神奈川県立の図書館

令和4年度 第2回図書館アドバイザー・レクチャー実施結果

日時・会場

令和5年2月9日(木)15:0017:00
於:Zoomによるオンライン開催(県立図書館「学び⇔交流エリア」及び県立川崎図書館「ミーティングルーム」)
なお、講師はweb会議システム(Zoom)により各館とオンラインで接続し、講義する。

アドバイザー紹介

専修大学文学部教授 野口 武悟 氏

専修大学文学部教授、放送大学客員教授、一般社団法人日本子どもの本研究会元会長。

筑波大学大学院図書館情報メディア研究科修了、博士(図書館情報学)。

主に子どもの読書、障害者サービス、電子書籍サービス等について研究している。

近年の研究成果として「日本の大学図書館における障害学生支援の現状と課題」(『図書館綜合研究』22, 2022.8)、「図書館のためのバリアフリー資料目録 : 大活字本・オーディオブックを中心に」(日外アソシエーツ 2022)等がある。

概要 テーマ:「公共図書館における読書バリアフリーの推進:環境整備とサービス提供のポイント」

1 はじめに

前年度(令和3年度)のアドバイザー・レクチャーでは、「読書バリアフリー法(正式名:視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律)」について、法的背景や障害者サービスの最近の状況などを概観した。本年度は、令和3年度に全国公共図書館協議会が実施した全国調査(以降、調査)の結果を確認しながら、より具体的に図書館での取り組みのポイントを見たい。

障害者サービスにおいて重要なことは、計画的継続的に進めていくことにある。法律の制定時など環境を整えやすいタイミングはあるが、新しいサービスや整備予定の環境の持続可能性についてもよく検討する必要がある。

なお、読書バリアフリーに関して検討する際の参考資料としては次のようなものがあげられる(いずれも日本図書館協会作成)。

  • 「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」(2016年)
  • JLA障害者差別解消法ガイドラインを活用した図書館サービスのチェックリスト」(2016年)
  • 「学校図書館における特別なサービスと資料の提供に関する基本方針」(2020年)

なお、障害者サービスに関する評価シートについても近く公表する予定である。

2 環境整備のポイント

蔵書コレクションを構築していくことが、図書館にとって重要な環境整備であるように、サービスを的確に提供していくためには、環境づくりが欠かせない。このことは読書バリアフリーや障害者サービスでも同じで、環境を整えることが各種サービスを充実させ、合理的配慮にも繋げていくことができる。
環境整備については、施設面の改善や専用器具の導入などハード面を整えることのほか、館内体制や研修の充実、規則やルールの見直し等ソフト面を整備することも環境整備の一環と言える。以降、項目として詳しく挙げることがら以外にも、仕事をしていく中で気づいたところから改善していくことが大切である。

