神奈川県立の図書館

令和4年度 第1回図書館アドバイザー・レクチャー実施結果

日時・会場

令和5年1月12日(木)14:3016:30
於:Zoomによるオンライン開催(県立図書館「学び⇔交流エリア」及び県立川崎図書館「ミーティングルーム」)
なお、講師はweb会議システム(Zoom)により各館とオンラインで接続し、講義する。

アドバイザー紹介

追手門学院大学 国際教養学部教授 湯浅 俊彦氏

追手門学院大学 国際教養学部国際日本学科教授、同大学図書館長。

大阪市立大学 創造都市研究科 都市情報環境研究領域 博士課程を修了。博士(創造都市)。主に、電子出版、デジタルアーカイブ、図書館、教育施設におけるデジタルトランスフォーメーション等について研究している。

近年の論文として、「図書館DXとしての電子送信」(『専門図書館』308号、2022.3)、「公共図書館における非来館型サービスとしての電子図書館─札幌市、神戸市、明石市の事例を中心に」(『追手門学院大学国際教養学部紀要』15号、2022.3)、「電子図書館活用型大学DXの取り組み追手門学院大学の実践事例」(『大学図書館研究』119号、2021.11)、著書として『電子出版学概論』(出版メディアパル、2020)等がある。

概要 テーマ:「電子出版の進展と公共図書館の新たな役割」

1 電子出版と電子図書館

20008月に上梓した単著『デジタル時代の出版メディア』は、海外の学術雑誌における冊子体から電子ジャーナルへの移行、法典、判例、統計、有価証券報告など政府系刊行物のインターネット公開、オンデマンド出版の開始、インターネット書店の急成長など、出版メディアにおけるデジタル化とネットワーク化の進展が出版産業にもたらす変化を分析し、世界的規模で展開されているこのような変化を日本の出版業界にかかわる人々の多くが正確に把握できないでいることに警鐘を鳴らす目的で書いたものであった。

そして、この本自体が紙版刊行後2カ月経った200010月には、ボイジャー社が開設した電子書店である「理想書店」から電子ドットブック版として販売されたのである。それからさらに21年経った202112月には音声読み上げ機能や本文検索機能を備えた電子リフロー新装版として再刊されている。

ところで日本の出版業界と図書館業界にとって最も大きな転機となったのは、2008年に、当時の国立国会図書館長であった長尾真氏によって提唱された「公共図書館の新しいビジネスモデル」(2008年4月26日開催、日本出版学会春季研究発表会、通称「長尾構想」)である。その概要は、出版社は納本制度に基づき国立国会図書館に出版物を納本する際、印刷物と併せて電子データも納本し、各図書館(ゆにかねっと加盟館)は納本されたデジタルデータについても利用者に提供できる(有料)というものだ。提唱直後から主に出版業界から否定的な意見が多く上がり、長尾館長は翌年、デジタルデータの格納先(以下、データサーバー)の管理元を国立国会図書館から出版業界が運営に加わる「電子出版物流通センター」(仮称)に変更する形で長尾構想を再提唱した。しかし再提唱後も、この構想は様々な場で長い時間をかけて議論されていくこととなる。

出版流通対策協議会(当時)は出版業界紙『新文化』201123日付1面に「電子納本と長尾国立国会図書館長構想の問題点」を発表した。ここで示されたのは、電子データを納本することが、既存印刷媒体や商用電子書籍の売り上げに大きな影響を与え、民業圧迫に繋がるのではないかという論である。絶版となった資料のデジタルアーカイブや著作権の保護期間を過ぎパブリックドメインの対象となった資料についても、商用サイドで復刊されることが決まった時点で、国会図書館のアーカイブから削除すべきとの主張が展開された。

