「言葉」というと何を想像されますか。
私たちが日常的に使い、人と人を繋ぎ、時には人を傷つけることもある言葉。
今回は、そんな「言葉」にまつわる一冊をご紹介します。
タイトルの"ペーパーボーイ"(paperboy)とは、「新聞配達をする少年」を指す言葉です。
かつて、特にアメリカでは、少年のアルバイトとして新聞配達が一般的に行われていたそうです。
さて、物語の舞台は1959年、アメリカ南部の都市、テネシー州メンフィス。
両親と、住み込みで働くメイドのマームと暮らす主人公のヴィクターは、吃音症により言葉が詰まって出てこなくなってしまうために、人と話すのが苦手です。そこで、言いにくい言葉の前には「ssss(スススス)...」と少しだけ息を吐くようにしています。そんな彼が、夏休みの一か月間、怪我をさせてしまった友達の代わりに新聞配達のアルバイトをすることになりました。けれども、吃音症を抱える彼にとって、新聞を配達するだけでなく、新聞代を毎週集めなくてはいけない仕事は、簡単なことではありません。ところが、その新聞配達がきっかけとなり、美人だけれどどこか不安定な奥さん、いつもテレビをみている少年、危険な匂いのする廃品回収業者など、個性的な人々と出会います。
その中の一人、スピロさんは、本がたくさんある家に住むおじいさんです。他の大人と異なり、ヴィクターがどもってしまっても全く気にしないどころか、ヴィクターに哲学を語り、広く世界を知る楽しさを教えてくれます。
こうしてヴィクターは、吃音症に悩みながらも、自分のことを理解し見守ってくれる大人や友人に支えられながら、これまで知らなかった世界と出会っていきます。
新聞配達を始めて一週目の集金日の日、ヴィクターはスピロさんから、新聞代金とは別に、四分割された一ドル札を"特別報酬"としてもらいます。
そこには、「Student(学ぶ者)」と書かれていました。
スピロさんは、新聞配達をする残りの三週間、一週間ごとに一片ずつくれると約束してくれますが、果たして残り三つはどんな言葉なのでしょうか。
そして四つ目の言葉をヴィクターに伝えた後、「魂の四分割の意味を理解するよう努めたまえ。」(p.259)という言葉を残して、スピロさんは旅に出てしまいました。本書の訳者あとがきでは、著者はその言葉について、「四つの言葉は、人が満ちたりた人生を送るのにどれも欠かせない四つの側面である」(p.290)と語っていたと書かれています。
皆さんなら四つの言葉をどのように受け取られるでしょうか。
本作品は、自身も吃音者である著者が、自らの子ども時代の経験をもとに書いた作品です。吃音者理解のための啓蒙活動も行う当事者だからこそ、心の中にある声にできない言葉を抱えたヴィクターの心理や、周りの人たちの態度などが真に迫って感じられます。
そして私たちも、思いをうまく言葉にできずに誤解を与えてしまったり、意図せず他者や自分を傷つけてしまったりすることもあります。一方で、言葉に救われることもたくさんあります。
「ssss...大切なのはなにを言うかで、ssss...どう言うかじゃないんだ」(p.280)
言葉、そして言葉の集積体である本に日々触れる司書としても、常に立ち返りたい一冊です。
『ペーパーボーイ STAMP BOOKS Paperboy』 ヴィンス・ヴォーター/作 原田勝/訳 岩波書店 2016年
請求記号:933/ボ 資料コード:23596000 OPAC(所蔵検索)
(県立図書館:無類のうさぎ好き)