西洋の文化に触れるとき、そこにはたいていキリスト教の聖人がいます。
歴史を学ぶとき、芸術鑑賞をするとき、旅行をするとき。とにかく西洋ではあちらこちらで聖人の何やらに出くわします。
教会の名前は言わずもがな。地名では、セント~とかサン~とかサンクト~と付くのは聖人の名前ですし、観光名所や街の広場では聖人の像をよく見かけます。なかでもヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂とプラハのカレル橋の居並ぶ聖人像は圧巻の一言です。
さて、かように西洋では身近な聖人ですが、われわれ日本人にとっては、あまり馴染みのある存在ではありません。芸術作品はともかく、歴史や観光などで見聞きするものに聖人の名前が付いていても、それらはただの固有名詞であって、その由来となった聖人がどこの誰でどういう人物だったか、そこまで思いを馳せることはほとんどないでしょう。
もちろん聖人の知識などなくとも西洋文化は十分に魅力的で、歴史も観光も問題なく楽しめます。でも、知らないよりも知っていた方がずっと深く理解できるし、その分感動も大きくなります。そうして得た感動は、きっと人生を豊かにしてくれるでしょう。
聖人云々に限らず世の中の知識の多くはそんなもので、役には立たないかもしれないけれど、決して無駄にもならない。ならば知っている方がお得というものです。
そんなわけで、だいぶん前置きが長くなりましたが、今回は聖人研究の必読書にして、聖人伝の白眉とも言われる『黄金伝説』(全4巻)をご紹介します。惜しむらくは著者のヤコブス・デ・ウォラギネさんが13世紀の方なので、それ以降に認定された聖人は当然紹介されておりませんが、それでも百余名もの聖人が載っています。一通り読むもヨシ、気になる聖人だけを読むもヨシ、ぜひお好みの方法でお読みください。
では折角なので、個人的に面白いと思う聖人を2人ほど挙げてみましょう。
「聖ゲオルギウス」(2巻収録)
悪竜を退治して乙女を救い、その国をキリスト教に改宗させたという聖人です。古今東西、竜退治譚はみんな大好き。ヨーロッパ中で人気を博したそうです。
聖ゲオルギウスといえば、スポーツの祭典などでおなじみ、白地に赤十字のイングランド旗(聖ジョージ旗)を思い浮かべる方も多いと思います。彼は1222年のオックスフォード教会会議にてイングランドの守護聖人に認定されましたが、それ以前にも、第三回十字軍の英雄・リチャード一世が自身の守護聖人と仰いだそうです。
「聖女マルガレタ」(2巻収録)
竜退治と悪魔払いの逸話を持つ、聖ゲオルギウスも真っ青の聖女です。といって竜退治のほうは「竜に飲み込まれたので腹の中で十字を切ったら、竜の身体が真っ二つになって助かった」というものなので、決して武闘派という感じではありません。しかし悪魔のほうは「悪魔がやって来たので頭を掴んでぶん投げて踏んづけたら降参した」というもので、「揺るぎない信仰心は悪魔をたやすく退ける」ということを伝えたいのはわかるのですが、いかんせん表現がマッチョすぎて、実はやっぱり武闘派なんじゃないかと思ってしまいます。
いかがでしょうか。
『黄金伝説』に登場する以外にも聖人はたくさん存在します。より多くの聖人を知りたい方は、『聖人366日事典』や『図説聖人事典』などもおすすめです。これらは参考書なので貸出はできませんが、お手軽に聖人のあれこれを知りたい方はぜひ併せてご覧ください。
『黄金伝説』 ヤコブス・デ・ウォラギネ著 前田敬作ほか訳 人文書院
1巻 1979年 請求記号:198.2L/35 資料コード:10312429 OPAC(所蔵検索)
2巻 1984年 請求記号:198.2L/35/2 資料コード:10312437 OPAC(所蔵検索)
3巻 1986年 請求記号:198.2L/35/3 資料コード:10312445 OPAC(所蔵検索)
4巻 1987年 請求記号:198.2/35/4 資料コード:10312452 OPAC(所蔵検索)
『聖人366日事典』 鹿島茂著 東京堂出版 2016年
請求記号:198.22/181 資料コード:22905954 OPAC(所蔵検索)
『図説聖人事典』 オットー・ヴィマー著 藤代幸一訳 2011年
請求記号:198.22/150 資料コード:22570998 OPAC(所蔵検索)
(県立図書館:カレル橋ではザビエルを撫でまくったザ・日本人)