神奈川県立の図書館

令和5年度 第2回図書館アドバイザー・レクチャー実施結果

日時

令和6年314日(木)10:0012:00

会場

Zoomによるオンライン開催

  県立図書館 本館4階 学び⇔交流エリア

  県立川崎図書館 カンファレンスルーム

参加人数

34名(県立図書館15名、川崎図書館17名、生涯学習課2名)

アドバイザー紹介

追手門学院大学 国際教養学部教授 湯浅 俊彦 氏

追手門学院大学 国際教養学部国際日本学科教授、同大学図書館長。

大阪市立大学 創造都市研究科 都市情報環境研究領域 博士課程を修了。博士(創造都市)。

主に、電子出版、デジタルアーカイブ、図書館、教育施設におけるデジタルトランスフォーメーション等について研究している。

近著として「次世代に向けた電子図書館の可能性」(出版メディアパル 2024.3)

近年の論文として、「公共図書館における非来館型サービスとしての電子図書館 ─札幌市、神戸市、明石市の事例を中心に」(『追手門学院大学国際教養学部紀要 15』 2022)「図書館DXとしての電子送信」(『専門図書館』308号、2022.3)、「電子図書館活用型大学DXの取り組み―追手門学院大学の実践事例」(『大学図書館研究』119号、2021.11)等がある。

レクチャーテーマ

公共図書館における電子図書館の可能性―読書アクセシビリティの観点から

レクチャー概要

0.前回の復習と今回のテーマ

昨年度は、「電子出版の進展と公共図書館の新たな役割」という演題で、電子出版と電子図書館の現状と、電子資料を活用する図書館のあり方、それから公共図書館の新たな評価指標、特にディスカバラビリティ(発見可能性)の観点から公共図書館の情報資源をいかに活用していくかという新しい時代の活用法について、一言で言えば図書館のDXに向けての取り組みをテーマにレクチャーした。

今回は、読書アクセシビリティの観点からということで、障害者サービスだけではなく様々な、例えば地域資料の取り扱い方の問題や、自治体の総合計画の中での図書館の位置づけをどう考えて、ICTを活用し実践していくのか、という具体的な話をする。

1990年代半ば以降、大学図書館の世界では電子ジャーナルという学術雑誌のデジタル化が進展し、デジタル化は当然という状況であったが、今日、特に新型コロナウィルス感染症の拡大以降、各公共図書館で電子図書館サービスの導入が進んだことが大きな変化である。図書館休館中に電子図書館サービスが活用できること、またGIGAスクール構想との関係で学校図書館との連携などの動きが出てきたことが背景にある。そして、4月1日からの障害者差別解消法改正法の施行もあり、今日のテーマである紙媒体の読書が困難な人々の読書アクセシビリティの実現の問題が注目を集めている。

1.読書アクセシビリティの現状に対する先鋭的な批判

市川沙央氏の芥川賞受賞作『ハンチバック』には、読書アクセシビリティに関するこれまでにない先鋭的な問題の指摘、現状への批判がある。例えば、p.27

「厚みが3、4センチはある本を両手で押さえて没頭する読書は、他のどんな行為よりも背骨に負荷をかける。私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店に自由に買いに行けること、--5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない『本好き』たちの無知な傲慢さを憎んでいた。」

これは、多くの図書館員にも突き刺さる話ではないかと思う。これまで「本好き」だということの「無知な傲慢さ」がどのようなところにあるのか気づいていない自分自身に目を向けるきっかけになる作品だと思う。

NHK Eテレ「愛と憎しみの読書バリアフリー」(2023年7月28日放映)に市川沙央氏のメッセージが公開されているが、この中で障害者が読者と思われていない、いないことになっている日本の読書環境が『ハンチバック』を書いたきっかけだと述べられている。(市川氏のメッセージ:https://twitter.com/nhk_baribara/status/1684926682874957824)

日本の読書環境はどうなっているのか、というところから読書アクセシビリティへの取り組みがスタートしている。

2.日本ペンクラブと読書アクセシビリティ

2023年8月21日、講師は日本ペンクラブ言論表現委員会に議題を提出した。

(1)読書アクセシビリティに関する議論はこれまで視覚障害等を有する読書困難者を対象に行われてきたが、もっと多様で重層的な障害の状況に対応する必要がある。

(2)一方、紙の本にアクセスできない人々にとって、電子の本がもつ有用性を著者や出版関係者が理解する必要がある。

(3)もっとも重要なことは、著者や出版関係者がこれまでのバイアスのかかった「紙の出版」と「電子の出版」に対する考え方を再検討し、ICTを活用した新たな読書アクセシビリティの実現に関して、具体的なアクションを起こすことである。

