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ここ数年「紙」を取り巻く環境が加速度的に変化しているように感じます。ペーパーレス、デジタル化、昨年7月にはデジタル教科書が学校現場で有効活用されるための方策が文科省の有識者会議で検討されはじめ、先日「脱ハンコ」の検討が話題になりました。


本書はとても重厚な「紙」の歴史書です。通説では105年に漢の宦官蔡倫により発明されたとされてきた紙ですが、実際には紀元前252年頃のものとされる世界最古の紙が中国桜蘭で発見されているそうです。アジアにはじまり中東、ヨーロッパ、アメリカで起こったさまざまな出来事を、その地域の民族性や生活様式、宗教などを交えながら「紙」を主軸に丁寧に著されており、歴史的背景の知識が浅くても興味深く読み進めることができました。


各地域の製紙がどのような需要から始まったのか、「紙」が印刷とつながったそれぞれの事情、「紙」の歴史から紐解かれる宗教改革やフランス革命、アメリカ独立運動については、今までとは別の側面を知る機会になりました。

終章では近年の「紙」を取り巻く環境やデジタル化についても触れられており、紀元前から1900年代まで「紙」で盛り沢山です。巻末には年表があるので振り返りやすく読書の手助けにもなると思います。


全体を通して著者が言い回しを変えながらも繰り返し伝えているのは、「新たなテクノロジーが古いテクノロジーと完全に入れ替わるということは歴史では滅多に起こらず、たいていは有効な選択肢がひとつ増えるにとどまる」ということ。社会の需要に対応しないテクノロジーは廃れているとしています。

201611月に出版された本書の終章で述べられている著者の見解と、2021年の現状を比較してみると、当然ながら相違がみられるところもあると思います。

それは、昨年世界的脅威となったウィルスの出現も少なからず影響しているように感じます。一寸先は闇、だからこそ備えておきたい。与えられた選択肢を自分の意志で選べるようにいろいろなものに関心をもっていたいと改めて思えた1冊でした。


『紙の世界史 歴史に突き動かされた技術』 マーク・カーランスキー著 川副智子訳 徳間書店 2016

資料番号:22910293 請求記号:585.02/10 OPAC(所蔵検索)


(県立図書館:老眼ってつらいのね。)