日時・会場

令和3年2月24日(金曜日) 14時00分から16時00分
於:県立図書館セミナールーム及び県立川崎図書館カンファレンスルーム
※講師と各会場をWeb会議システムによりつなぎ、オンラインで開催

アドバイザー紹介

アドバイザー:専修大学経営学部教授 荻原 幸子 氏

慶應義塾大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻修士課程修了。
現在、専修大学経営学部教授。
文部科学省「これからの図書館の在り方検討協力者会議」委員(2009年)。
日本図書館情報学会常任理事(2017~2019年度)。
公共図書館経営における住民参加、行政改革下における公共図書館経営のあり方を研究テーマとしている。

主な著作に

『公共図書館運営の新たな動向』(共著、勉誠出版、2018年)等がある。

概要 テーマ:「地域社会との連携と協働(その2)」

本日のレクチャーは「図書館アドヴォカシー」と「県立図書館を対象とした包括外部監査」の二部構成としている。この2つは全く関連がない別々のテーマのように思われるかもしれないが、いずれも図書館運営面での「地域社会との連携と協働」に関わっているということを最後にご説明したい。

第1部 図書館アドヴォカシー

図書館アドヴォカシーについては、ALA(アメリカ図書館協会)の大会でしばしば話題にされており、以前から関心を持っていた。そもそもアメリカと日本では、制度や法律、運営の仕組み等が異なるため、直接生かせることはそれほど多くはないが、今年度のALAの年次大会で聞いた内容は、日本の図書館の現場にも参考になるのではないかと考えたので紹介したい。

昨年のこのレクチャーでは、吉田右子氏による「住民による図書館支援の可能性」(『変革の時代の公共図書館』 勉誠出版 2008年)を紹介した。吉田氏は住民を図書館の「支援者」という観点から分類しているが、その中の一つである「図書館業務には関わらないものの、公共図書館振興のための活動を行う住民」には、"図書館協議会の委員や、図書館懇談会のような図書館が主催する公的な議論の場に参加する住民も含まれる"とされ、図書館アドヴォカシーの主要な活動領域であると述べている。さらに日本において、図書館アドヴォカシーは「今後重点的に取り組むべき領域の一つ」であり、「住民による図書館支援の中核と位置づけるべきであろう。」等と述べている。

「図書館アドヴォカシー」について、バーバラ・J・フォードは、「図書館に対するサポートを声に出して表明し、また他の人々にも同じように行ってもらうようにする行為である。」「効果的なアドヴォカシーがなければ、図書館はその必要不可欠な機能を果たすためのリソースを得るために必要なサポートと注目を得られないであろう。」(『米国の図書館事情に関する調査研究』国立国会図書館編 2008p.56-59)と述べている。アメリカでは図書館のサポートが必要な人達、例えば母国語が英語ではない人や子ども、生活困窮者などへのサービスに高い関心を寄せている一方で、資金に余裕がある個人や企業から寄付を募る活動も盛んに行われている。私見だが、こうした構造により、図書館利用者ではない人たちに対する「図書館の存在意義」のアピールが非常に重要であり、「図書館アドヴォカシー」が盛んに行われている要因ではないかと考えている。また福田都代氏は、図書館アドヴォカシーについて「(略)広報活動よりもさらに説得の技術と組織力が必要となる。」『米国における図書館アドヴォカシーの展開』(カレントウェアネスNo.294 2007年)と述べている。すなわち、賛同者を得るためには、ただ知らせるだけではなく、人々の共感を得ることが重要である。

アメリカ図書館協会には、「図書館運営理事会」や「図書館委員会」などと訳されるLibrary's Boardの理事達(Trustees)、「友の会(Friends)」の人達、資金調達を担っている財団「Foundations」、その他の図書館支援者「advocates」などによる組織が一部門として存在しており、それが「United for Libraries」である。

