神奈川県立の図書館

令和6年度 第1回図書館アドバイザー・レクチャー実施結果

日時

令和6年9月12日(木)14:00~16:00

会場

県立川崎図書館カンファレンスルーム及び県立図書館本館4階学び⇔交流エリア

※ 講師には川崎図書館に来館いただき、川崎図書館と県立図書館をweb会議システム(Zoom)により接続し、オンライン併用講義とした。

参加人数

42名(県立図書館31名、川崎図書館10名、生涯学習課1名)

アドバイザー紹介

青山学院大学 教育人間科学部教授・学部長 野末 俊比古 氏

青山学院大学教育人間科学部教授・学部長。同大学革新技術と社会共創研究所副所長・近未来の図書館と新しい学び研究プロジェクトリーダー。学術情報センター助手、文部省社会教育官、青山学院大学専任講師・准教授、国立情報学研究所客員准教授、英国シェフィールド大学visiting lecturer(客員准教授)などを経て、現職。

国立国会図書館科学技術情報整備審議会基本方針検討部会長、日本図書館協会図書館利用教育委員会委員長、東京都立図書館協議会議長、調布市立図書館協議会委員長等、国・自治体・学校等における委員や講演・研修講師などを数多く務める。

専門分野は図書館情報学・教育情報学、関心領域は情報リテラシー教育・学習資源(教材)開発など。

レクチャーテーマ

AI/DX時代における公共図書館のモデルづくり

─サービスとマネジメントの最適化をめざして ─

レクチャー概要

1. はじめに

AIやDXの時代において図書館はどのようなものであるべきかというモデルを、サービスだけではなくマネジメントを意識して、考えるための機会や素材を提供する。考えるきっかけにしてほしい。

2. 図書館の社会的役割

図書館には、教科書的な意味での役割は依然としてあるが、現実的にはコロナ前と今とで大きく変化した。1つ目はICTに関わる点である。ICTはかつては"道具"と捉えられていたが、現在は"環境"となっており、あることを前提に考えなければならない。オンラインやリモートが当たり前のなかで、図書館はどのような役割を果たすのかを考えなければならない。2つ目は、コロナ前からであるが、ラーニングコモンズに代表される"賑やかな図書館"が普及し、今では主流になりつつある点である。複合施設化やカフェ併設も当たり前になって、図書館がまちづくりや地域活性化に関わるものとして位置づけられ、図書館に対する捉え方が変化している。

ここで図書館をどう評価するかが問われる。図書館において数字で出せるものは貸出数やレファレンス件数、イベント来場者数など限られている。予算配分を行う側には、優先順位をつけるために、これらの量的な評価は大事であるとは思うが、今、図書館に求められているのは、まちづくりや地域活性化などの新しい役割であるので、質的な評価を含めた新しい指標を見つける必要がある。図書館がすべきこと、すなわち図書館の社会的役割に基づくものとなろう。

複合施設では、イベントや子育て支援施設などに人は集まるが、図書館の資料利用やレファレンス件数が増えているとは限らない。図書館固有の役割はそもそも何かが問われている。「図書館法に書いてあるから」ではなく新しい説明モデルが必要だろう。講師の私論あるいは試論としては、「図書館(情報)利用=問題解決=学習・成長」モデルを構想している。

情報を使ったり、読書をしたりするのは、問題を解決するためだろう。ここでいう問題は、たいへん広い意味であり、「会社の企画書を作る」でも「川で魚を釣る」でもよい。我々の行動に結びつくようなことすべてが「問題」である。大小さまざまな問題を、情報を使うことで解決につなげていく。これを換言すると、学習あるいは成長と呼べる。図書館は何のためにあるかということを、図書館法や教科書のレベルではなく、一歩進んで考えることが必要ではないか。

公共図書館の利用者は誰か。市町村立図書館で利用登録している住民の割合は、多いところで3割、市町村によっては1割程度であろう。図書館を使っていない人のほうが多い。これは重要な問題である。図書館を使っていない人の中には、図書館を使えば問題を解決できる、潜在的な利用者が多数いる。それらの人にサービスを届けにいくアウトリーチサービス、エクステンションサービスこそが大切ではないか。来館者に割いてきた労力を、図書館を使ってもらえれば問題解決、学習・成長につながる、地域がよくなる、という方向にも割くべきではないか。

