神奈川県立の図書館

令和5年度 第1回図書館アドバイザー・レクチャー実施結果

日時・会場

令和5年1012日(木)14:0016:00
於:県立図書館 学び⇔交流エリア 及びZoomによるオンライン開催(県立川崎図書館 ミーティングルーム)

アドバイザー紹介

慶應義塾大学 文学部教授 岸田 和明 氏

慶應義塾大学文学部図書館・情報学専攻 教授。博士(図書館・情報学)(慶應義塾大学)。日本図書館情報学会会長。

図書館情報大学図書館情報学部助手(文部教官)、駿河台大学文化情報学部助教授、教授を経て現職。

主に、情報検索、文書クラスタリング、テキストマイニング、図書館評価について研究している。

近年の論文として、「地域メッシュ統計を活用した公共図書館評価の試み : 神奈川県を事例として」(共著 『日本図書館情報学会春季研究集会発表論文集』2022年度) 、「館外貸出に基づくマクロ指標による日本の公立図書館の状況把握」(『現代の図書館』59(3)通巻239(2021.9)等がある。

概要 テーマ:「図書館評価の方法とその利用:国内外の状況」

1 公共図書館における評価

最初に図書館情報学で最も権威ある雑誌『Journal of Documentation』に2020年に掲載されたSorensen氏の論文「The values of public libraries」からの一節を紹介する。

the changing information and communication landscape affects and challenges the value of public libraries as gatekeepers of democracy and facilitators of democratic and public debate (Audunson et al., 2019)...Hence, public libraries are struggling to measure and demonstrate their impact and value in areas such as culture, society and information access...

ここで使われるvalueという語を、最近海外の文献でよく見かける。背景にインターネット普及により公共図書館の価値(バリュー)が自明でなくなったということがある。かつて情報を探すのは難しく、書店や図書館に行くのが普通だったが、インターネットの普及により、そうではなくなったことが最大のポイントである。このインターネットの普及が、Sorensen氏の言う「changing information and communication landscape」であり、そのような外的要因が公共図書館の価値を改めて問い直すきっかけとなった。言い換えれば「図書館は何のためにあるのか」であり、ヨーロッパ、特に北欧とイギリスで盛んに議論されている。これが図書館情報学の最近の動向のひとつで、インパクトとバリューを測定し、対外的に示すべきというのが共通認識である。

Journal of Documentation』誌で2016年に掲載されたフィンランドの有名な図書館情報学研究者Vakkari氏らの国際調査結果を紹介する。図書館における便益を利用者がどのように捉えているのかをフィンランド、ノルウェー、オランダ、アメリカ、韓国で調査している。最も多い回答が「読書への喜び」で、これは旧来的な図書館の機能の範疇だろう。「読書」、「自己教育」「教育の機会」など、回答の程度は国により異なるが、多く挙げられるものは似た傾向にある。図書館情報学において、国際的に公共図書館の価値、便益が議論されている状況の例示と考えてほしい。

同じくVakkari氏が『Journal of Documentation』誌に2014年に掲載した表では、フィンランド、ノルウェー、オランダのみ対象に、因子分析という統計手法を用いている。その因子を大まかに解釈すると、仕事と教育に関する便益、生活と娯楽に関する便益、読書や文化的活動に関する便益に区分されるように思われる。これには概ね、違和感はないだろう。

もう少し刺激的な研究が『Journal of Librarianship and Information Science』誌に2018年に掲載された。公共図書館の価値が問題とされるイギリスで、研究チームが公共図書館の役割や価値を探るため、協力者を募りフォーカスグループインタビューを実施した結果の分析である。その役割や価値としては、まずアクセスが挙げられ、それには物理的なもの、ITや電子的なものとがある。そして、本と単行書が並ぶ。次にcitizenship and participation(市民参加)といった従来的な公共図書館ではあまり期待されなかった役割/価値が強調される傾向にある。続いてcommunity cohesion(地域社会にまとまりを持たせること)integration(例えば移住者が地域へ溶け込む手助けすること)、知識資本、知識や情報の共有などである。インターネット普及により、ヨーロッパでは従来の公共図書館とは一線を画した役割や価値が求められるようになっている。

