令和3年度 第2回図書館アドバイザー・レクチャー実施結果
日時・会場
令和4年3月10日(木曜日)14:00~16:00
於:川崎図書館カンファレンスルーム及び県立図書館セミナールーム
※講師は川崎図書館に来館し、県立図書館とWeb会議システムによりつなぎ開催
アドバイザー紹介
株式会社栗原研究室 代表取締役設計室長 川島 宏 氏
一級建築士。早稲田大学非常勤講師、明治大学・立教大学兼任講師。
日本図書館協会図書館災害対策委員会、図書館施設委員会委員。
主な著作に
『図書館施設論(JLA図書館情報学テキストシリーズIII 12)』(共著、日本図書館協会、2020年)、『よい図書館施設をつくる(JLA図書館実践シリーズ13)』(共著、日本図書館協会 2010年)等がある。
概要 テーマ:「自然災害と図書館 -事例を通じて備えを考える part2-」
1.はじめに
阪神淡路大震災の教訓から災害に備えることが注目されるようになった。建築士の立場から、東日本大震災や水害等で被災した多くの図書館を訪問してきた。昨年度に引き続き多くの写真を紹介しながら、まずは昨年度のレクチャーの内容を振り返りたい。
2.東日本大震災で被災した図書館の状況
災害が発生した際、大きく分けて「人」「資料」「施設」の3つの視点で必要な対応を行うことになる。視点ごとに時系列で対応すべきことをまとめたマトリクスを用意しておくことで、混乱する現場においても優先度の整理が可能となる。
石巻市図書館や気仙沼市図書館は、高台にあったため津波による被害を逃れた。横浜の県立図書館は海抜27mと津波に関しては安全なロケーションといえるが、付近一帯が大災害に見舞われたら、どのような状況になるか考えておく必要がある。図書館が避難所になった事例として、石巻の様子を昨年度紹介した。岩手県立図書館は複合施設であり、多くの人がパブリックスペースに避難した。当初図書館としては開いていなかったが、何日か経ってからできる範囲でのサービスを開始している。南三陸町図書館は海沿いにあったため建物はすべて流失した。2019年に標高の高い場所で再開している。名取市の図書館は、津波ではなく地震の揺れにより建物がひび割れ、取り壊す判断がされた。現在は複合施設内で再開している。一方、東日本大震災から11年経っても大熊町、双葉町など再開できていない図書館があり、まだ復興は終わっていないということを忘れてはいけない。
3.熊本地震による図書館の被害状況
熊本地震の事例をもとに、施設の安全性を確認する視点をまとめておく。
(1)立地の安全性を確認
過去の災害の記録、土地の歴史を伝える資料、震度予測や活断層の資料、浸水ハザードマップなどから災害の可能性を予測することが可能である。地名に沼・沢・川など水に関係することばがついている地域は、過去の歴史から水害の可能性を考慮する必要がある。
(2)建物の安全性を確認
構造形式、建設年、耐震改修の状況から安全性を確認できる。熊本県宇土市役所の例だが、耐震上の危険性は認識していたが、改修が後回しになり悪い結果に至ってしまい、関係者は忸怩たる思いをされていたという。
(3)建物の周辺の安全性
危険な箇所の有無や、最寄りの避難所を確認しておく必要がある。熱海市での土石流による被害などを見ても水害に関しては発生頻度が高まり、激甚化しているといえる。
(4)落下すると危険なもの
高所が危険な状態になると、その下に人を入れることができなくなり、全面閉鎖・部分閉鎖が長く続くことになる。熊本のある図書館では天井の金属材がはずれてぶらさがり、再開に1年かかった。川崎図書館にも防煙垂れ壁が設置されているが、頭より高い位置であるためガラスが割れるのは危ない。業界としても製品改善に努めているが難しい問題である。震源地の益城町では、建物は新しく大きな被害はなかったが、天井から吊るされた照明器具がほとんど切れて落ちてしまい、すぐには再開できない状況であった。再訪問時には照明はすべて天井付けに変更されていた。