図書館にとって、利用者と資料を結ぶことはもちろん大事だが、実際には資料を提供することがねらいではなく、資料の中身、すなわち情報を使って何かをすることが大事である。つまり、利用者と情報を結ぶことが大事である。いわゆる課題解決型サービスが注目される所以である。また資料・情報を使って何らかの活動をできるように、図書館では滞在型サービスが普及してきている。この滞在型サービスと、遠隔型のサービスは、じつは根幹は同じである。学校や会社などにサービスを届け、その場で活動が行われるようにするという意味で、遠隔型サービスは、滞在型サービスと同じであろう。この先に必要なのが、出張型のサービス、いわばアウトリーチサービス、エクステンションサービスではないか。

3. 図書館資源の"拡張"

潜在的利用者へのアプローチは大事だが、予算等には限界がある。そのために、図書館の「常識」の見直しを行う。つまり経営的な観点から効果・効率のバランスをとること、すなわち最適化が必要となる。そのうえで、サービスを拡張させていく必要がある。

予算等のリソースが限られるなかで、サービスを拡張させる方法の1つはテクノロジーである。ICTを使って人手・お金・場所をさほどかけなくても効果が得られるようにする、あるいは今できていないことができるようにする。もう1つの方法は協働である。図書館の持つリソースが足りなければ、図書館以外のリソースを使うしかない。

図書館のリソースは情報資源、空間資源、物的資源、人的資源の4つである。ICTや協働によって、図書館自身が持っていないものでも、地域などのいろいろなリソースを活用できるようになる。例えば空間資源であれば、図書館の空間だけではなくネット空間や図書館以外の場所で活動ができる。人的資源であれば、図書館員だけではなく地域住民、地域の企業、利用者自身もいろいろな知識を持っており、貴重なリソースである。

4つの資源をうまく連動させ、組み合わせることが、図書館だからできることである。本を借りて読むだけだと、情報資源しか使っていないことになり、それなら本屋さんでもよいことになってしまう。それでは、無料貸本屋論に対抗できない。しかし、図書館は、資料を探したり、読んだりでき、相談できる人がいる場である。4つの資源を、少なくともそのうち複数を連動させることで、「図書館だからできること」が生まれる。この「図書館だからできること」をきちんとやっていかないと、複合施設などが普及したときに、「図書館はなくても人は来るから、図書館はいらないのでは?」などと言われかねない。

4.「DX」の実践的意義

DXには2つの意義がある。1つは予算を取ることである(笑)。お金や人がつくのであれば、「DX」という言葉もどんどん使っていきたい。ただし、DXは目的ではない。もう1つは実践的な意味であり、図書館をよりよくしていくことである。

DXの捉え方については、経産省のガイドラインが上手くまとまっているので、それを使う。ポイントは4つある。まず、既存の技術やデータの組み合わせであること。新しい技術を導入することは必ずしも必要ではない。次に、ニーズに基づいて進めること。ニーズのないところを進めていく必要はない。あとは、個別最適化と全体最適化であり、1つ1つ個別のサービスと、図書館全体のサービスとを最適化していくことがDXの目的である。ここでいう最適化とは、効果と効率のもっとも良いバランスをとるということである。

民間部門と違い、公共部門では人件費を考えていないことが多い。効果を上げることだけを考えすぎて効率を考えないため、人件費がかかりすぎることがある。コスパが悪い状態である。効果も大事であるが、効率も大切である。利用者のために効率化する、それが最適化である。

DXの"派手"な例として、大学の事例であるが、学外利用者に対する顔認証システムの導入がある。心理的な抵抗感がありそうであるが、カード忘れがないと好評だそうである。このほか、ロボットによる案内や、メタバース、AI蔵書探索などの事例もある。こうした"派手"なものが目立つが、実際には、普段のサービスについて効果・効率を上げる"地味"なものもDXにおいて大事である。

DXについては、全国の図書館が必要性を感じている。ぜひ情報収集・情報共有をしていきたい。海外の図書館の動きも把握するとよい。

5. 利用者(ニーズ)の再定義

DXの捉え方に触れたなかでニーズの話をしたが、ニーズは利用者の側にあるものである。ここで、全国の老若男女に対して行なった、本の探し方・選び方と困っていることに関するアンケート調査結果の一部を紹介する。積極的・能動的に本を探す人は多くなく、知人・友人から勧められたり、雑誌・新聞・SNSで紹介されたり、図書館や書店からおすすめされたりしたものを読むという受動的な人が多い。その中間にあたるのが、目についた本や、誰かに相談して選んだ本を読む中間的な人である。それぞれのグループに特徴的な困りごとがある。例えば、受動的なグループでは、自分に合った難易度や分量の本がわからない、という困りごとを持つ人が多い。こうした人たちは、図書館はあまり利用しない層に多いが、図書館に来てもらうために、例えば「2時間で読める本」「高校生で読めるレベル」などのリストを提供するなどすれば、利用されるかもしれない。図書館では伝統的に、「乳幼児」「児童」などの年齢や、「ビジネス支援」などの課題などによって利用者をグルーピングしてきたが、今回の調査結果から、もっと別の捉え方をするとサービスの最適化が進むかもしれないことがわかる。読書や図書館利用頻度など、文献や読書に対する姿勢によってもニーズは違う。図書館を使ってもらえれば問題が解決するが、来館していない層のニーズも考えたい。ただ、利用者研究は日本では必ずしも進んでおらず、これは私たち研究者の課題でもある。