この反論に対して、私は『新文化』201133日付け1面に「誤解されている『長尾構想』」を発表し、次のように再反論した。すなわち、長尾構想を「出版社vs図書館」の構造で語るべきではなく、読者・利用者のために著作権者、出版社と図書館界の利害調整を行うことが重要である。デジタル化した所蔵資料のほか、ボーン・デジタルの資料(電子書籍、電子ジャーナル)を、国民に提供できる仕組みは有用である。出版社の投資ではなく国の費用によってデジタルアーカイブを構築することで、出版社によるコンテンツの再生産を阻害せず、むしろ自力では電子書籍を発行することが難しい中小零細出版社を支援するような新しい仕組みを確立することができるだろう、と書いた。

この論争の背景には、2010年6月7日の電子納本制度審議会において「オンライン資料収集制度」が答申され、発表されたことがある。その説明会を実施したところ出版関係団体の賛同を得ることはできなかった。やむを得ず、「国立国会図書館報によるオンライン資料の記録に関する規定」に「当分の間、その提供を免ずる」とし、商業電子出版物を除いた無償でDRM(デジタル著作権管理)なしのオンライン資料の収集制度に係る法整備が行われたのは、2年後にあたる2012年6月である。20137月からは、「オンライン資料収集制度」(eデポ)が開始され、以降も収集範囲を広げるための調整は続いたものの、大きな進展は得られなかった。

ところが2020年以降、コロナウイルス感染症が世界を席巻し、日本政府が202047日に緊急事態宣言を発出したことによって、学校の休校や図書館の休館等が続いたことで事態は大きく動く。2021325日、附則によりこれまで収集してこなかった民間発行の有償又はDRMの付されたオンライン資料の制度収集の在り方について、納本制度審議会は答申を提出した。この答申を踏まえ20225月、第208回国会に国立国会図書館法等の一部を改正する法律案が提出され今日に至ることとなった。

ここまで、日本における電子書籍の制度的収集に関する経過を概観してきたが、世界的に見て国立図書館がデジタル化資料を収集するにあたりここまでの年月と議論を要する国は稀である。新型コロナウイルス感染症の拡大は、一連の議論を個人向けのデジタル化資料送信サービスにまで結びつけることとなったが、図書館に出向くことが難しい利用者は以前から一定層存在していることにもっと留意すべきだろう。図書館による商業出版物のオンライン化と提供にここまでの時間がかかってしまうのは日本独自の現象と考えられる。

海外での状況を確認すると、20099月にカリフォルニア大学バークリー校・東アジア研究図書館の石松久幸氏が『出版ニュース』(2187号、20099月下旬号)に執筆した記事「今、アメリカの大学でライブラリアンと呼ばれる職業が絶滅しつつある」(p.6-10)が有名である。要旨は、図書館の閲覧席は埋まっているが図書館の蔵書を利用する人はわずかで、持ち込んだパソコンで電子資料を利用する現状を述べ、ライブラリアンに残された仕事は図書館で契約するデータベースの選択、ユニークな蔵書構築、補修くらいであろう、という挑発的な内容である。

この記事が出た翌年の2010108日、OCLC(Online Computer Library Center, Inc.)のジェームズ・ミハルコ副社長が来日し、国立国会図書館関西館にて講演「デジタル環境下における米国の図書館の最新事情・将来計画とOCLCの活動」を行った。ミハルコ氏は、資料のデジタル化が日本よりも急速に進んでいた米国では、多くの資料が既に電子書籍に変換されていることを報告し、それに応じて図書館の蔵書管理方法も変わっていくだろうと予測した。大学図書館の蔵書が共同のリソースとして管理され、資料費も電子コンテンツのライセンス維持に多く割かれるようになるだろう。その上で、学術図書館がこれまでの伝統的な役割を超え、広範囲にわたって教育や研究の成果物を提供し、地元で価値を見出すことができるように変貌するだろうと示唆した。

ミハルコ氏は、電子出版への転換が学術図書館と研究活動を変容させていくと結論づけたが、変容するのは学術分野だけだろうか。当時、日本の多くの図書館員は、電子書籍や電子ジャーナルは大学図書館には関係があるが公共図書館には関係ないと受け止めていたが、今日では電子化の流れは公共図書館に及び始めている。ケータイ小説や電子コミックのような娯楽的要素の強い資料から法典、判例、統計、有価証券報告書のような政府系資料まで、ボーン・デジタルと呼ばれる、対応する紙媒体のない出版形態も多くなっている。このような出版メディアの変貌のなかで、今日の公共図書館は利活用されるべきコンテンツのプロバイダーとしてますます重要になっていくに違いない。