この中で、3つの観点から考えるべきと示した。

1当事者の声に耳を傾けること

2電子書籍や電子図書館側のビューワについてJIS規格の推奨

3日本文藝家協会、日本推理作家協会とともにアクションを起こすこと

11月20日に日本ペンクラブ言論表現委員会企画のシンポジウム「読書バリアフリーとは何か―読書を取り巻く「壁」を壊すために」を開催し、第1部で市川沙央氏と桐野夏生日本ペンクラブ会長に対談していただいた。なお、このシンポジウムは現在YouTubeで公開しており(https://www.youtube.com/watch?v=bQq1FQ9ynAY)、市川氏の校閲を経た日本語字幕も付されている。この中で、市川氏は「ひとつめの大学にはいったときに図書館司書と博物館学芸員の勉強をしていました。公共図書館というのは、情報アクセスを誰にでも開いているべき場所なんですけれど、そこでの障害者対応が貧弱だという気づきがありました。そこが問題意識の始まりで(中略)「書店を守るために、電子書籍を自分は出さない」という作家さんがいらっしゃる」と『ハンチバック』を書いたきっかけを述べている。つまり、日本の図書館の障害者対応が貧弱であること、作家が書店を守るために電子書籍を出さないと言うこと、この二つの要因により、自分たちはいないことになっている、と感じ、作品を書いたとはっきり言っている。

第2部シンポジウムでは、アクセシブル・ブックス・サポートセンター運営部会副部会長である落合早苗氏の司会により、講師と日本文藝家協会副理事長である三田誠広氏で討議を行った。まとめとして、日本ペンクラブと日本文藝家協会は、推理作家協会に呼びかけて、読書アクセシビリティを確保する方向性の共有がなされた。現在、三団体による声明公表に向けて取り組んでいる。[注記:2024年4月9日、三団体による共同声明が発出された。]

3.読書アクセシビリティに関して、動きが鈍い日本の図書館

ある公共図書館の図書館協議会の「電子書籍」に関する2013年の報告書を紹介する。

「図書館の利用者がすべて電子書籍の利用、図書館環境の機械化を望んでいるか、パソコンになれているか、と言えば、そうではない。(中略)すべての方への配慮は必要不可欠である。図書館は、図書館本来の役目=資料の収集・保存・提供・レファレンス=の充実を図ることが第一の役割であることを忘れてはならない」

「『電子書籍への対応』について、早急に結論を出す必要はないと思われるが、今後とも公共図書館における電子書籍の取り扱いについて、国内外の情報収集と分析が課題となると思われる。」

11年前のものなので、ずれていると感じられるだろう。すべての方への配慮が不可欠であるという時に、市川氏のように電子書籍でなければ情報入手することができない人たちに向けての配慮があれば、「すべての方への配慮が必要不可欠だから電子書籍は提供しない」という結論はありえない。「紙か電子書籍かどちらかを選ばなければならない。電子では読めない人がいるから紙にした」というのであればまだ理解はできる。すべての方への配慮が必要と考えるのであれば、紙と電子の両方を提供すればよい。それを予算が限られている、電子書籍について分かる人が少ない、などと理由をつけて、図書館の多くが電子書籍の導入を阻んできたのは間違いない。今日に至るまで、コロナウィルス感染症拡大がなければ、電子書籍を導入していないところが多いだろう。すべての方への配慮が必要というのであれば、電子でも提供するという対応が必要なのだから、論理が破綻している。電子書籍は図書館資料ではないと表明したのと同じである。この自治体は、一週間前の時点で未だ電子書籍の提供を行っていない。2019年施行の読書バリアフリー法の考え方は、4年間無視されたままである。

例えば、2015年の第153回芥川賞受賞作である又吉直樹著『火花』をサピエ図書館など音声読み上げにより聞くことができるのは6カ月後。晴眼者と同じタイミングで出版物を享受できる環境整備は2013年制定、2016年施行の障害者差別解消法で定められているにも関わらず、図書館はやる気がなかった。まず行政機関等による障害を理由とする差別に禁止が規定され、合理的配慮の提供が義務化され、今年4月からは事業者の合理的配慮の提供が義務化される。出版界も同様であるが、アクセシブル・ブックス・サポートセンターが、日本書籍出版協会の理事長名で、各出版社にアクセシブルブックを作るための連絡窓口の連絡先を求めても、多くの出版社から返答がない。こういったことを一つずつ解決していく必要がある。