インパクトやバリューも含め、これまで、どのように図書館評価を行ってきたのかについて確認する。1980年代は司書課程の教科書に載っていることを効率的に実行していくのが目的だった時代と思われる。1990年代半ばにインターネットが普及、2010年代にサーチエンジンが高度化、そして2020年代の今は生成AIの時代が始まっている。1980年代以前から現在まで使われている図書館評価のための測定が蔵書統計・貸出統計である。次に1990年代には、満足度を尋ねるアウトカム評価が流行し始め、それは現在まで続いている。そして、サーチエンジンの高度化が始まる2010年頃から、バリューやインパクトの測定が多くの公共図書館で求められるようになった。これらの、蔵書統計/貸出統計、満足度、価値/インパクトの3つの区分を念頭に置いてほしい。

それぞれ測定の特徴をまとめると、蔵書統計/貸出統計は、データ収集方法は業務統計、分析/評価指標は数量的な分析で、評価指標としては蔵書冊数、蔵書回転率、貸出率などとなる。その長所はマクロ的な傾向を正しく把握できることにある。業務統計の集計手順に誤りがなければ正確な統計なので、正しく状況を把握できる。ただ、ミクロ的ではなく、あくまで大まかにしか測定できない。業務統計なのでコストは低い。欠点は、わかるのが「量」のみであることである。

これに対してアウトカム(従来型)のデータ収集方法は質問紙調査、いわゆるアンケート調査である。聞きたいことを直接的に聞くことが可能な点が業務統計とは著しく異なるが、質問紙調査を実際に行うのは難しく、従来、図書館では住民の方に質問紙を配付する代わりに来館者調査を行っている。分析方法は数量的分析が中心で、満足度に期待度を合わせて尋ね、その差を測定するのが定番である。業務統計が単なる量なのに対し、質問紙調査なので質問項目を自由に設定できるが、項目を深く、細かく設定しすぎると、回収率や回答の信頼度が落ちる可能性があり、簡単に深くは聞けないという欠点がある。

2010年代から出てきたバリューやインパクトの評価では、質問紙調査も使用しつつ、半構造化インタビューが活用されるようになる。構造化インタビューが質問紙調査同様、質問項目が定まったインタビューであるのに対し、半構造化インタビューは、項目を事前に明確には設定せずゆるく定めておき、インタビューの流れの中で変更していく。質問者の技量に左右されるが、ポイントを深く聞ける。分析にはいわゆる質的な方法が用いられる。インタビュー結果などに対して最もよく使われるのが内容分析という方法で、インタビュー結果をカテゴリーにまとめて物事を分析するものである。深く追求できる点が利点だが、標本サイズが小さくなるため一般化が難しい。協力者に偏りがある場合にバイアスを伴う結果が出るのが問題点である。そのあたりでうまく折り合いをつけられると、深く追求ができ、業務統計レベルや質問紙調査レベルでは明らかにならない点を評価できる。評価の目的に応じてどのような統計、データを使うのか、どのような分析を行うのかが決まるので、以下、少し詳しく説明する。

蔵書統計/貸出統計は業務統計として編纂可能である。収集・集計が容易で、基本的には全数調査となり、推測統計学と呼ばれる検定や推定という難しい後処理が不要である。したがって、そのまま数値を見れば良いのが長所であるが、アウトカムやインパクトの測定は原則的には不可能である。業務統計からのそれらの推測は難しい。

評価指標に関しては、一般にインプット、アウトプット、アウトカムに分けられる。インプットが例えば蔵書統計により測定され、アウトプットが貸出統計によって、そして、アウトカムが満足度で測定される。

もう一つの大事な区分が有効性と効率性である。有効性は、目標に対してどの程度達成できるかであり、達成度が高い方がもちろん良い。効率性は、達成のためにどれだけ経費や職員が投入されたかという観点からの評価である。そこから費用対効果も算出できる。

業務統計を使用する場合、数値目標(ベンチマーク、基準)の設定や達成率の検証が可能である。なんらかの基準との比較が重要で、前年度比が一番素直で分かりやすく、役立つと考える。他には日本図書館協会の『日本の図書館』を使って、類似した図書館と比較することが挙げられる。これは実際、予算折衝などの場で、人口規模が同程度の図書館データの平均値と比較して、不足を示すことなどに使われている印象がある。この他に国際規格がある。ISO2789(図書館統計)とISO11620(図書館パフォーマンス指標)で、セットになっている。業務統計は誤差のない点が重要で、行政評価への活用が考えられる。