2 電子資料活用型図書館

ここまで、電子ジャーナル、電子書籍、データベースなど学術流通の世界における電子資料の進展と、国立国会図書館の所蔵資料デジタル化とオンライン資料の制度的収集を中心に歴史的経緯をみてきた。ここからは私が取り組んできた電子資料を活用した図書館の利用者サービスについて紹介する。

1に、読み上げ機能による電子書籍貸出サービスの開発である。このプロジェクトは読むことに困難を抱えている当事者と商用システムの開発者が一緒に話し合って技術開発したことに特徴がある。2016年4月に国内で初めて兵庫県三田市立図書館に導入されて以降、2022年6月時点では242自治体840館での導入が確認されている。

2に、日本語を母語としない定住外国人に向けて、多言語対応の電子書籍を活用したサービスの展開である。2018年2月10日に浜松市立図書館で電子図書の貸出サービスが開始され、その際にNPO法人フィリピノナガイサと連携し浜松市に在住するフィリピン人親子に多言語対応電子図書を利用する体験会を実施した。タガログ語と日本語の両方で使い方等を説明することで、在留者カードから図書館カードの申請、その場で発行、電子図書館サービスのID/パスワードを作って、スマホやタブレットで電子図書を実際に閲覧したのである。電子図書だけではなく図書館の使い方も分かり、参加者が図書館にとって自分たちがサービス対象者と認識されていることを実感していただいた事例である。

3に、図書館の蔵書の他データベースや電子ジャーナルなどの様々な情報資源を、同一のインターフェースで統合的に検索できるディスカバリーサービスを、公共図書館に導入する試みである。これについては今も課題があり、実証実験の際には、11の公共図書館が参加したが、最終的には本契約に至ったのは1館、その1館も既に契約を打ち切っており、公共図書館では未だ導入が進んでいないことが残念である。

4に、デジタル絵本製作のワークショップの開催である。2018年にあかし市民図書館で開催して以来、複数館で実施している。ワークショップでは、参加者がデジタル絵本を制作し主催館の電子図書館で無償公開する。統計を確認すると、制作した本人やその親族以外にも利用する人がいることが窺える。

5に、学校図書館における電子図書館サービスの推進である。追手門学院大学では、小学校から大学まで一貫して一つの電子図書館サービスを導入している。図書館の情報環境と電子情報資源を整備し、商業出版物だけではなく自分たちの学習成果物も電子書籍化しアップロードすると、その成果をまた別の誰かが使うことができる。環境を整え、循環を促す人が存在することで、情報資源の生産、流通、利用、保存という知の循環構造が構築されることが確認できた。なお、追手門学院ではこういった環境が整っていたことにより、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の際にもすぐに情報提供ができ、遅滞なく通常授業を開始することができた。日頃からICT環境と電子資料の整備をしておくことは、大事なことである。

3.公共図書館の新たな評価指標

そもそも、電子図書館サービスとは、従来からの紙媒体や雑誌をデジタル化し、閲覧・提供することだけを意味するのだろうか。この捉え方は、長きにわたって日本の公共図書館の評価基準であり続ける「貸出冊数」と「入館者数」の延長線上に、非来館型サービスである電子図書館を位置付けているからこそ起きている。しかし、デジタル・ネットワーク社会の中で、公共図書館に求められる機能と役割を再構築し、非来館型サービスである電子図書館に対して新しい評価基準を策定する必要があるのではないか。

現在、2019年度から5年間の科学研究費助成事業(以下、研究)として、電子図書館のサービス評価指標を策定するための調査研究活動に携わっている。この研究では、「資料」「来館者」「非来館者」「知の拠点」「図書館制度・経営」という5つの観点で研究グループを設定し、国内の公共図書館を対象に大規模な質的・量的調査を実施する予定である。私はこの研究チームにおいて「非来館者」の分担研究者として、電子図書館サービスを重点とした調査を担っている。