4.音声読み上げ機能付き電子書籍貸出サービスの開発へ

現在追手門学院大学が導入している電子図書館サービス「LibrariE(ライブラリエ)」の自動音声読み上げは、大日本印刷、TRC、日本ユニシス、ボイジャーと共に取り組んだ共同研究「音声読み上げ機能を活用した公共図書館における電子書籍貸出サービス」により2016年の障害者差別解消法施行に合わせて開発した。三田市立図書館での実証実験を経て2016年4月、同館に国内で初めて導入された。三田市立図書館は指定管理者としてTRCが入り、2014年8月から電子図書館サービスを開始している。この時点で三田市役所まちづくり部を尋ね、日本で初めての音声読み上げ付き電子書籍貸出サービスを共同開発しようと申し入れ、実証実験を2年間繰り返した。2016年2月の市広報で視覚障害者対応機能追加を発表し、新聞でも取り上げられた。この障害者支援機能の搭載された電子書籍貸出サービス「LibrariE&TRC-DL」は、2021年から導入館が急増し、2023年8月時点で全国の公共図書館の約40%、また大学図書館にも導入されている。

5.大学教科書など文芸以外の出版領域でも取り組みを開始

小中学校の教科書については、「教科書バリアフリー法」が2008年公布・施行されているが、内容的には不十分である。

市川氏が『ハンチバック』で取り上げたのは大学の教科書の話である。

「アメリカの大学ではADA[講師注:障害を持つアメリカ人法 、1990年施行]に基づき、電子教科書が普及済みどころか箱から出して視覚障害者がすぐ使える仕様の端末(リーダー)でなければ配布物として採用されない。日本では社会に障害者はいないことになっているのでそんなアグレッシブな配慮はない。(中略)ページをめくる感触が好き、などと宣い電子書籍を貶める健常者は呑気でいい。」(p.34)と痛烈な批判をしている。

『電子出版学概論』(湯浅俊彦著、出版メディアパル、2021年)では、米国で2009年、視覚障害者団体のNFBとACBが連名でアリゾナ州立大学に対し訴訟を提起したことを紹介している。大学が学生にKindl DXを配布し電子教科書と読み上げ機能について実証実験を行なおうとした際、書籍の選択や購入のメニューが視覚障害者向けになっておらず教科書のダウンロードができなかったのは連邦法違反であるとする訴訟である。このようなことが、今後日本でも起きてくるだろう。

講師の所属する追手門学院大学国際教養学部では、教科書の作成・頒布・活用において、新型コロナウィルス感染症拡大により学生自宅への宅配は進行したものの、長い間変化がなかった。これを、紙媒体では読むことのできない、学ぶことのできない学生のために電子でも提供する必要があるということで、2023年度秋学期からデジタル教科書の導入が開始されたが、僅か13タイトルしか集まらなかった。もっと多くの教員が自分の提供している教科書を電子書籍化することに積極的になる必要がある。また、デジタル化した教科書を読み上げさせたところ、各頁の下部の脚注を読み上げるかどうか迷って停止してしまった。レイアウト上の問題だが、これを解決すべく、大学教科書の電子化を進めるプロジェクトを行っているNTT EDXに更なる改良を提案している。「読書バリアフリー法」の中でアクセシブルな電子書籍等が規定されている以上、大学はそれを提供すべきである。「JIS X 23761」を遵守した電子書籍を作成すれば、きちんと聴くことができる。

2023年7月公開の国立国会図書館「電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン1.0」の付属資料に利用ストーリーがついている。全盲のA氏が在住自治体の電子書籍導入を知り、喜んで借りようとしたが電子図書館の入口がわからない(ウェブアクセシビリティの問題)。さらに図書館の利用登録はしていても、電子図書館は別に来館登録が必要。来館時に使用法を教えてもらおうにも、図書館の端末にはスクリーンリーダーがなく自宅でしか使用できない。帰宅後に電子図書館になんとか入り、読みたい本を検索してもヒットしない。所蔵がないのか間違っているのかも分からず、いろいろやっても全く読むことができない。自治体に電子図書館サービスを導入しても、視覚障害者を無視した導入の仕方になっていることがよくわかる。

新聞取材を受けた際「大学図書館こそ、電子化を進め、誰もが教育を受けられるよう門戸を開いていかなげればならない。」と強調したが、出版社、大学、図書館、各々がきちんと努力して提供する義務がある。