業務統計に基づく伝統的な評価指標として、蔵書新鮮度、蔵書密度、蔵書回転率、貸出密度、実質貸出密度などがよく用いられる。蔵書回転率は昔から応用されており、蔵書全体でなく主題別に算出する。相互貸借の借受データと組み合わせて、例えば蔵書回転率が低く、同時に借受も少ない分野はその図書館ではあまり必要とされていないと判断できる。一方、蔵書回転率が低く借受が多い分野は何らかの点で選書に問題がある可能性がある。

貸出に関するマクロ的な分析の場合、複数の公共図書館のあいだで比較する際には、規模の補正が必要であり、「人口」や「蔵書規模」などで補正しないと正しい比較にならない。この補正に「人口」を使う場合、図書館単位ではなく自治体単位になるという問題がある。多数の地域館を持つ自治体もあり、悩みの種だったが、メッシュ統計が使用可能になり、その活用を考えてみたことがある。それが、論文として紹介された「地域メッシュ統計を活用した公共図書館評価の試み」である。メッシュ統計を使っても各図書館に割り当てられる人口は確定しないが、図書館周囲3km方形或いは5km方形をその図書館のサービス対象人口とすれば人口規模の補正がもう少し緻密にできるのではないかと考え、学会発表した。地理情報が使いやすくなり、図書館界でもこの方向で分析が進むのかもしれない。

次に、調査統計について説明する。業務統計とは別に、調査をして特別に編纂された統計を「調査統計」と呼ぶ。人口を例にすると、業務統計として、住民基本台帳に基づく人口が把握され、それに対し、国勢調査が調査統計にあたる。このように二本立てで把握するのが統計学の通常の方法である。公共図書館の場合、調査統計の編纂は難しい。例えば、住民調査と来館者調査があるが、住民調査の場合には標本抽出が必要で、郵送法などで実施する。技術的に難しく、業者に委託することになるものの、住民満足度を測定できる。一方、来館者調査は入館時に質問紙を配り、退館時に回収が基本である。範囲が来館者に限定されるが、標本抽出などの面倒な手続きが不要である。最近ではネット調査も可能で、回答者を限定して、本当に図書館が標本としたい人達を選べる。住民調査、ネット調査とも費用がかかる。

この種の調査でよく尋ねられるのが、業務統計では出てこない満足度である。五段階評定で得点をつけ、平均を計算してサービス間の比較、蔵書分野間の比較をする例がよく見られるが、やはり測定誤差が多く含まれると思われる。質問紙調査は多くの分野で行われるが、通常は協力者を集め質問紙の説明を行った上で回答してもらう。来館者調査は説明を行わず入館時に配り退館時に回収するだけなので、勘違いして回答するケースがあり、調査統計としては信頼度が低い。信頼度を高めるべく慎重に、誤解を与えない文言で、なおかつ、いたずらに無回答が発生しないよう、質問紙を設計することが必要になる。

住民調査の難しさは、住民基本台帳を用い、個人情報を扱う必要があること、標本抽出が難しいことで、業者に任せる形になる。来館者調査は図書館でできるが限界があり、質問について丁寧な説明が出来ないことが最大の欠点である。また、調査の時期(季節)、曜日、時間帯により結果が大きく異なる。更に、ある程度満足している人が図書館に訪れるので、過大評価が避けられない。以前、日本図書館協会でこの問題に対し調査を行った。業者に委託して来館者調査と住民調査を同時に行った結果、ほとんどの項目で過大評価になっていた。来館者調査の宿命なので、気をつける必要がある。

三番目が価値/インパクトの評価である。2014年に出た国際規格ISO16439(図書館のインパクトを測定するための方法と手順)が最新の図書館評価論をまとめている。この規格での用語の定義として、「アウトカム」は図書館のプランニングの目標や目的に関連したアウトプットについての、直接的で事前に定義された効果とされている。ここで強調したいのが「プランニング」である。その目標や目的に関連したアウトプットの例として、貸出及び回答した参考調査質問が挙げられている。その「直接的に事前に定義された効果」の例は、利用者数と利用者の満足度である。この例では、利用者数あるいは利用者満足をアウトカムとして、測定の前に、事前に決めているということである。インパクトとバリューはややあいまいで、インパクトは図書館サービスに接した結果としての、個人またはグループの差分、もしくは変化とされている。同じサービスを受けても利用者により効果が異なる。そのような図書館サービスを受ける前・後の差がインパクト、という定義になる。この変化をきちんと測定するということがISO16439の背後にある思想であろう。バリューは、ステークホルダーが図書館に付与する重要性、及び潜在的な便益に関する重要性である。これには、経済的価値なども含まれる。

