「好きな生き物はタコです」と言うと「なぜ?」と聞かれることがよくあります。
タコ焼きがおいしいから、姿がおもしろいから、と答えつつ、好きの気持ちを表現しきれていないことに気が付きました。水族館ではタコが潜む壺をじっと見つめ、港で干されるタコに愛おしさを感じ、タコ公園を探して旅してしまう。
そんな魅力に満ちたタコを改めて知るために、この本を手に取りました。
腕が8本に心臓が3つ、血液は青色、体の色や質感を自在に変化できる、まるで地球外生命体のようなタコ。人間との付き合いは古く、アリストテレスの『動物誌』にも登場します。
筆者はそんな不思議生物の実態を探るため、スペインの港町からタコ漁に出発します。地元のタコ漁研究者と漁師から、生息地や漁の方法、締め方を教わり、おいしいタコ料理を味わう。まるで旅行記を読んでいるようで、取材を楽しんでいる筆者の様子が伝わってきます。
一方で、漁による環境破壊や生態系への悪影響にも触れています。タコの一大消費国である日本にとっても他人事でありません。
本書のタイトルにもなっている「賢さ」については、たくさんの研究や実験が紹介されています。
タコの中にも有名人ならぬ有名タコがいて、2010年のサッカーワールドカップで勝敗予想をしたパウル君を覚えている方もいるのではないでしょうか。パウル君は予知能力を持っていたという特別な存在なので多くは語られませんが、他にも人の顔を覚えるタコや、目的を持って道具を使用したと考えられるものもいて驚かされます。
タコの最大の特徴とも言える柔軟性抜群の8本の腕や吸盤をロボットに活かす研究開発も進められています。「頭足類をヒントにしたロボット開発に取り組むエンジニアが、生物学者の認識が改まるような鋭い指摘をしたり、生物学の研究に役立つような発見をしたりしてもおかしくない。つまり、お互いのためになるんだ」(p.194)という研究者の言葉からは、タコのうねうねした腕が異なる分野を繋いで新しい世界に連れて行ってくれるような希望を感じます。
このように、タコという生き物は長い時間と莫大な金額をかけて様々な研究がなされてきたにも関わらず、いまだによく分からない存在だというから手強い相手です。
生態や能力が解明されることで深まる魅力もありますが、人間になかなか本性を教えてくれないこのミステリアスさこそ、強く惹かれる理由なのだと思いました。
『タコの才能 いちばん賢い無脊椎動物』
キャサリン・ハーモン・カレッジ /著, 高瀬素子 /訳 太田出版 2014年
資料コード:81610909 請求記号:484.7/12 OPAC(所蔵検索)
(県立川崎図書館:タコバニア)