まず予備調査として、札幌市、神戸市、明石市の公共図書館における電子図書館を活用した来館型サービスと非来館型サービスの現況を調査した。主に、地方公共団体の総合計画と関連づけ、電子図書館サービスがその中でどのように機能しているのかに重点を置いた。

札幌市図書・情報館は、図書の貸し出しを行っていないことで有名であるが、館内で札幌関係の商用電子書籍が有効に利用されている。また、購読している電子書籍の中には、図書館が札幌市を中心とする出版社に声をかけて設立された「北海道デジタル出版推進協会」(HOPPA)が刊行しているものがあり、司書がレファレンスに利用したり来館者にも閲覧されたりしていることが分かった。一方、札幌市えほん図書館では、電子黒板を使ったデジタル絵本の読み聞かせなども行われ、電子図書館が非来館者向けのサービスとしてのみ存在するのではなく、来館者にとっても有効に機能していることが分かった。

あかし市民図書館においては、商用電子書籍を購入するだけではなく、利用者が絵本ワークショップの一環で製作したデジタル絵本を電子図書館に格納し、一般利用者がその絵本を閲覧できるようにしている。「本を読む」利用者が中心であったこれまでの公共図書館に、「本を作る」利用者が現れ、いわば受動的利用者が能動的利用者に変化していることが分かるだろう。

この他、予備調査を行ったすべての図書館が、電子図書館サービスを紙の本の読書に困難を抱える利用者向けのサービスとしても位置付けていることが分かった。そこで、この調査結果を基に研究グループに、「非来館型サービスとしての電子図書館サービスの評価指標を策定する上でも、来館型サービスとしての電子図書館の有用性も考慮すべきである」と報告した。

4.新しい公共図書館の評価基準に向けて

上記の研究と関連して、2022年7月に『カレントアウェアネス』で報告された杉本啓輔「地域資料収集としての自治体資料自動収集システムの開発」(No.438 2022年07月07日)をきっかけに、公共図書館における行政資料の電子書籍化プロジェクトにも携わっている。日本の公共図書館は、長く「貸出中心主義」にあり、利用者に館外貸出をいかに多く行うかということが重視されてきた。しかし今日では、図書館の建て替え等をきっかけに複合施設化などを行い、「貸出型図書館」から「滞在型図書館」へ移行する館が増えている。一方、市民の仕事と生活に直結する「課題解決型サービス」を担っていくことも、今日の図書館の任務である。最新の情報を求められる機会はこれまでよりも増え、今後は、情報を「所蔵」する役割よりも外部の情報資源も含めて「利用」されるように働きかける役割がますます重要になってくるだろう。

こういった状況の中で、行政資料の電子書籍化というのは非常に重要である。電子ファイルでの行政資料の提供が増加する中、各県立図書館では行政資料を電子的に収集し保存、公開するために様々な取り組みがされてきた。静岡県立中央図書館の取り組みがこれまでと異なる点は、一連の作業を自動的に行うシステムを、クローラ等のテクノロジーを活用して開発したことである。これにより、作業負担の多くが軽減されることになると同時に、発行元のコンテンツ削除等による収集漏れも防ぐことができるようになる。

各自治体で行われるこうした行政資料の収集と同時に進めて行く必要があるのは、音声読み上げ機能への対応である。多くの人々に向けて情報を発信する必要のある行政広報誌などは特に、「読書バリアフリー法」の「アクセシブルな電子書籍」として自動音声読み上げに対応させる必要があるだろう。