(5)設備系統からの漏水
意外に怖いのが、地震に伴う設備系統からの漏水である。気が付いてすぐに資料を救出できればよいが、安全性の確認も重要である。複合施設での漏水の事例としてくまもと森都心プラザ(熊本市立図書館)を紹介する。県立川崎図書館より新しい建物で3・4階を図書館が占めている。堅牢な建物であったが、4階の天井からジャバジャバと黒い水が降ってきて、何百冊単位で水濡れ被害が発生した。職員の安全を確保しながら資料の救出を行う必要があり、責任者の判断も重いものがあった。合志市の図書館も複合施設だが、館内の天井いたるところからボードが落下するほどの水が落ちてきた。消火設備系の破損が原因と思われ、AV機器の損傷、資料数百冊の水損被害があった。水による被害の場合、割れたタイルを補修するのと違い、抜本的に設備のやり直しをしなければならない。そのため複合施設は安心とは言い切れない。
(6)非常時への備え
熊本大学では多くの資料が落下し散乱する被害があったが、復旧作業中エリアと利用可能エリアを仕切りで分けて学生の利用に供していた。余震もある中であったため、利用者用にヘルメットが用意され、装着して館内を利用するよう促していた。益城町の図書館でも、入口付近にヘルメットと避難経路を示したポスターが一緒に設置されていた。実際に大きな揺れを経験した職員ならではの対応といえる。また、本来の非常口ではない場所にも「ここから外へ避難できます」と掲示があり、まずはどこからでも逃げるんだという意識がうかがわれる。図書館は本がたくさん置いてあるため避難所に適していないが、石巻市は高台に図書館があったため、多くの人が避難してきた。大船渡市のようにカウンターの前に大量の救援物資が置かれ、図書館サービスを行う状況ではなく、後方支援を行う状況になった館もある。
4.図書の落下について
(1)書架の形状
一般的に、書架の下段より上段が揺れやすく資料の落下も起きやすい。少しでも落ちにくくするための例としては、下段が斜めになっている書架だが、やはり上段の資料は落下しているのをよく見かける。また、高書架の多い大学図書館などで見られる頭つなぎをつける方法も、一般的には揺れに対し有効に働くが、激甚な揺れではそのまま横倒しになった事例もある。高書架よりは低書架・中書架が有利であり、さらに低く斜めの書架はより落下の量が減る。福島県鏡石町の例では、台形の中書架で落下しにくくなっていたが、3.11の震災では書架ごと倒れてしまうものもあった。
(2)その他の対策
床への固定に関しては、低書架の場合では固定無しでも書架自体が20cm程度ずれたものの本はほとんど落下しなかったという事例があった。直下型の地震の場合は書架がジャンプしてその下に本が挟まって損傷してしまうケースもある。そのような数は多くはないが、低書架だから固定無しでよいという単純な話ではない。激甚な災害では様々なことが起こる。
滑り止めシートや滑り止めテープなどの商品もある。宮城県立図書館では、書架に並んでいる資料に落下防止のヒモを適度にゆるく張っていた。絶対に落ちないように書架にきつくヒモを張ると、書架ごと倒れるリスクが生じるため難しい方法である。落下した資料を元に戻し、ようやく再開館という矢先に余震で再び本が落下する事態に、それをなんとか防ぎたいという職員の願いは分かるものの、注意を要す。
建物の免震装置は、東日本大震災以前は図書館には過剰という認識があったが、千葉県八千代市のほぼ平屋の図書館の設計においても反対意見はなかったと聞き、地震への安心安全に対する意識は確実に変わっていると感ずる。
5.地震による建物の損傷