6.自治体資料の電子書籍化とアクセシビリティ

自動音声読み上げ機能により、本文を読み上げることによって、視覚障害、発達障害による読書困難者、あるいは日本語を母語としない定住外国人の読書アクセシビリティを保証する。これは図書館の任務だと思う。定住外国人が、読み・書きに比べると話す・聞く能力が高い場合、音声読み上げによって、日本語タイトルのものでも、ある程度意味が理解できることが多い。

「播磨科学公園都市圏域定住自立圏 電子図書館」を紹介する。複数の自治体が集まってひとつの電子図書館サービスをしている。(https://web.d-library.jp/haritei/g0101/top/)連携市町の広報誌が、それぞれ音声読み上げなし(フィックス版)、読み上げ対応版(リフロー版)の両方掲載されている自治体と音声読み上げ不可の自治体がある。リフロー型で音声読み上げ対応版の、独自資料を作成する必要があると思う。全国の自治体で、各部局が行政資料を作る時に、図書館できちんと管理して、読み上げができていないものを音声読み上げがあるものに変えて、かつ検索もできるという形で取り組んでいく必要があると考えている。

商業電子資料に目が向きがちだが、これからは行政が作成している電子資料にも注目していくべきだと思う。商業電子資料は、電子図書館に自分のコンテンツを音声読み上げ付きで提供しない著作者の存在という問題があり、きちんと読み上げ対応できるよう開発していく必要がある。しかし行政資料については、著作権者は自治体なので、市民に向けて発信するためには音声読み上げ機能が必須だろう。今日ではPDFやHTMLファイル形式で電子資料として発信しているが、HPで公開している市民向けの資料については、図書館が電子書籍化することが重要である。市民に公開している自治体資料、地域資料を公共図書館がディスカバラビリティ(発見可能性)、アクセシビリティ(読書バリアフリー)を実現する、新たな市民的価値を創出していくということが非常に重要な任務になるのではないか。そこで視覚障害を有する市民や日本語を母語としない定住外国人に音声読み上げによる情報提供を行うこと、それから自治体の総合計画と関連付けて、電子図書館サービスを通して次世代が活躍できる、地域の発展を目指すのがこれからの図書館のあり方であろう。

2022年図書館総合展フォーラム「公共図書館における行政資料電子書籍化プロジェクト―新しい公共図書館の評価基準に向けて」を開催した。静岡県立図書館の自治体資料自動収集システムの図書館担当者と開発したGeolocation Technology社、三田市立図書館の電子図書館で音声読み上げ機能サービスを開発したボイジャー社、講師からは静岡県立図書館の自動収集・電子書籍化した45万タイトルに音声読み上げと検索機能をつけるプロジェクトを提案した。この時の討議資料とYouTube動画は公開されているので、見てほしい。(https://www.libraryfair.jp/forum/2022/547)

7.デジタル絵本の制作とアクセシビリティ

これらの発展形として、大阪府茨木市と追手門学院大学の取り組みを紹介したい。デジタル絵本には、視覚情報、聴覚情報、言語情報それぞれについて特徴があり、紙にはない機能を使って情報を利用できる。デジタル絵本制作ワークショップを追手門学院幼稚園で行っており、動画で公開している。(https://youtu.be/JjRyVVvQ1eI)

制作したオリジナルデジタル絵本を、幼稚園で導入している電子図書館サービスに登録公開することで、保護者も子どもたちもいつでも見られる仕掛けになっている。

2023年11月に大阪府茨木市に茨木市文化子育て支援複合施設オニクルがオープンした。2024年1月にそこでデジタル絵本を作るワークショップを開催した。作品は茨木市立中央図書館の電子図書館に登録公開している。それに先立つ2023年10月に追手門学院大学図書館から茨木市立図書館に3点の申し入れを行った。1電子図書館の相互連携事業の実施。これは大学図書館の独自資料と茨木市の郷土行政資料を、双方の利用者がそれぞれ閲覧可能とすることで、2024年4月から開始される。2デジタル絵本の制作作品の電子図書化とその公開。これは2024年2月から公開されている。3ゆくゆくは茨木市の行政資料の電子書籍化に大学がサポートすること。商業的な出版物だけではなく、各部局が制作した市民向けの電子資料を図書館が保存して検索可能な環境を整備する。大学と自治体の地域連携を行いたいと申し入れ、2024年2月に「独自資料の電子化と情報共有に関する協定書」を締結した。協定締結式に新聞取材があったので、自治体の行政資料を電子書籍化して、アクセシブルでディスカバラブルなものにすること、電子書籍化した独自資料の共有を全国初の利用者サービスとして行う意義を説明した。「図書館は地域を豊かにする」というコンセプトで進めていこうと考えている。