  1. 館内体制と研修
    理想としては、メインで担当する部署や職員を決め、その部署を中心に研修等を開催することによって全職員の意識を高めていくことがよい。現状では、専ら障害者サービスのみを担当する課や係を持つ図書館は、都道府県・市町村ともに1割に満たないが、障害者サービスを担当している職員に関しては、一定数を確保している。しかし、障害者サービスを担当する職員を配置できない館もいまだにあり、特に市町村に関しては3割が0人と回答している。
    予算については、一定の予算がついている図書館がある一方、予算が全くついていない図書館が都道府県立では3割、市町村立では6割に上っている。なお、ここでいう予算とは、資料費のほか郵送料のようなサービスを実施するための運営費、音訳者等に支払う報償費など、障害者サービスに関する様々なものを対象としている。
    研修に関しては、都道府県立の多くが何らかの研修を受講しているのに対して、市町村立の受講実績は半分に届かず少ない。研修には様々な種類があり、自館で行う研修のほか、広域図書館や図書館団体が開催する研修を受講する場合、点字図書館や障害者福祉団体が開催する研修を受講する場合が考えられる。
    以上のことから、都道府県立図書館が県内市町村立図書館を支援していくためには、県内の各市町村立図書館に担当者が配置されているのかを把握し、研修を受講できる機会を作っていくことが重要である。
  2. 施設
    障害のある利用者が図書館に来館する際に必須であるトイレやスロープなどの設備を設置している図書館は全国で8割を超えているが、誘導チャイムや緊急時用点滅ランプ・モニターのような、いざというときの備えについては課題が残っている。
  3. 読書補助具や情報支援機器の導入
    障害のある方が図書館のさまざまな資料情報資源を活用する際には、次のような機器が利用できる。
    • リーディングトラッカー
    • リーディングルーペ
    • 拡大鏡
    • 書見台
    • 筆談器
    • コミュニケーションボード
    • 拡大読書機
    • 音声読書機
    • ページめくり機
    • 読み上げソフト入りコンピュータ端末
    リーディングトラッカーやコミュニケーションボードについては、手作りしたり資料と一緒に貸し出すなど、自館の状況に合わせて柔軟に対応すると使い勝手の良い道具として馴染むだろう。なお、こういった道具類については、障害のあるなしに拘らず誰でも使える方が良い。「障害のある人達専用」としてしまうと、用意する側も使う側も「特別なもの」のように認識してしまう。高校生が、リーディングトラッカーを英語の多読資料に利用したり、喉が痛い人がコミュニケーションボードを使ってやり取りするなど、障害を持っていなくてもこういった道具が手助けになることはあるはずだ。
    拡大読書器については、都道府県立図書館を中心に整備がされてきているが、よくある悩みとして「なかなか利用されない」ということを聞く。弱視の人に限らず、図鑑の文字などをちょっと拡大して読みたいというニーズは、本来なら誰にでもある。しかし、現状ではそういった場合に「拡大読書器を使う」という発想に結びつかない。機器類が利用されない原因の一つは、「使ったことがない」「使い方が分からない」ことにあるため、利用体験会の開催や図書館と全く関係がない場所での広報等が必要となる。
    県立図書館の場合は、機器類を導入し自館の利用者へ働きかけると同時に、県内の市町村立図書館への情報提供を行っていくことも、県内の整備を進めていくうえで必要なことである。
  4. アクセシブルな資料
    アクセシブルな資料については、次のように様々な形態がある。
    • 特定電子書籍(マルチメディアDAISY、点字データなど)
    • アクセシブルな電子書籍(オーディオブック含む)
    • 点字図書(雑誌、新聞)
    • 拡大文字図書(大活字本、拡大写本)
    • LLブック
    • 手話絵本
    • 布の絵本
    どこに重点を置いて収集するかは、各図書館の実情に合わせて計画していけば良い。選択肢を増やすという意味では、いろんな種類の資料が入っていた方が良いが、館内の状況に合わせある程度、重点化して資料を収集していくという方法もある。
    大活字本等については、大人用のものの他に青い鳥文庫のように子ども用の資料の拡大版を出版している例もある。アクセシブルな資料を選定する際には、子ども向けの資料もぜひ意識して入れてほしい。ある図書館では、子ども用の大活字本を通常版と一緒に棚に配架したところ、大活字本の方が回転率が良かったとの報告もある。ここでも、「障害者向け」「高齢者向け」と捉えず、文字が大きい方が読みやすいと感じる人なら誰でも使えると考えると良いだろう。
    様々な形態があるアクセシブルな資料だが全体的には、デジタルベースのコンテンツの所蔵率が弱い。音声DAISYやテキストDAISYのデジタルデータは図書館内で製作されたものがほとんどである。サピエ図書館を導入すると自館で作ることができない場合もデジタルベースのコンテンツを提供することができるが、予算をかけずに整備するには、まずは国立国会図書館の視覚障害者等用データ送信サービスの活用から始める方法もある。
    アクセシブルな資料を使ったサービスに関しては、ライトセンターや点字図書館に見られるような県内の別組織との棲み分けが課題となる。県立図書館では、これら図書館のサービス対象外である、視覚障害者ではないが、何らかの理由で見えづらさや読みづらさを抱える人々がサービス対象となる。特に発達障害の人々は、学校に通っている間はマルチメディアDAISY図書等を利用していたのに、卒業してその習慣が切れてしまう場合も多い。また、見えづらさや読みづらさを抱えながらも支援学校へは通っていない児童生徒について、各学校図書館を通じて支援することも重要である。なお、法律的な観点から見れば、国立国会図書館の送信サービスで配信されたデータを、図書館がCDに複製することや点字図書館所蔵の点字資料を図書館が視覚障害者等の方に向け提供することは合法である。(著作権法第37条)
    連携の形として、市町村立図書館や学校図書館等の職員向けの研修に、ライトセンターや点字図書館から講師を招くことなどの連携も有益である。点字図書館等と棲み分けながら連携し、視覚障害者等の人々のニーズに応えていかなければならない。

3 合理的な配慮とそれを支えるサービス提供のポイント

合理的な配慮の考え方については、昨年度のアドバイザー・レクチャーにて障害者差別解消法の中で触れたが、実際には多種多様なものがある。昔から図書館で行っている対面朗読なども、場合によっては合理的な配慮と捉えることができる。もっと言うならば、利用者が困っている際に行った小さなサポートが、結果的に合理的な配慮となっている場合も多いだろう。

そういった日常的な対応とは別に、障害者サービスを利用するために、特別な登録が必要な場合もある。サピエ図書館や国立国会図書館のデータ送信サービスで提供されるDAISYコンテンツの利用などがこれに該当する一例である。著作権法第37条に基づき複製と公衆送信が行われているため、視覚障害者等に該当することの確認が必須となっている。この利用者登録について、電話やメール等を活用し非来館で対応している図書館がある。なぜなら、重度の障害で自宅から出ることが難しい場合があるからである。現在、実際に障害者サービスの利用登録を実施している図書館は都道府県立では85%、市町村立では35%である。県内のサービスを拡充していくためには、こういった仕組みの整え方等を県立図書館が市町村立図書館へ情報提供していくことも重要である。なお、サービス対象者の判断基準については、日本図書館協会等が作成・公表しているガイドライン(図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン)が参考になる。