また、電子化した行政資料を効率よく検索していくためにも、本文検索が可能なディスカバリーサービスの導入を進めていくべきだろう。ディスカバリーサービスを用いて電子化した行政資料を検索すると、タイトル等書誌事項に登録していない事柄であってもヒットさせることができる。以前の公共図書館を対象とした実証実験の際には、情報がヒットし過ぎることで情報が探しづらくなっているとの意見が寄せられたが、検索対象を細かくベンダーと打ち合わせることで解決させることができる。行政資料も含めあらゆる資料が電子化され紙資料と一緒に使われる時代では、公共図書館は市民的価値の創出に繋げていくためにも、同一のインターフェースで統合的に検索できるディスカバリーサービスを導入し、電子図書館サービスを高度化させていくべきである。

これまで電子資料は商業出版物として捉えられがちであったが、多くの地方公共団体は、自らが著作権者である多くの行政資料を作成し市民に向けて発信している。図書館が集めるべき情報は、こういった行政資料の中でも公文書館では扱わないような、一般市民向けに公開されている資料である。こういった一般向けの情報を、図書館で収集・整理していくための方策について、プロジェクトを通して取り組んでいる。

5.結論 - 図書館DXに向けて

本日の講演の結論は次のとおりである。

電子出版の普及と国立国会図書館による所蔵資料のデジタル化とオンライン資料の制度的収集の推進、公共図書館による電子資料の収集と利用者への提供といった利用サービスの加速によって、公共図書館の機能と役割は大きく変化しつつある。公共図書館は、地域資料や様々な電子資料を提供するポータルサイトになることで地方公共団体の総合計画に寄与し、市民的価値を創出する新たな拠点に生まれ変わる必要がある。

デジタル・ネットワーク時代における電子資料を活用した新たな公共図書館像の構築を推進することが、喫緊の課題である。

質疑応答

Q1.

現在、県立図書館は「価値を創造する図書館」をコンセプトに運営しており、知識や資料を集積するだけではなく、活用していくという講演は、非常に参考になった。

当館で運営している行政資料アーカイブは、計画当初、単にPDF化された資料を蓄積するだけではなく、ExcelファイルやXLのような生データも含めて搭載し、オープンデータのような機能を持たせようとしていたが、実現しなかった。

各自治体ではオープンデータの提供について、主に情報部門等が中心となって取り組んでいるが、図書館はこういった取り組みにどのように関与していくのが良いか。

A1.

行政資料のようなものは文書館がもっと主導権を持つべきでは、というような話も確かにある。しかし、市民にとっての地方公共団体のポータルサイト的な役割は、図書館が担うべきではないかと考える。国会図書館で所蔵している資料すら一般市民が電子メールを通じて手軽に閲覧できる時代では、行政資料についてももっと市民が手軽に取得できるべきで、その時に図書館が果たしていく役割は大きいだろう。

しかし、実際に資料を収集していくとなると、かなりの調整が必要なことも容易に想像できる。既にオープンネットワークにアップロードされている資料について、システムによって定期的に自動で集めてくるということであれば、そういった調整も軽減されると思うがいかがか。

Q2.

ご指摘の通り、収集にあたっては調整が必要なことが多く、図書館単独では荷が勝ちすぎると感じることも多い。県全体の計画の一環として位置づけられ、それに基づいて動いていければ説明もしやすく理解も得られやすいが、なかなか実現が難しい。何か方策はあるか。

A2.

どの図書館にも効くような具体的な方策があるわけではないが、経験として外部の者から組織の上位者へ話をする、という方法はある。ある自治体の例では、建て替えのタイミングで副市長にお会いする機会があり、行政資料の自動収集について提案したところ、図書館と文書館による会議を持つことができた。その他、先進事例を示すことも良いきっかけとなる。他県や政令指定都市での取り組みが、自館にとっても有用であることを説明できれば、導入のハードルは少し低くなるだろう。

一方で、新しい事業を始めることによって、業務量にどういった影響がでてくるかも把握しておかなければならない。新しい事業を始めることで、負担ばかりが増すようではいずれ破綻してしまう。むしろ、新しい事業を始めることで、図書館のみならず多方面に渡って負担が軽減されるということであれば、各方面への説明もしやすくなるだろう。

補足として、PDFファイルを読み上げ対応させる際の研究開発について話をしたい。レイアウトが凝っていて、デザイン性が高い資料ほど、読み上げができない傾向にある。文字列が画像として登録されていることもあり、そういったものに自動でテキストデータを付与する仕組み作りに現在関わっている。システムを開発する際の開発費用の負担割合や商品の需要や図書館が導入しやすい価格体系なども含めて、図書館と企業が一緒に協議している段階である。このシステムが開発されることによって、図書館によって手作業で行わざるをえないような読み上げ対応を自動化することができる。このように、図書館も含め誰の負担も増えない仕組みを作るということは一つの要点になるだろう。

Q3.