典型的なデジタルネイティブとして、今の学生から30代前半の若い世代の世界観を確認したい。まず、メディア観に違いがある。アナログとデジタル、リアルとバーチャルといった対比的な区別は持っていない。これからの図書館のサービスもメディアの種別を超えたトランスメディアの考え方でつくっていくことが期待される。

また、インターネットに対しては"無限かつ有限"の情報世界と捉えている。ネットで論文を探して出てこなければ、その論文はない、と思ってしまうこともある。ネット上には無限の情報があることはわかっているが、自分の手が届く範囲、調べられる範囲は有限である、という感覚を持っている。何か調べようとすると無限に出てくるので、どれを選んでよいかわからない。だから、信頼できる人がお勧めしているものを見よう、という姿勢になる。SNSなどを見るときが典型であろう。これは、図書館にとって朗報であろう。20年前、10年前の情報リテラシー教育は「うまく検索して自分にぴったりのものを見つけてください」だったが、今は、例えば、図書館が小学生に夏休みのおすすめ本を紹介しているのと同様に、いろいろなニーズごとにおすすめを用意しておくことが求められているともいえる。レポートを書くのに先生が推薦した文献を読むように、今の若者は趣味や娯楽の世界でもおすすめを求めているともいえる。

タイムパフォーマンスの重視も特徴である。彼らにとって、文章・画像・動画はほぼ同じレベルである。動画は倍速再生ができ、"タイパ"がよい。彼らにとっては情報の量や質よりも理解の効率や効果が大事ともいえる。そこで、例えば、本のあらすじをあらかじめわかるようにしておくと、図書館資料も"タイパ"がよいものとして利用が進むかもしれない。

もちろん図書館がなんでもやるべきということではない。やるかやらないかは図書館の政策、方針の問題である。しかし、ニーズがあればやるべきであろう。とはいえ、図書館のリソースには限りがある。対応するためには、先に触れたとおり、DXと協働の力を使い、ニーズに応えていく。

6. AI活用の可能性

AIとは、万能型・汎用型のドラえもんのようなものではなく、分類、検査、翻訳などに特化した特化型のものであり、人間の知的な活動を再現したものである。情報検索や自然言語処理など、いろいろな技術の組み合わせで構成されたものを我々はAIと呼んでいる。AIの中身はいわばブラックボックスで、例えばAIが作った画像がどうやってできたかは推測するしかない。ChatGPTも同様である。

ここで少し考えてみたい。例えば、生成AIをレファレンスサービスに利用するだろうか。生成AIが執筆した小説を図書館で収集・提供するだろうか。情報は信頼性が大事だが、その信頼性をどの程度、求めるかは利用者に委ねられている。だいたいわかればよいというケースは生成AIでいいかもしれないが、絶対間違えてはいけないもの、信頼性をある程度以上求めるものについては、生成AIには任せられない。なぜなら、図書館は持っている典拠、根拠、証拠を生成AIは持っていないからである。参照可能な典拠を持っているかどうかが信頼性の分かれ目であり、生成AIと図書館の決定的な違いである。どう使い分けるかは利用者が判断することになる。先の問いかけの答えも、どの程度の信頼性を求めるかによるであろう。もちろん、今まで図書館のリソースで行なってきたことの一部は、AIに任せても大丈夫なところもある。テクノロジーの利用によって、効果と効率を最大化していくことにつながる可能性がある。

図書館の蔵書をAIを使って探索するシステムを富士通との共同研究で開発した。公共図書館としては日本で初めて横浜市に導入された。目的の資料がはっきりしているときにはOPACのほうがよいが、キーワードが思いつかない、探しているものがぼんやりしているときには、AIを相談相手に使ってもらうとよい。ただし、AIだからこそ見つかるものもあれば、かえって見つからないものもある。このシステムは、最終的に資料にあたるので、信頼性の問題は解決できているが、文献の全文をAIが学習して答えを出すChatGPTみたいなものになると、答えが信頼できるかどうかの判断が難しいだろう。このシステムはあくまで書誌データを扱っており、最後は「この本はどうですか? 実際に見てみてくださいね」と言えるので、外れがある程度、許容されているということができる。

