11月19日(日曜日)、神奈川県立図書館のギャラリーで開催した企画展示「関東大震災100年 神奈川県の被害と復興」に併せて講演会を開催しました。
展示で使用した「山川菊栄書簡(大正12年9月3日記)」をはじめとした、当館の特徴的コレクションである男女共同参画資料を基に、震災と女性たちというテーマで文筆家の栗田隆子さんにご講演いただきました。
山川菊栄については、次のように説明がありました。
「山川菊栄(以下、菊栄)は戦前・戦後を通じて活動した女性運動の指導者です。関東大震災発生時は33歳で、小さな子供がいました。関東大震災で住処が潰れ、麹町の森田家に身を寄せます。
菊栄も夫の均も社会主義者であることから、森田家に行く途中何度となく自警団に槍を突きつけられ、昼は憲兵、夜は特高が森田家を監視していました。震災直後の大正12(1923)年9月16日に発生した大杉栄・伊藤野枝の虐殺を知った菊栄は、『自分たちも殺されていたかもしれない』という衝撃を受けたと考えられます。」
「震災後、菊栄は東京連合婦人会、全国公娼廃止期成同盟会に参加します。震災による困窮で多くの女性たちが性産業に従事せざるを得なくなることは非人道的なことであるとして、前借金の相殺などの現在では許されていない賃金制度を伴った公娼制度の全廃を論じ、さらにその根本的解決のためには教育の拡充や職業的訓練の普及、労働条件の改善に取り組むべきだと主張しました。
この時、菊栄が性産業従事者に対して道徳的な観点で蔑む視点を持っていなかったこと、"醜業婦"などという呼び方を彼女たちにすることは決してなかったことは重要な点です。
菊栄たちの行動から約100年後のコロナ禍に、お笑い芸人が「失業率が上がれば性風俗に可愛い子が来る」と発言して問題になり、その後コロナ禍で職を失い帰国もできなかった技能実習生の女性を雇った風俗店が摘発されました。現在の女性の労働環境は決して100年前を笑える状況ではないのです。」
震災と女性の問題については、1995年の阪神淡路大震災や2005年スリランカ津波を例に出されました。
家を失い避難所でしか生きられない状況に追い込まれて、DV(ドメスティック・バイオレンス:配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力)や性被害を訴えることが出来ない例が挙げられました。2011年東日本大震災では、阪神淡路大震災の時には見られなかった新しい取り組みがあったものの、避難所の運営が男性主体であるため女性のニーズが反映されにくく、復興会議への女性の参画が少ない状況もふまえて、女性に決定権が与えられていないケースは災害時だけではないことが強調されました。
簡易で安心感のない段ボール製の授乳室問題や、令和5(2023)年9月に発表された「内閣発足時の女性起用ゼロ」などのニュースと重なります。
菊栄は関東大震災について「地震は天災であるに相違なく、人為を以てその厳しさを緩和することは出来まいがその被害の程度を最小限度に留めることは、平素に於ける災害防止方法の発達如何によっては不可能とはいへないのである」と記述しています。(「大試練を経た婦人の使命」より)
平素からの人権問題や欠陥が非常時に顕著になることは、関東大震災時の朝鮮人などへの虐殺や、東日本大震災時での東京電力福島第一原子力発電所事故による福島からの避難民への差別など、多くの歴史が物語っています。
現在にも通じる様々な問題を100年前から指摘し訴え続けていた女性がいたことを誇りに感じながら、私たちにできる事は何かという大きな問いが投げかけられました。
(県立図書館:イベント担当者)
栗田 隆子 氏 著書
『呻きから始まる 祈りと行動に関する24の手紙』 新教出版社 2022年
請求記号:190.4/299 資料コード:23436496 OPAC(所蔵検索)
『ぼそぼそ声のフェミニズム』 作品社 2019年
請求記号:367.1/748 資料コード:23160690 OPAC(所蔵検索)
共著
『未来からきたフェミニスト 北村兼子と山川菊栄』 花束書房 2023年
請求記号:367.21/882 資料コード:23469992 OPAC(所蔵検索)
『高学歴女子の貧困 女子は学歴で「幸せ」になれるか?』 大理奈穂子/著 光文社 2014年
請求記号:367.21/574 資料コード:23115520 OPAC(所蔵検索)
『フェミニズムはだれのもの? フリーターズフリー対談集』 フリーターズフリー/編 人文書院 2010年
請求記号:367.1/326 資料コード:111052551 OPAC(所蔵検索)
『フリーターズフリー vol.02』 フリーターズフリー/編 人文書院 2008年
請求記号:366.8/414 資料コード:111040234 OPAC所蔵検索