熊本地震のあと、多くの建物に応急危険度判定の結果が貼られた。判定には建築士ボランティアも多く駆り出された。ひび割れの大きさだけで危険かどうか判断するのではないが、主要構造部に損傷があると重篤な状況と判断される。耐震改修しているにも関わらず柱が割れてしまった学校(栃木県の事例)は建て替えとなった。一方、大きく壁が割れてしまっていても主要構造部の損傷でないために復旧できた例もある。この学校(仙台市)でも耐震改修がされており改修の効果があった。
応急危険度判定では、緑は「調査済」、黄色は「要注意」、ピンクは「危険」を表すが、あくまでも応急の判断である。柱や梁など大事な構造物にひびがなければ「調査済」が貼られる。「要注意」が貼られると立ち入りに十分な注意が必要とされ、職員はヘルメットを装着するなど大きな余震がきたときにどう行動するのか注意しながら活動することになる。大きな余震が続く中で資料をどう救出するのか、職員の安全と資料の保護との間で難しい判断が必要となる。
一般住宅の判定が優先される傾向があるようで、図書館の判定があとまわしにされる中、不安を感じながら作業をするケースも見た。そのような場合、日本図書館協会の災害対策委員会に写真などを利用して相談することで、何らかのアドバイスが得られることもある。対応できることできないことがあるが、少しでも役立つことを願っている。
6.火災について
建築基準法は地震と火災に対しての安全性を求める規定が多くを占める。日本は木造文化であるため火事への備えに関する法律は厳しく、相当安全にできているため、図書館の大きな火事は生じないかと思っていたが、2016年8月、長崎県諫早市で落雷による図書館の火災が発生した。消火活動にあたっては資料の保護も配慮されたようだが、放水に伴う水損被害が発生し、資料レスキューの動きがあった。最近相次いで放火事件がニュースとなったが、図書館で火災は発生しないと思い込まない方がよい。
2019年に刊行された書籍『炎の中の図書館』では、ロサンゼルス中央図書館で発生した大火災を扱っている。この火災では40万冊の資料が焼け、70万冊が損傷した。ひとたび火災が起こると図書館は大変脆弱であり、火災への危機感を持っておく必要がある。古い話であるが、昭和34年には宮崎県立図書館が火災により全焼している。ドイツのワイマールにあるアンナ・アマリア大公妃図書館では2004年に漏電による火災が発生し半焼した。現在は復旧されたが、一部に火災の痕跡を敢えて残して保存している。
新しいアンナ・アマリア大公妃図書館と同じように本の壁に囲まれた空間が山形県米沢市にも誕生した。ただ、日本の方が法律的に厳しいため、上部の書架のキャットウォークには職員しかあがれない。また資料の落下対策として、全ての書棚がわずかに傾いており簡単には落ちないような配慮がされている。
県立川崎図書館では、火災に対する備えとして消火器、消火栓、スプリンクラーが設置されている。スプリンクラーは火災に対し安全ではあるが、火災が起こった場合天井から水が降ってくることになる。資料にとって火災も怖いが水も怖い。スプリンクラーの事故による水損被害の事例も複数ある。水による被害への備えに関しては、東京都立中央図書館の真野節雄氏の資料が参考となる。県立川崎図書館では、さらに防煙垂れ壁と機械排煙が設置されている。この設備ではボタンを押すことで排煙されるが、実際に火災が発生したときに煙を逃がそうという気持ちのゆとりがあるだろうか。煙よりも人間を逃がす、逃げる意識の方が先に来るだろう。
7.水害について
近年自然災害による水害が相次いでいる。栃木県小山市にある白鴎大学では、2019年の東日本豪雨の際は2015年の教訓を生かして学生も資料の避難に協力し、資料の水損被害を免れることができた。2018年の西日本豪雨の際は、岡山県倉敷市真備町の図書館は1階全部が水没してしまった。ハザードマップでは3mほど冠水する可能性のある場所であり、カウンターの側にも注意の掲示がされていた。数日図書館には近づくことができず、ようやく中に入ると書架がバラバラになってしまう状態であった。水害の片づけは重労働で、何日も泥水につかっていた館内は、臭気とカビの発生で本当に大変な思いをされたそうである。
