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『君主論』表紙の画像 読書は学びの基本であり、大人にとって古典の読書経験は「教養」という武器(ポイントの高いアイテム)にもなります。わかってはいても、何を読めばよいのか悩んでいるときに頼りになるのが読書案内です。
図書館の講座で配付される参考図書リストも、専門家である講師や司書が選んだ本が一覧でき、本を選ぶ時間を短縮できるショートカットとして使えるので、忙しい方には向いているかもしれません。
そのような、講座で配付された参考図書リストに掲載されていたのが本書です。

講師のお墨付きに背中を押されて読み始めると、古典の名著ということで難解な表現を覚悟していましたが、思っていたより読みやすい。表現がまわりくどくなく明快、言いたいことも白黒はっきり。
視点がズバリ「君主」であり、どのように民衆をコントロールし、どのようにライバルとの戦いに勝ち、トップに君臨しつづけるかということにテーマが絞られているため、構成は単純といえます。

原著の印刷本初版は1532年刊行であり、500年近く読み継がれてきた古典です。
岩波文庫では400ページ近くありますが、本文と訳注がほぼ半々です。まずは本文を通読し、もう一度訳注を確認しながらじっくり読むという独学ならぬ「読学」にも適していると思われます。
訳注には、「マキアヴェッリの論述は明快であり、対象を一刀両断し、二項に分け、曖昧な中間項の存在を許さない。」とあり、曖昧さの排除こそが、時代が変化してもわかりやすさを維持している要因と考えられます。

女性に対する考え方など、現代とは背景が異なる点もありますが、2021年でも身に染みる内容が多々あります。
例えば、「第二一章 尊敬され名声を得るために君主は何をなすべきか」の中では、「自分の市民たちを励まして、商業にせよ、農業にせよ、人びとの他のいかなる職業にせよ、安んじて彼らが各自の生業に専念できるようにしなければならない。」と指摘したうえで、「一年のうちの適当な時季に、祝祭や興行を催して、民衆の関心をそちらへ逸らせるようでなければならない。」とあります。君主目線のこの一文に、500年前から変わらない民衆であってはいけないと、自戒させられました。

また、「第二五章 運命は人事においてどれほどの力をもつのか、またどのようにしてこれに逆らうべきか」には、「その君主が幸運に恵まれたのは、彼の行動様式が時代の特質に合っていたためであり、同様にして不運であったのは、彼の行動が時代と合わなかったためである。」という一文があります。
一貫して君主目線の本書の終盤に、「時代を捉えて行動様式を合わせればチャンスはある」という、すべての人に対する応援メッセージが隠されているように感じ、マキアヴェッリに少し親しみを覚えました。

有名な「愛されるより恐れられろ」という表現ですが、「第一七章 冷酷と慈悲について。また恐れられるよりも慕われるほうがよいか、それとも逆か」の内容が該当していました。
これぞ『君主論』だと思わせる明快な一文ですが、実行は難しいものです。
「君主は、慕われないまでも、憎まれることを避けながら、恐れられる存在にならねばならない。なぜならば、恐れられることと憎まれないことは、充分に両立し得るから。」

『君主論』 マキアヴェッリ著 岩波書店 1998年
資料コード:21054283 請求記号:イ311/マ OPAC(所蔵検索)

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