多くの図書館にとって、書庫の狭隘は深刻な問題となっている。電子図書を導入した場合、紙媒体は捨てても良いものか。電子図書と紙所蔵の保管は別であるという考え方もあると思うが、電子図書での所蔵をきっかけに紙媒体を廃棄するような動きはあるのか。

A3.

電子図書での所蔵をきっかけに紙媒体を廃棄するような動きは大学図書館ではある。また、電子図書未導入の頃から、国会図書館や広域図書館(県等)が所蔵していることを理由に廃棄に踏み切ることは公共図書館でもあった。

所蔵資料のデジタル化が進んでいる現状では、全ての館が同じものを持っている必要はない。電子資料として持っていれば全て捨ててしまうということではないと思うが、電子と紙が重複している場合には、今まで以上に紙を保管しなくてもいいという考えに変わっていくだろう。

大学図書館では、書庫の増設や集密化、ロボットによる自動化書庫の導入等様々に対応してきたが、電子化の流れもありこういった書庫の拡張はなかなか認められなくなってきた。実際に追手門学院大学でも、図書館として書籍の収容スペースを作っていくのではなく、電子書籍コンテンツのタイトル数を飛躍的に増やす方針で対応している。

Q4.

電子書籍の契約にあたっての費用は高額で、苦慮しているところである。今後、購読価格が低下していくことは考えられるか。

A4.

可能性はあるだろう。現在、コンテンツ数は急激に増えてきている。このまま一定数以上になれば、一つ一つのコンテンツの単価にも影響が出ると考えられる。

電子書籍のコンテンツ価格は、ベンダーのみで決めているのではなく、出版社との話し合いで決定されている。これまでは、電子書籍が販売されることで紙の本が売れなくなるとの予想から、電子書籍の価格は高く設定されていた。しかし、電子書籍の価格を考えるにあたって、紙を基点に考える時代は変わりつつある。電子出版のみの資料も出版されてくる中で、状況が変わればおのずと現在の高額な価格設定も変わってくるだろう。

また、出版社と公共図書館でもっと交渉すべきではある。大学図書館の学術雑誌では、大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE=Japan Alliance of University Library Consortia for E-Resources)という組織を作り、団結して海外の大手学術出版社と価格交渉を行っている。日本の出版業界と公共図書館ももっと価格については交渉すべきではないか。初期の頃は、導入館数も少なく難しかったと思うが、今コロナ禍を経て電子書籍を導入する館は急増し、その規模も市内のすべての小中学校でも使えるようにするなど大規模になってきている。こういった例が増えるほど、価格交渉はしやすくなる。図書館側がもっと交渉力を持ち、言われた値段のままに買っている現状を変えていく必要があるだろう。

さらに、予算を確保するにあたっては、資料費の概念も変えていく必要があるだろう。電子書籍の導入は、図書館の資料やサービスの充実という側面もあるが、多文化共生社会を作るなど行政の総合計画に寄与していると考えることもできるはずだ。図書館の資料費という狭い枠の中ですべてを工面しようとするのではなく、自治体の総合計画の中で一番寄与できるところはどこなのか、という視点が必要だ。図書館は本を買っているだけではなく、総合計画の実現に大きく寄与しているということをアピールしていかなければならない。そういった局面では、「司書」という概念を発展させて、図書館というフィールドで総合計画の実現のための課題解決を実践する行政職という観点からアプローチできる人が重要になってくるだろう。

以上