AIにも得意・不得意がある。AIは人間が苦手なところを担い、人間はAIが苦手なところを担うのがよい。AIは人間にとってパートナーと捉えればよい。

7."ともに成長する図書館"

ここでいう「ともに成長する」とはサービスの最適化である。例えば、十進分類法による排架だと、分類に詳しくないと探しにくい。そうであるならば、課題を設定して、その課題ごとに排架して、課題から選べるようにした、というのがテーマ別排架である。さらにこの先に考えられるものとして、講師が学習領域別・学習段階別排架と呼んでいるものがある。領域ごとに学ぶ順番、いわばカリキュラム的に排架する。自分では検索しない"おすすめ文化"においては、その領域に詳しい人、わかっている人がおすすめしているところにしたがって、ある程度まで教わりたい、というニーズがある。それを図書館として体現していく方法のひとつが学習領域別・学習段階別排架である。大学では、入門の授業では入門的な文献を読み、次に少し応用的な文献を読み、その後はゼミや卒論のために専門的な文献を読む。大学の専門分野だけでなく、もっといろいろな分野やレベルでも同様の段階がある。公共図書館だからこそ、ここは対応できるところがある。いわば学びの課題ごとに学習素材資源・教材として図書館資料をみたとき、それをどう並べるか、ということが公共図書館として、この先に取り組むことといえるのではないか。難しいことではあるが、テクノロジーと協働の力を使って進めていくことが求められていくのではないか。複合施設化が進む今だからこそ重要ではないか。学習コーディネーターとしての図書館員が求められていると考える。博物館では、入口から進んで展示を順に見ていくと、あるテーマについて体系的に学べるようになっている。いわゆるキュレーションに近いものを、図書館も求められるのではないか。

最適化はほかにも考えられる。例えば、文献の探索においては、アクセスポイントがタイトル、著者名、出版社等だけでなく、例えばページ数も有効かもしれない。キーワードを思いつくとは限らないので、キーワード以外の手段で文献に当たれるようにすることは大切であろう。おすすめを積極的に提案していくことも必要であろう。半数以上の人は、文献に対して受動的なので、おすすめだと言われたら読む、目についたら読む、というニーズは多いかもしれない。

8. 県立図書館への期待

DXの観点からマネジメントの最適化をめざすとき、サービスを提供する、つまり図書館を利用する機会の選択肢を用意することが考えられる。ここでは、リアルタイムかオンデマンドか、個別か一斉か、リモートか対面か、という3つの軸で分けてみている。例えば、レファレンスサービスについて、今は主として対面で1対1が前提となっているが、もしかすると集団で利用したほうが利用者同士で学び合いが起きるといった利点があるかもしれない、など考えていくと、いろいろと試していけることがあるのではないか。今は当たり前、普通だと思っていることでも、別の進化をさせたほうがよいことがあるかもしれない。

また、読書で使えるテクノロジーは、今はたくさんある。その一部は図書館がアナログで実現している。読書は、読んでいるその場面だけを捉えるのではなく、読む本を探したり選んだりするところから、読んだあとまで、時間軸で捉えて、使えるテクノロジーを使っていくことが、新しい図書館のあり方を示すことにもつながるのではないか。

DXあるいはICT、テクノロジーをめぐっては、時代や社会、技術に追いつこうという考え方になりがちであるが、そろそろやめたほうがよいのではないか。この考え方だと、例えばAIはライバルのようになってしまう。AIはパートナーである。AIに限らず、ICT、テクノロジーをどうつくっていくか、ひいてはこれからの社会をどうつくっていくか、という視点が大切である。本来の行政に求められる役割である。

マネジメントにおいてPDCAは大事だが、技術の変革は非常に速く、利用者の変化も速いので、ラピッドプロトタイピング、いわば走りながら考えることも大事である。あるいは、PDCAであれば、超短期で回してみる、という姿勢も求められる。

9. おわりに

AIひいてはテクノロジーに対して理解し、試すことは必要である。利用者がそのような環境にあるからである。また、学習コーディネーターという言葉を使ったが、問題解決や学習・成長という観点から利用者の情報利用を捉えると、見えてくる部分があるのではないか。

伝統的な図書館観を変えていくところがあってよいと思う。象徴的には、図書館という名前を再考してはどうか。"図書の館"ではすでにない。では何をするところか、という問いに対して、これから答えが求められると思う。"図書の館"ではなく、体育館、運動場のように、活動、つまり何をするところか、何が得られるところかがわかるような名称をつけるとしたらどうなるか。AI、DXの時代だからこそ、図書館が大事であることを訴えていくようなモデルが必要だろう。