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表紙の画像(『家事労働ハラスメント―生きづらさの根にあるもの』竹信三恵子著).jpg

現在、コロナ禍で否応なく、在宅時間が増加し、家で生活を営むにあたり、どうしても必要な労働の多さに、初めてお気づきになった方々も少なくないと思います。

また、これまでも当たり前のように家事を行っていた方々も、同居住人の在宅時間が今まで以上になったことで家事労働がかなり増加した事と思います。

こうした家事労働は生きていく上で誰もが行わなくてはならない事であるのに、見えないものとされることが多く、ましてや賃金として評価されることはありませんでした。


この本では、その家事労働が、現代社会の生きづらさの根本原因だと教えてくれます。

「家事はお金では測れない神聖なもの」や「家事は創造性のいらない単純労働」と両極に評価される事がありますが、どちらにしても対価の要らない無償労働とされてきました。1日24時間の内、長時間を対価のない労働に費やせばその人は自立して生活していけません。

しかし、核家族化や高齢化により、それを担う家族の育児や介護の負担は増えるばかりです。


一方、グローバル化による仕事の流失、終身雇用や年功序列型の雇用形態が見直され、社会全体が不安定です。これまで通りに働いていても、自己責任を盾に誰もこれまで通りの生活を約束してくれません。雇う側にとって都合の良い非正規社員が増え、家庭内では無償労働と扱われた、保育や介護、調理に関わる労働は家庭の外に出ても、賃金の評価が低く、就労者の生活の安定がないがしろにされがちです。このままでは、ワーキングプアが増加の一途をたどります。


著者は、海外での取り組みを現地で取材しています。オランダでは、以前の日本と同じように「女性は家庭で育児」「男性一人で家族全員を養う」の構造を取り、一時は欧州の病人とまで言われていましたが、社会構造を変化させていきました。また、スウェーデンでは、女性議員を増やし、公的サービスによる支援に無償労働の肩代わりを求めました。また、自身のシンガポール赴任時の、家事労働を移住外国人の住み込み家政婦に求めた経験についても述べています。


本書は、雑誌「くらしと教育をつなぐWe」(女性関連資料室1 ZW/146)1999年から2001年まで、寄稿された「家事神話-女性の貧困のかげにあるもの」という連載が土台になっています。雑誌の貸出はできませんが、県立図書館内にてご利用になれます。


現在は、育児も介護も担っていない方々も、この本をきっかけに、家事労働を自分ごととして捉える事で、デフレからの脱却、税収の増加、少子化や離婚率・孤独死の減少した、未来に希望を持てる誰もが生きていきやすい、子どもたちに誇れる社会作りにつながるのではないでしょうか。

ニューノーマルとは、当たり前は当たり前でないこと、既成概念を疑い、変化を受け入れることであると思います。


『家事労働ハラスメント―生きづらさの根にあるもの』 竹信三恵子著 岩波書店 2013

資料番号:111078911 請求記号:366.8/406 OPAC(所蔵検索)


(県立図書館:本は、世界とつなぐ窓)