ISO16439ではインパクトに関して4つ規定されている。「個人へのインパクト」は、スキルや能力の変化、態度や行動の変化、研究や勉学、キャリアでのより高い成功、個人の幸福など。「親機関や地域へのインパクト」は、親機関の評判やランキングの向上、例えば大学図書館の努力による親機関である大学のランキングの向上、親機関や地域に対する図書館の地位の向上、親機関への助成や寄付、資金の増加など。「社会的インパクト」は、社会的紐帯、情報や教育への関与(学校図書館への公共図書館の支援など)、地域の文化とアイデンティティ(地域資料)、社会的多様性、地域の発展、個人の幸福、文化的遺産の保存など。個人、親機関、社会と、3つのレベルでインパクトを考えなければならないということである。加えて「経済的価値」の4つが規定されている。

なぜインパクトやバリューの測定が必要なのかも記されている。それらは、個々の図書館における意思決定や資金管理を支援するため、図書館サービスのために使用される資源を正当化するため(説明責任)、類似の組織体に対する気付きを維持するため(類似の図書館との比較)、図書館に支援や資金を提供し、そして図書館の役割を監視している国または地方の組織に情報を与えるため、利用者や社会に対する図書館の役割や重要性を促進するため、である。

インパクトの測定については、おおよそ2010年以降の図書館評価論の議論を受けており、Inferred evidenceSolicited evidenceObserved evidence、の3つのエビデンスが出てくる。

Inferred evidence(推論されたエビデンス)は間接的という特徴がある。イベントへの出席等のアウトプットのデータや、図書館パフォーマンス指標、旧来のアウトカムである利用者の満足度レベルを通じてのインパクトやバリューの推定である。インパクトやバリューを直接的には聞けないので、間接的に、数値を読み取って推論した結果としてのエビデンスである。

Solicited evidence(求められたエビデンス)は質問紙やインタビュー、フォーカスグループを通じて情報や意見を求めたもので、直接的である。標本サイズが大きくないので、バイアスがかかることに注意する必要がある。

Observed evidence(観察されたエビデンス)は利用者を観察し、差分が生じたかどうかをより直接的に見る方法である。例えば情報リテラシー教育を施すイベントを開催し、その前後にテストを行い、終了後のテストで良くなった分が差分すなわちイベントのインパクトである。

以上のエビデンスを複数組み合わせて総合的に考えるよう、推奨されている。

2 大学図書館の評価

2011年に「大学図書館を再定義する:デジタル情報サービスへ上手に移行する」という報告書が出て、アメリカの大学図書館界に大きな影響を与えた。そこで取り上げられた問題点が以下の6点である。

1蔵書規模が重要性を失っている(インターネットの普及により、かつて図書館の重要な役割であった「所有」から利用者への「アクセス」保証の重要性へと切り替わったため)。コロナ禍を経てDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、大学では「場としての図書館」は終焉という声もある。

2図書館に関する伝統的な指標は大学の使命をうまくとらえていない(蔵書冊数などの入力指標よりも、利用者へのインパクトの測定が重要である)。2010年のACRL(米国の大学・研究図書館協会)の報告書でも図書館のインパクトを定義しており、大学の使命に照らした上で図書館のインパクトを検討すべきとされている。その領域の中でも、学生の在籍と卒業(中退しないこと)は、たびたび強調されている。

3雑誌価格の高騰により出版モデルの見直しが求められている(オープンアクセスが急速に進行)。機関リポジトリやオープンコースウェア、e-ランニングの教材に図書館がどれだけ関与していくのか、そして、オープンデータの取扱いだけでなくデータライブラリアンシップについて議論がなされており、旧来の図書館資料に加え、研究者が使うデータにまで踏み込んで、図書館員が管理やサポートを行うことが大学図書館に求められている。

4図書館の代替が最速の成長と最も容易なアクセスを誇っている(GoogleAmazonに負けている)。これらの巨大IT企業の影響で、大学図書館では、図書館資料を検索するOPACから、ウェブスケールディスカバリ(その大学で利用可能なオンラインジャーナルや、オープンアクセスのものなどのインターネット上の資源を含めて検索する)の導入が進んでいる。単なる「finding」ではない「exploratory search(探究型検索)への対応が、図書館員の重要な業務として残るのではないかと考えられる。

5伝統的な図書館サービス(貸出やレファレンスなど)に対する需要が減少している(コロナ禍で拍車がかかった面はあり、アクセスさえ出来れば良いという傾向になっている)