一方、資料の対面朗読や宅配、施設への出張サービスなどについて、実施体制は整えているものの利用実績に結びつかない場合も少なからずある。そういった課題を、これまで行ってきた図書館サービスに新たな技術や別機関との連携を加えることで解決した例がある。例えば、オンライン会議の技術を対面朗読に活かしたケースがある。また、地元の商工会議所と連携することで、障害の有無に関わらず希望する人全員が宅配サービスを受けられる仕組みを作った事例などが挙げられる。

合理的な配慮を支えるためのサービスとして、アクセシブルな資料の充実が欠かせないが、これについては課題がある。まず、資料を製作している図書館がかなり少なく、その製作者についても高齢化が進んでいる。次に、カセットテープ等の資料については、再生機器がなくなる前にデジタル化する必要があり、その保存と利活用への対応がある。さらに、所蔵している資料の共有についても、布の絵本のように物理的に送る必要があるアクセシブルな資料については、共有が難しく相互に図書館利用し合うことは進んでいない。全国規模での共有は難しくとも、せめて県域内で共有が出来るようになると良いのではないだろうか。

さて、図書館が整備した多くのサービスやアクセシブルな資料は、本当に必要としている人のもとに届いているのだろうか。学校教育の一環でDAISY資料や点字資料を利用した人々であっても、卒業後に市町村立図書館や点字図書館で継続的にそういった資料を利用できることを知らない人は多い。図書館に来る発想がない人々に、図書館が行っている取組や資料について広報するためには、図書館が対象者の身近なところに出向いて広報していかなければならない。ある自治体では眼科のロービジョンケアと連携し、病院の待合室でDAISY図書の展示を行うほか、視能訓練士による図書館サービスの紹介などを行っている。このような対象者に届きやすくする工夫が重要である。

4 おわりに

超高齢社会となり誰もが認知症やその他の心身への不自由を抱える当事者になり得る時代となった。障害者サービスの向上や読書バリアフリー化を進めることは、一部の人にだけ関係がある他人事ではないはずだが、余力やおまけのような扱いに留まっている図書館もまだまだ多いのが現状である。

現在SDGsで盛んに言われている「誰一人取り残さない」という発想は、読書バリアフリー化にも通じるところがある。そういった観点から、当事者だけではなく一般県民に向け、読書バリアフリー化について広報していくことも重要である。それにより、図書館によるそういった支援やサービスがあることを知ってもらい、必要としている人に伝わりやすくなる可能性もあるだろう。

加えて、県立図書館については、県内市町村立図書館の障害者サービスへの支援についても力を入れてもらいたい。自館のサービスについて充実させていくことは重要だが、県内全体のサービス向上を考えることも大切な役割と言える。

また、県が読書バリアフリー推進計画を検討・策定することで、市町村も策定に着手しやすくなると思われる。県内全体の読書バリアフリー推進という文脈では大いに期待したい。

意見交換と質疑応答

Q1.

サービス対象者の棲み分けについて、ライトセンターなど点字図書館は障害者手帳を持った方、図書館側では手帳は持っていないが読むことについて困難を感じている方に重点を置いては、といった意見をもらうことがあるが、実際のところどこに力点を置いてサービスを展開していくか悩ましいと思っていた。本日の話を伺って、改めて前に進めていかなければならないと感じた。研修に関してもライトセンターと連携して行っていたものの、コロナ禍によりここ3年間は停止してしまっていた。少しずつ再開していきたい。

Q2.

県としてのバリアフリー推進計画の策定について、全国的にはどのような状況になっているか。

A2.

県内では横浜市に、関東では千葉や埼玉に読書バリアフリー推進計画に関する動きがある。東京の場合は、子ども読書の推進計画の中では既に触れられているが、成人を対象としたものについてはこれからと推察される。47都道府県のうち半分には至らないものの、徐々に広がってきているという印象である。

Q3.

伺っていると、読書バリアフリー推進計画については、九州地方が進んでいる印象だが、理由はあるか。

A3.

明確な理由はわからないが、隣県が取り組むことによって自分の県でも策定しようという雰囲気にはなりやすいのかもしれない。

Q4.

市町村立図書館から、県域の搬送ネットワークを使って、DAISY図書の貸し出しを他館に依頼しても良いか、と問合せを受けたことがある。貸出館と借受館の間での合意のほか、法律や制度の面から見て問題ないのか知りたい。

A4.

貸し借りすることについては問題ない。しかし、レクチャーでもふれたように、DAISY図書は著作権法第37条3項で複製されているものであり、それを提供できる対象者は障害者サービスの利用登録をしている者に限る必要がある。そのため、借り受ける図書館側に、障害者サービスの利用登録の仕組みがあることが前提となる。それさえクリアしていれば、相互利用することはまったく問題ない。相互利用を全国規模で行っているのがサピエ図書館や国立国会図書館の送信サービスということになる。