補足

市川沙央氏のメッセージを放映した番組「愛と憎しみの読書バリアフリー」では他にALSと診断された方が目の動きをセンサーで読み取って電子書籍の読書を楽しむ例や、弱視で難聴の研究者に所属学会から届く最新の学会誌や論文集の殆どが紙媒体であり、拡大読書器や代読・代筆サービスを使用しても、すぐには読むことができず、研究者としての環境が保障されていない、といった例が取り上げられた。だから、あらゆる電子書籍が、音声対応であることが必要なのである。非常に多様で重層的な障害の現状があることを考えるとまだICT活用が充分にできていないことがわかる。

講師が所属する日本出版学会では、学会誌を運営するにあたり、投稿論文に含まれる図版等の代替テキストを、投稿者が責任を持って作ることを義務化し、それを怠り読書バリアフリーに協力しない場合には投稿を拒否することができるという規定を設けようという動きがある。編集者が横から手を入れるのではなく、著者が責任を持って人に伝わるように説明し、テキスト化するのは当然でもある。同一性保持権等の問題を提起する作家とはまた異なる、論文の世界の動きである。

読書を取り巻く壁の一つに図書館がなってはいけない。単に、障害者サービスを深めるという話ではない。あらゆる人にとっての読書バリアフリーを実現しようとすると、視覚障害や身体障害だけではなく、日本語を母語としない定住外国人や、もっと情報が欲しい人が、以前は見られた情報がなくなっている、Not Foundで存在しないことになっている状況などに対し、図書館は今後ますます活躍しなければならない。公共図書館における電子図書館の可能性をもっと広げ、もっと追求することが大切である。

結論

読書アクセシビリティの観点から、電子図書館サービスを導入することは喫緊の課題である。そもそもインフラの一つなので、電子図書館サービス導入か否かの議論をしている場合ではない。

市川沙央氏は「私は障害者が読者と思われていない状況にドロドロした怒りを持っていて、それを「えいやー!」とぶつけたのが『ハンチバック』という小説です」と話している。これをまともに受け止めたら、取るべき対応は決まってくるだろう。

「障害者差別解消法」改正法が2024年4月に施行されるが、図書館がプリント・ディスアビリティを解決するために、今すぐにでも具体的な行動を起こす必要がある。自治体内に視覚障害者が何人くらいいて、その人に向けてどういうサービスをすればいいだろう、というレベルの話ではなく、もっとたくさんの人に情報の伝達を推進していくための施策を考える必要がある。その中に行政資料の電子化や音声読み上げ対応にすることも全部含まれる。この話をすると、図書館の人は「予算が」「人員が」と言うが、そうではない。図書館DXとは、ICTを活用し、それほどのコストをかけずに新しい行動を起こすことである。利用者の情報、行動の変化に対応できるように図書館が変わり続けることが一番重要だと考える。

意見交換と質疑応答

Q1.

「お金をかけずに」とのお話があったが、実際問題として自治体においては、どんな事業であれ何かしらのコストがかかり、その評価を求められる。現に、両県立図書館で電子図書館を導入したが、利用状況を求められている。社会のインフラだというお話があったので、その評価の方法なり、予算サイドへの説得材料として、電子書籍をこのように説明すべきだということがあればお聞かせいただきたい。

A1.

図書館資料費という考え方を変えていく必要が、まずはある。自治体の中で、例えば多文化共生を目指す、誰一人残さない社会を作る、などある。そこの部分に図書館が入っていく。例えば、講師は神戸市立図書館協議会の会長をしているが、三宮図書館が仮移転したオープニングセレモニーに招待され、市長も来場予定とのことなのでぜひお会いしたいと館長に告げた。残念ながら副市長の来場だったが、資料を用意し、静岡県立中央図書館の45万タイトルの行政資料収集を図書館でどのように行ったかというカレントアウェアネスの記事や、簡単な概略がわかる資料を渡して、神戸市もこのような取り組みをすべきではないかとお話し、関心を持っていただいた。文書館と図書館の担当とその後、打ち合わせする機会を持ち、総合計画の中の予算の振り分け等具体的なことも盛り込んでお話した。新館を建設中で人員を割く余力がなく、行政資料の大規模デジタル化は図書館として今は取り上げられないという結論になってしまったが、大日本印刷などが非常に大きな関心を示していた。予算の中でどうしていくかは非常に重要で難しいところではあるが、できるところから、小さなところからでもやっていく。茨木市の場合は独自資料の交換という、新しいコンテンツの購入のような、資料費という概念から外れたものである。動けばお金が必要になるのはその通りではあるが、神戸市は図書館が教育委員会の下ではなく、市長部局の中の文化スポーツ局の下に入るなど組織図も変わってきたので、予算等説得力のある方向性で、少しずつ今取り組んでいる。図書館資料費が頭打ちで、むしろ減額になって、何も買えないから電子は何もできません、というのではなく、むしろ別予算をどうやって出すのかを考える。クラウドファンディングを用いる例も聞いている。

