図書館で仕事をする醍醐味のひとつは、さまざまな書物に出会える楽しさです。
日々多くの本を目にしますが、どうしてもコンテンツを見たい、読みたいという本は、タイトルだけではなく装丁や挿画、紙の手触り、活字の種類や段組みなどのレイアウトに、心惹かれる味わいを持っているものです。
今回は、本にまつわる話が綴られたエッセイをご紹介します。
このエッセイは、タブロイド判のPR紙『出版ダイジェスト 白水社の本棚』のコラム「愛書狂」の連載が発端となり、新たな書き下ろしの一冊になったものです。
鶴ケ谷真一さんの編集者としての確かな眼と感性、そして静かな語り口が読む人を愉しませます。
収録された25篇の中から、掌篇 「ページのめくり方、東西」を取り上げます。
日本人と欧米人のページのめくり方には違いがある。それはなぜなのか。
観察を始めた著者は考察を重ねます。和書と洋書、縦組と横組、本の天と地や小口、章の題名などを記した柱の位置、最終行を読み終えた視線。物証も交え、本づくりをしてきた著者ならではの興味深い考察が語られます。
明治の洋画家 黒田清輝の「読書」(1891年)外部リンク は、印象派的な外光表現をとり入れた作品としてよく知られています。著者は、この絵がきっかけでページのめくり方が気にかかるようになったのですが、確かに女性の指先がまさにページをめくらんとしているのです。
読書をテーマにした絵といえば、フラゴナールやルノアール、喜多川歌麿など数多くありますが、ページをめくろうとする姿は思いのほか描かれていないものです。
好奇心をそそられた私は、ページをめくる指先を探し続けています。最近ではフィンランドのヘレン・シャルフベックの「本を読む少女たち」(1907年)に天と小口にかける指先をみつけ、喜びをかみしめました。
タイトル『書を読んで羊を失う』とは、『荘子』にある「讀書亡羊」の故事によるもの。
読書に夢中になるあまり、羊がどこかに行ってしまったことに気づかない愚か者を喩えています。
しかしながら、それほどまでに読書が心を捉え、その格別の味わいを知ったとすれば、羊飼いは懲りもせずにまた読み耽るに違いありません。
本にまつわる話を読み、想像の世界に入り込んで時を忘れた迷える子羊が一匹、ここにいます。
『書を読んで羊を失う』 鶴ケ谷真一著 白水社 1999年
資料コード:21281886 請求記号:019.9/12 OPAC(所蔵検索)
『書を読んで羊を失う 増補』 鶴ケ谷真一著 平凡社 2008年
資料コード:22213847 請求記号:019.9/12A OPAC(所蔵検索)
黒田清輝の「読書」(1891年)画像
出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム ColBase
URL:https://colbase.nich.go.jp/?locale=ja
(県立図書館:オールド・イングリッシュ・シープドッグ)