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かがみの孤城 画像.jpg 家と教室が世界のすべてのように感じた子どものころに、ふと気持ちが引き寄せられることがあります。広い教室の中、自分に与えられているテリトリーは小さな机ひとつだけ。でも、その小さな居場所の上にページを開けば、そこには広く深い別の世界があることを、私たちは知っています。


この物語は、主人公の安西こころが、学校に行けなくなったところから始まります。

きっかけはクラスメイトに嫌がらせを受けたこと。学校はこころにとって安全な場所ではなくなり、けれど心配する両親には本当のことを言えずにいました。


両親ともうまくいかず、部屋に閉じこもる日々が続いていると、ふと部屋にあった姿見が光っていて、こころが触れるとあっという間に体が吸い込まれて行きます。

気がつくとそこには洋風な城と、狼の仮面を被った小さな女の子がいました。その城には、こころと同じ年頃の子どもたちが7人集められ、狼面の女の子に「ここは願いが叶う城。願いを叶えられるのは、"願いの部屋"に通じる鍵を見つけられた、たった一人だけ」と告げられます。


...と、ここまではよくあるファンタジー小説のようなあらすじですが、この不思議な城には不思議なルールが設けられています。城と現実は同じ時間が流れており、自宅は鏡を通じて自由に出入りできます。ただ、城が開くのは朝9時から夕方17時まで。願いの部屋の鍵探しも、期限は翌年330日までの約1年間。なんだかまるで学校のよう。

そして、城に集められた7人にはある共通点がありました。それは学校に行けていないということ。初めはぎこちなかった7人も、城での時間を共に過ごすうちに、それぞれの持つ苦しさをお互いに理解し始めます。


もうひとつ、この物語には "喜多島先生"というキーパーソンがいます。彼女は、学校に行けないこころを見かねた両親が連れて行った、子どもが通うフリースクール「心の教室」カウンセラー。彼女は両親にも理解してもらえず傷ついたこころに、「あなたは絶対に悪くない」と寄り添い続けます。


城でフリースクールの話をしたところ、不思議なことに、城でしか会うことのない彼らのうち何人かも、喜多島先生と会ったことがあると言うのです。

現実では学校に行けていない7人だけど、もし同じ世界に住んでいるのなら、ここではなくて、現実でも助け合えるのではないか。そう思った彼らは、1日だけ現実世界で会おうと決めます。


彼らは現実世界でも会えるのか。

そして、こころは願いの部屋にどんな願いを望むのか、その願いは果たされるのか。


子どもは大人が思うほど子どもではない。この物語に触れて、大人は私たちがかつて持っていた世界の続きを歩いているのだと改めて思いました。

私たちの前に城はない。けれど、彼ら7人に孤城があったように、本を開けば物語の中には別の世界が広がっていて、あちらとこちらを行き来することで、少しずつ救われる何かがあるのかもしれない。

彼らと同じ子どものあなたと、かつて子どもだった大人のあなたに、ぜひ読んでほしい1冊です。


『かがみの孤城』 辻村深月著 ポプラ社 2017

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(県立図書館:ぽんず )