Q2.

公文書館も、電子化していない資料を電子化すれば来館せずに資料閲覧できるメリットはあるが、予算の制約からなかなか進まないという現状がある。自治体が作成した刊行物は自治体の成果と言えるものでもあり、伺い文書などとともに文書管理に収束されていくのも自然なことだと思うが、一方で自治体の刊行物を図書館と文書館の双方が収集していく場合、電子書籍化を双方で行うと予算議論中で格好の餌食になってしまう。図書館と文書館どちらが推進していけばよいのか先生のお考えをお聞かせいただきたい。

A2.

私の考えでは、図書館がやるべきだと思う。長尾真氏が国立国会図書館の館長に就任時にそれまでのやり方をすっかり変え、情報を図書館的に整理する図書館情報学ではなく情報図書館学を提唱されていた。例えば大学で司書課程を作る時に、司書課程の教員は文学部に属していることが多いが、本当は、十進分類法的に言えばどの学部にいても不思議ではない。紙の本との紐づけみたいなものはあまり考えすぎず、情報を取り扱っているという考え方でいけば、図書館が今まで築き上げてきたある種の整理、資料の組織化は非常に重要である。その発想は持ったまま、自治体のあらゆるセクションに関連するものとしてやっていくべきではないか。文書館が得意な文書に関する分野と、図書館が得意な図書や雑誌に関する分野、という時代はもう終わっているのではないかと思う。ジャパンサーチの例を挙げると、図書館主導で、美術館や博物館等様々な施設が加わり、国立国会図書館が運営を担っている。逆に図書館の人には重荷になるかもしれないが、全部背負っていくという図書館的解決の仕方があると思う。だから、図書館と文書館が一緒にやればもちろん今はいいと思うが、図書館の考え方をもう少し整理してすべての自治体でセンターになるようなものにすればよいと思う。先ほどのスライドで追手門学院大学総持寺キャンパスの三角形の建物を示したが、三角形の建物自体が一棟の大学棟で、そこに研究者もいるし教室も図書館もある。そして図書館はあのセンターに、ど真ん中に宙に浮かんでいる。滞在型の図書館であると同時に、電子図書館を重視する、つまり紙資料よりも電子資料の方にシフトしていくと2023年度に宣言した。文部科学省も公共図書館でいう「望ましい基準」的な大学設置基準を2022年10月に改正しており、閲覧席数や蔵書数などの文言を削除したので、それにあわせて追手門学院大学でも紙媒体と電子があれば基本電子を買うというふうに大きくデジタルシフトした。そのくらいの感じで、自治体のセンターは図書館が取るということが重要ではないかと考えている。

Q3.

自治体資料の電子書籍化アクセシビリティに関することでお伺いしたい。自治体資料が PDF化などでHPに公開はされているが、読み上げなどアクセシビリティの面でいろい ろ問題がある。PDFだけではなく、同時に読み上げにも対応した電子書籍バージョンみ たいなものも同時に作成されるようなアプリケーションが開発されるような動きがある のかお聞かせいただきたい。

A3.

今、まさにそれを求めて、研究活動を行おうとしている。研究開発にも予算が必要で、スポンサーを求めたいところだが、端的に言えばレイアウトの問題をどう解決するか。例えば自治体広報を左から右に読みあげるのに、左から下に降りたり、また右にあがったり、レイアウトの問題がある。PDFを部局内で作る際に、このような方式で、と基準をつくることなども考えている。開発中としか今は言えない。デジタルの検定教科書や副読本なども、カラー図版が増え、その代替テキストが複雑化してやりにくく、むしろ以前より文字列が多くなった。代替テキストを自動生成するようなものや、「アクセシビリティに問題あり」の表示が出たり、音声の文字起こしをするアプリもある。それらの組み合わせによってPDFをどう乗り越えるかに議論が集約されている。