6利用者からの要求が予算や組織的な文化を押し広げている(印刷資料とデジタル資料のハイブリッドに起因)

New Review of Academic Librarianship』誌に2018年掲載されたSanches氏の論文では、情報が利用者に直接アクセスされるようになった現状に対して、大学図書館は、今後戦略プランニングの文脈の中で、包括的・協働的な活動を進め、リスクマネジメントを遂行すべきである旨を指摘している。

3 マネジメントサイクルでの評価の活用

図書館評価の方法が変化した背景について確認する。ISO11620のような国際規格が作られたのは、評価基準の画一化から評価方法の画一化への転換が図られた結果だと解釈できる。1人あたり必要な蔵書冊数のような画一的基準は、地域の状況や図書館の立地にも左右されるため役に立たず、評価方法の方を画一化しておき、類似図書館で比較することで図書館サービスの向上を目指すという考え方が背景にある。更に、TQM(総合的品質管理)の影響もある。営利企業で1990年ごろ導入され、効率的な大量生産でコストを抑え価格を下げるという方向から、顧客ニーズを把握してロイヤルティの向上を図る方向に転換した。図書館は非営利組織であり営利企業とは異なるが、このマーケティングの考え方が1980年代後半から90年代にかけて図書館に本格的に導入されたのがひとつの契機であろう。1980年代までの図書館学は、顧客ニーズの把握にとどまり、マーケティングの根幹である商品開発までは至らなかった。90年代に入りTQMや企業のマーケティングの考え方が図書館界に導入され、「健康医療情報サービス」のような商品開発が生まれる。新しいサービスを導入すれば、当然、評価が必要になる。それが、図書館経営における戦略的プランニングである。

1980年代の「教科書型図書館経営」は終焉を迎え、図書館法第2条に定義された「教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資する」にとどまらない、地域や親機関(自治体)への貢献が求められている。

そこで出てくる考え方がマネジメントサイクルで、PlanDoSee(PDSサイクル) もしくは PlanDoCheckAction(PDCAサイクル)である。この時、PlanDoが「主」で、SeeもしくはCheckはあくまで「従」である。このSeeもしくはCheckが評価に相当し、この点、評価は二次的である。図書館サービス向上のためのプランニングと実行にエネルギーや資源を割くべきである。評価を頑張るにはかなりのエネルギー、資源が必要であり、かつ科学的調査にはならず、例えば来館者調査には信頼性の面で欠点がある。ネット調査は標本抽出を伴うので、統計学の理論を用いないと厳密に正しい結果は出せない。ここにエネルギーを割くべきではない。評価は悪い意味でなく「手抜き」をすべきである。

手抜きで評価を行うのに一番良いのが、数量的ベンチマークである。きちんとしたPlanDoを実行できれば、数値目標は立てられる。この数値目標に対する達成度を測るのであれば、業務統計レベルで可能である。業務統計は誤差が無いため信頼度も説得力も高い。図書館システムに評価業務統計の集計機能を加えておけば良いので手を抜ける。コスト的にもネット調査や住民調査を行うよりはおそらくかからない。

科学的な調査ではないことを十分に認識した上で評価(Check)を行う。完璧なCheckではないかもしれないが、むしろPlanDoを行う時に、図書館員が肌で感じた部分が大事で、数値目標は二の次かもしれない。

評価を行う時に利用者にインタビューをしてより深く聞きたいということであれば単発で行えばよく、全体の評価の枠組みの中でISO16439の方法を活かして図書館員が把握していくのが良いと思う。その際に使えるのが、協議会である。

例えば市区町村図書館の協議会は、学識経験者、教育経験者、地域の読書クラブ等、利用者の代表で構成されており、そこで綿密なブレーンストーミングが行われている。その場合を活かして、意見を聴取し、不足分やバイアスがかかっていると図書館員が感じた場合には、プラスアルファとして、ISO16439で書かれているような方法で補足する方法を個人的にはお勧めする。

このような講義を行う際によく聞かれる質問が、マネジメントサイクルから外れた評価に意味はあるのか、である。最大の問題点は、数値の意味が解釈しづらい点である。ただし、実態把握や類似館との比較には意味があるだろう。少なくとも親機関に提出する情報としては重要である。また、マネジメントサイクルから外れていても、何らかの評価を行い、その結果に対して図書館員の間で徹底的なブレーンストーミングを行って経営やサービスの改善を図ることは可能かもしれないが、かなり困難である。結論としては、やはりマネジメントサイクルの中で評価を考えるのが様々な意味で良いであろう。

意見交換と質疑応答

Q1.

