神奈川県立の図書館

『古くてあたらしい仕事』 島田潤一郎 著

公開

『古くてあたらしい仕事』書影.jpgこの本に出合った時の私は、人生半ばにして仕事に行き詰まり、続けるか否か、これから何をして働くかをぼんやり考えながら図書館にいました。そんな時にこの本のタイトルにひかれ、「古いのにあたらしいって何?」と思ったのが読み始めたきかけでした。



一般的に仕事は、企業などに就職することや自営業を思い浮かべますが、筆者の島田潤一郎さん(以下島田さん)は33歳で当時は珍しかったひとり出版社である株式会社夏葉社を立ち上げました。一度教科書会社に就職し、営業成績を上げていたにも関わらず、仕事のやり方が上司と合わず1年で退職しました。その後50社以上に応募するも不採用が続き自分は就職には向かないと気づき、会社を作ることにしました。



設立のきっかけは、自分が読みたいと思う本を作ること、また、仲が良かった従兄を亡くし、悲しむおじさん、おばさんのために本を作りたいという思いからでした。
ひとり出版社のため校正と製本以外のすべてを担当します。島田さんは、自ら全国の書店に足を運び、担当者に会いどんな本を置いてもらえるのかを決めています。書店の雰囲気や棚の様子などは、足を運ばなければ感じることができません。ネットやSNSが発達した現代では古い形の営業スタイルかもしれませんが、島田さんは自ら動くことで全国に人脈を作りました。書店で夏葉社の本を手に取った人がSNSに書き込みをしてくれるなど、応援してくれる人も増えていき、夏葉社は10年以上続いています。古い営業スタイルが、現代の新しい広告や集客手段と結びつき、私はこの本のタイトルが腑に落ちました。



島田さんは「小さな仕事は、小さなきっかけから始まる。だれかの一言から。ふと思い出した記憶から。昨日読んだ本の一節から。それは、市場に転がっているのではないし、業界内の特別なコネクションの中にあるのでもない。それは、人と人のあいだにある。だれかを、喜ばせたいという気持ちで、なにかをつくろうと考え、そのためだれかの力を借りる。それは僕の仕事のように形を伴うものかもしれないし、すぐに消えてなくなってしまうものかもしれない。でも、だれかのための仕事は、世の中がどんなに便利になっても、消えてなくなるものではない。それが、この仕事を10年続けた、僕の結論だ。」(p.210-211)と書いています。
自分が大切にしていることを持ち続け、そこに向かって行動することは一見、当たり前のようですが、行動に移せる人ばかりではないと思います。

島田さんは「本」が好きで自分と大切な人達のために出版社を作り、それを仕事にしました。「重要なのは、自分の能力を過大評価しないことだろう。かといって、見くびらないこと。だれかになろうとしないこと。これまでに培ってきた経験の延長線上で、すべてを考えるということ。(p.59)」と書いています。
私にとって「古くてあたらしい仕事」は、何かに迷った時に背中を押してくれる大切な一冊になりました。


(県立図書館:まだまだ人生の素人(しろうと))


『古くてあたらしい仕事』 島田潤一郎/著 新潮社 2019年
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