神奈川県立の図書館

『チ。-地球の運動について-』魚豊/作・画

公開

近年日本のアニメの影響力は凄まじいもので、性別、年齢、人種、国境を越え、いまや世界中に多くのファンが存在します。アニメを見て日本語をマスターし、アニメの世界観を感じるために作品の舞台となった地を巡ろうと日本を訪れる、そのような熱烈な外国人もいると聞きます。
チ。さて、様々なアニメが放送・配信される中で、最近私が特に感銘を受けた作品は『チ。-地球の運動について-』です。以前から良質なアニメという噂を耳にしていたため、まずは1話だけでもと視聴してみたところ、その面白さに惹き込まれ、時間を忘れて魅入ってしまいました。そしてその感動をもう一度味わいたくなり、今度は当館が所蔵する原作漫画全8巻を借りて読んでみることにしました。実は当館では専門性の高い資料だけでなく、漫画を含め誰でも手に取りやすい理系分野の入門書も所蔵しています。


本書はヨーロッパにおいて天動説(地球が宇宙の中心にあって、他の全ての天体はその周りを公転するという説)が絶対の教義とされる時代を舞台に、まさに命を賭して地動説(太陽系の中心は太陽であり、地球は他の惑星とともに太陽の周りを自転しながら公転しているという説)を証明しようとする人々を描いた物語です。異端思想として迫害され、拷問や火刑の恐怖にさらされながらも、真理を追い求める信念のバトンが世代を超えて引き継がれてゆく、そのような熱い人間ドラマに非常に心を打たれました。舞台となる国は架空の設定ですが、地動説を弾圧したキリスト教会の歴史的背景という大枠のテーマは史実に基づいています。たとえば、偉大な天文学者として知られるガリレオ・ガリレイも実際に宗教裁判にかけられた学者の1人です。


この作品は科学と宗教の対立を描いていながら、同時に全編を通して「人はなぜ生きるのか」という根源的なテーマについて問うているように感じました。登場人物の中には12歳で地動説と出会い、のちに異端者として裁かれることになった少年もいます。一見するとあまりにも悲惨な運命ですが、彼の目には絶望も後悔もなく、決して消えることのない「知」への情熱と未来への希望に光り輝いているように見えました。もし私が主人公達のような過酷な時代を生きていたなら、命がけで真理を次世代へ繋ごうとするのか、平穏な日常を頑なに守り抜こうとするのか、あるいは疑いを持たずに生きるのか―。自身の選択と生き方そのものを深く問われ、考える、そのような貴重な時間を与えられたように思います。


(県立川崎図書館:明太子三昧)


『チ。-地球の運動について-』魚豊/作・画 小学館 2020年~2022年
請求記号:726.1/75/1~8 資料コード: 81779274(第1集)
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