数年前、『お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか?』*という本を、その魅力的なタイトルに惹かれて手に取り、はじめて「ベーシック・インカム」という言葉を知りました。そのときは、何となくもやもやしたままあまり理解できた感じはしなかったのですが、このコロナ禍で雇用打ち切りになる人が増え、生活保護の受給者も増えている、そして経済学者の竹中平蔵氏がベーシック・インカムについて発言したことでにわかに注目が集まった、という昨今の状況から、また興味が湧いてきました。
「ベーシック・インカム」とは、(非常に簡単にまとめると、)生活に必要なお金が個人単位で全員に(子どもにも!)無条件で支給されるという社会保障の考え方で、日本語では「保証所得」「基本所得」などと訳されています。
この本は、そのベーシック・インカムについて、日本や海外の福祉の実情、どういう人たちがいつからこの考えを提唱しはじめたのか・どのような仕組みを考えているか、導入運動の歴史、「そんなことをしたら誰も働かなくなるのではないか」などの疑問への応答紹介など、"入門"にふさわしくさまざまな視点から書かれています。10年以上前の出版のために今の状況は描かれていませんし、経済学史がわからないとピンとこない部分なども多少はありますが、全般を知るにはよい本です。
わたしの印象に残ったのは、ベーシック・インカム制度を導入するメリットです。年金制度が不要になるとか、一人で養育をしなければならない人でも最低限の収入が確保されるので生活が安定するとか、個人単位の支給なのでドメスティックバイオレンスから逃れている人など家族単位ではサービスが届かない人でも受け取れるなどいろいろありますが、なかでもいちばん感銘を受けたのは、全員に支給されるものだから、特定の人がストレス(たとえば、生活保護受給に伴う恥辱感(スティグマ))を感じなくてよい、というところです。
ほかにも、AIに仕事を奪われる?ならそんなに働かない社会を考えれば?とか、「働かざる者食うべからず」という発想を変えようとか、これまで「当たり前」と思ってきたことに再考をせまられます。薔薇色のことばかりでないということもわかりますが、現実的でないかどうかも含めて、考えるために知ってみてほしいと思いました。
『ベーシック・インカム入門 無条件給付の基本所得を考える』 山森亮著 光文社(光文社新書) 2009年
資料番号:22286082 請求記号:364/391 OPAC(所蔵検索)
*『お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか?』 ※未所蔵
エノ・シュミット、山森亮、堅田香緒里、山口純著 光文社(光文社新書) 2018
(県立図書館:仕事、好き?)