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表紙の画像(『愛するということ 新訳版』エーリッヒ・フロム著)「愛」について、真剣に考えたことがありますか?愛をテーマにした歌や物語は世の中にたくさんありますが、表現の仕方も、感じ方も、人によってさまざまです。「愛」とは、一体何なのでしょう。誰もが納得するような答えは存在するのでしょうか。

この本の著者エーリッヒ・フロムは、「愛は技術である」と答えます。「愛」にとって重要なのは「愛される対象」ではなく「愛する能力」であり、「愛する」ためには音楽や絵画などの技術を身につけるのと同じように、十分な知識や不断の努力が必要だということです。現代の人々は「愛」の本質を見失い、不完全な愛を本物だと信じているけれど、成熟した「愛」は誰もが簡単に浸ることのできる「感情」ではないというのです。著者は「愛」を人間の歴史や社会構造の変化と絡めて、真面目すぎるほど真面目に論じています。

私がこの本に出会ったのは、十年前のことです。漠然と誰かに「愛されたい」と思い、「愛とは何か」という問いに対する安易な答えを求めていた私を、この本は見事に裏切りました。現代の社会を生きる人間にとって、「愛する」ということは、こんなにも難しいことなのか!自分の未熟さや浅はかさを厳しく指摘されているようで、途中まで読み進めた本を放り出したくなったのを覚えています。

十年たった今、改めて読み返してみても、やはり私の持つ「愛する能力」は未熟であると言わざるを得ません。著者いわく、現代社会で成熟した愛を実現するのはとても難しく、強い信念が必要なことです。でも、難しいからといって、諦めてしまって良いのでしょうか。私は私以外の人、そして自分自身に、真剣に向き合うことができているでしょうか。日々の忙しさにかまけて自分を見失い、大切なことを忘れてはいないでしょうか。読み返す度に、そんな思いがあふれてきます。そして、自分の生き方を見つめなおさなければと思うのです。一生傍に置いておきたい本です。

『愛するということ 新訳版』 エーリッヒ・フロム著 鈴木晶訳 紀伊国屋書店 1991年
資料番号:22030050 請求記号:141.6/157 OPAC(所蔵検索)

(県立図書館:温泉たまご)