インパクトという言葉の意味合いを伺いたい。

A1.

普通に訳すと影響だが、ISO16439においては「差分」。図書館サービスを利用したことにより利用者にもたらされる変化がインパクトである。

Q2.

マネジメントサイクルの重要性のところで、本来はサービス向上や効率化を図ることを目的に評価を行うはずが、評価を行うこと自体を負担に感じ、その先に目が向けられないことが評価の難しさだと感じた経験が、先生のお話で納得ができた。

インターネット普及により図書館の役割が大きく変わっているというお話があったが、個人的には利用の仕方がシフトというよりは多様な利用の仕方ができるようになったと考えている。情報へのアクセスの容易さというよりも、県民の方の学習の探究心に応え、満足度をどう担保していくのか、これまでは紙媒体だけで、図書の充実などが着目されたところが、図書館に求められるサービスや質が大きく変わる中で、評価の見方や設定の仕方も変える必要があるという思いがあったのだが、これからの評価について、神奈川県の発展への貢献など、どの様な方向に向かうのが良いのかなどあればお聞かせいただきたい。

A2.

よく言われる「点検評価」は、マネジメントサイクルではなく、評価により明らかになった弱点を修正するものだと思うので、そのような点検の仕方はあると思う。

大学図書館で言うならば、私は大学図書館には行く機会がない。研究室でほぼ全ての論文を自分のノートパソコンでアクセスでき、そのお膳立てをしているのが大学図書館である。大学図書館はアクセスを担保する機関、そして情報リテラシー教育で教員と協力して学生が情報を入手できるよう教育する役割が残るが、今後図書館評価を考える際に電子的な媒体は避けては通れず、アクセスという面からの評価が重要になると思う。

電子ジャーナルの普及による評価の変化については、利用の実態が把握可能になった。かつて雑誌は貸出を行わないため、論文がどの程度が使用されているか把握不可能だった。引用件数や、文献複写サービス利用件数でカウントしていたが、近似値にすぎない。電子ジャーナルはダウンロード件数等が分かるので、むしろ正確に実態を把握できるようになっており、評価は変わりつつあると思う。

利用の仕方の多様性で、公共図書館にひきつけて考えれば、特に県立図書館の場合には、公共図書館半分、大学図書館半分なので両方に目配りする必要がある。

多様性という点では、Vakkari氏の調査の項目にhealthもある。定年退職者が日々の暮らしのリズムを整えるために図書館に通い、それが運動となって健康増進するようなものもインパクトとして報告されている。社会的紐帯や個人の健康などが公共図書館に求められており、県立図書館の場合は市区町村図書館レベルでの多様性と、大学図書館レベルの多様性の双方に対応する必要があり、大変だと思う。

Q3.

最後の方にお話のあった、いい意味で割り切って手抜きをして評価をすべきであるというお話を非常に心強くうかがった。大学図書館のアクセス権の保証としての役割は分かったが、「場としての図書館」は終わりを迎えるというお話があったと思うが、「場としての図書館」はどちらに向かうのかお話しいただきたい。

A3.

「場としての図書館」の前に、よい意味の手抜きで割り切るという話を補足したい。どのように割り切るかというと、標本サイズを大きくすることは無駄なので、そこは割り切る。大事なのはバイアスが含まれないことで、評価のデータに何らかのバイアスがないか注意するのが一番である。バイアスが大きくなければ、標本サイズは小さくても正しい結果が得られるので、割り切るときに、その評価の目的に照らし、おかしなバイアスのかかったデータが入っていないかどうかは確認した方が良い。

「場としての図書館」については、極端なことを言い過ぎたかと反省している。コロナ禍で学生が大学に来ない状況では、それに対して大学図書館は対応しており、「場としての図書館」ではなく「アクセスを保証する図書館」として全面的に進めるべきという話はあると思うが、学生を見るとコロナ禍以降、集まる場所があるのが良いようで、「場としての図書館」の価値は減っていないとは思う。公共図書館については、自宅にそのような場がない場合にやはり一番だと思うので、「場としての図書館」の役割は絶対に消えないし、もしかするとインターネットが普及してもデジタル・ディバイドの問題があるので、ますます場としての役割が公共図書館に求められる可能性はあると思う。