施設の電気系統は水に対して大変脆弱であり、電気室が水につかってしまうと施設全体の再開に時間と費用がかかる。戦後の治水政策により河川の堤防の強化は進んでいるが、気候変動により今まではなかったレベルの水害が多く発生している。浸水ハザードマップを確認し、館の所在地の標高や過去の災害の記録、付近の河川・水路・池の有無を確認しておくなどの警戒が必要である。
実際に水害が発生した場合、まず大切なのは利用者そして自分の命を守ることだが、床上10cmくらいの浸水であれば、職員の懸命な尽力により書架の一番下の本や椅子を上に避難させて資料を守ることは可能で、その事例も複数聞いている。令和元年(2019年)の台風15号・19号で関東地方も広く水害に見舞われたが、東京都市大学では地下書庫の多数の資料が被害にあった。この近辺では川崎市民ミュージアムの地下の収蔵庫がほぼ冠水したため23万点の貴重な資料が被害にあった。ハザードマップを見ると3メートルの水がくる可能性があることがわかる。水が来た時にどうなるのか、電気室がどこにあるのか、非常電源がどれくらいもつのか、考え出すときりがないが、漠然と楽観視するのではなく、情報を集めてリスクを把握しておくことが必要である。
大切なものはまず利用者そして自分の命を守ること、そして、貴重な代えのない資料は何かを把握し、貴重なコレクションはなるべくリスクの少ない場所、そして災害だけではなくカビや雨漏りなど様々なリスクに注意し、保管されることが望ましい。都立中央図書館の眞野氏は資料保存の活動の中で、資料レスキューや修理の講習も開催されている。
最後に参考資料を紹介する。
『図書館が危ない! 地震災害編』神谷優著 エルアイユー 2005年刊 OPAC(蔵書検索)
東日本大震災以前に執筆されている点で貴重である。
『みんなで考える図書館の地震対策 減災へつなぐ』日本図書館協会 2012年刊 OPAC(蔵書検索)
東日本大震災後に集まったメンバーによる地震対策マニュアル作成のための資料。
『水濡れから図書館資料を救おう! 』眞野節雄/編著 日本図書館協会 2019年刊 OPAC(蔵書検索)
多くの図書館の水損被害を受けてまとめられた資料。
『東日本大震災あの時の図書館員たち』 日本図書館協会 2020年刊 OPAC(蔵書検索)
震災の記憶を忘れないよう、図書館員が何を感じ行ってきたかの記録。
『図書館施設論』中井孝幸、川島宏、柳瀬寛夫共著 日本図書館協会 2020年刊 OPAC(蔵書検索)
教科書的ではあるが、図書館の安全についても触れている。
加藤孔敬、川島宏「図書館に求められる水害への備え」『カレントアウェアネス』No.348
カレントアウェアネス・ポータル(https://current.ndl.go.jp/ca1997)
東日本大震災当時、東松島市図書館に勤務していた加藤氏とともに水害に対する事前の備えを中心にまとめた資料。
質疑応答
Q1.県立川崎図書館は氾濫低地に立地している。建物自体はしっかりしているが、地震が発生したときにどのような判断が必要になるか。
A1.氾濫低地は地盤が脆弱である。建物は堅牢であっても揺れに対するリスクには警戒したほうが良い。建築工学の立場としては、建物が壊れて人が亡くなることは避けようとするが、大きな地震であれ書架の倒壊や本の落下は許容範囲と考えざるを得ない。新しい建物ではガラスが割れるリスクは少ないが、本はたくさん落下する可能性があると考えたほうが良い。
Q2.館内に防災管理者を置いているが、施設においてはどのようなことを行うべきか。
A2.防災管理のマニュアルや実践的な情報については、千代田区にある防災専門図書館に尋ねるのがよいのではないか。