので、この本の一読をお勧めします。

また、多文化共生と少し焦点がずれますが、尊厳に関しては、『尊厳:その歴史と意味 (岩波新書 新赤版 1870)』という本を一読されるのがよいでしょう。


『社会とどうかかわるか 公共哲学からのヒント 岩波ジュニア新書』 山脇直司著 岩波書店 2008

資料コード:23238785 請求記号:361.1/194 OPAC検索


『尊厳 その歴史と意味 岩波新書 新赤版』 マイケル・ローゼン著 岩波書店 2021

資料コード:23235294 請求記号:311.15/7 OPAC検索


(県立図書館:イベント担当)