「United for Libraries」が今年度のALAのバーチャル大会において主催したセッション「Advocating for Your Library:The E's of Libraries® and collecting Stories」では、ニューハンプシャー州立図書館の副館長であるLori Fisher氏が、過去4年間のアドヴォカシー活動の中で実践してきた「ストーリー」を紹介しており、非常に興味深かった。Lori Fisher氏は、ある家族が図書館で3人の子どものパスポート申請の手続きを行ったという「ストーリー」を紹介し、「『ストーリー』の目的は人々に図書館の存在を思い出してもらうためのものであり、図書館が地域社会に何を提供しているかについて知らせるためのものである。」と述べていた。また、効果的な「ストーリー」の要素として、1登場人物(The Person)、2解決したい課題(The Problem)、3図書館の介入(Library Intervention)、4ハッピーエンド(Happy Ending)、51つの統計データ(One Fact)の5点を挙げていた。作成した「ストーリー」の効果的な活用機会としては、「予算委員会での説明」や「地域の諸団体(ロータリークラブ)での講演」等があるが、図書館の現場においては「毎月の職員会議」というケースも考えられるということであり、現場の職員が前述の5つの要素をもとに作成した「ストーリー」を職員会議で紹介することは、その職員自身の訓練にもなるとともに、異なる部門の職員間で「ストーリー」を共有し、図書館全体の出来事を知ることにもつながると指摘している。心に響く話をデータと共に要領よく「ストーリー」として構築し、そうして作られた「ストーリー」を図書館で蓄積し、要所要所で活用することが重要であるとも話していた。ニューハンプシャー州ではALA州支部のEngage Platformにおいて「図書館ストーリー」を集積しており、利害関係者や議員もアクセスできるようになっているとのことである。日本の「レファレンス協同データベース」は、「ストーリー」の集積に類似したものかもしれない。蓄積されるレファレンス事例が「質問と回答」(対応する資料の列挙)のみであるために、そのままではアドヴォカシーとしては活用できないが、各事例をさらに膨らませて、利用者がなぜそのような質問をしてきたのかという背景や、回答を得た利用者にどのような影響を及ぼしたのかということを、前述の5つの要素に沿って、何かしら心に届く「ストーリー」として蓄積し公開されれば、図書館の支持者や支援者が増えていく可能性があるのではないかと考える。図書館は支援者が増えれば増えるほど地域に根付き、その価値を高めるが、そのための方策の一つとして、「図書館アドヴォカシー」をご紹介した。

第2部 県立図書館を対象とした包括外部監査

新潟県立図書館協議会の委員長という立場から、新潟県立図書館に長く関わっているが、20201210日に、地方紙である「新潟日報」に新潟県立図書館の民営化の話が報じられ非常に驚いた。図書館協議会としての意見書を作成する過程で、新聞記事のデータベースで「県立図書館」「指定管理者制度」などをキーワードとして検索すると、「包括外部監査」に関する記事が多く見つかった。そのことをきっかけとして「包括外部監査」に関心を持ち、「都道府県立図書館は、包括外部監査で何を指摘されたか」を中心に調査を行った。まだ調査を始めたばかりであり、調査結果も「速報」ということになるが、現場の皆様には是非ご紹介したいと考えた。

包括外部監査は、地方自治法に定められた「外部監査」の一つである。調査にあたっては、2010年度以降の47都道府県の監査報告書から県立図書館に関する指摘事項や意見、監査結果に対する対応(措置状況)の記述を抽出し、それらを「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成241219日文部科学省告示第172号)の項目に基づき整理した。適宜「図書館の設置及び運営上の望ましい基準活用の手引き」(日本図書館協会 2014年)も参照した。2010年度から2019年度までに、19都道府県の監査報告書に県立図書館に関する記述があった。例えば「県民利用施設の管理運営に関する財務事務の執行について(指定管理施設を中心として)」(大分県、2019年度)や「公の施設の管理運営及び指定管理者制度の事務の執行について」(三重県、2016年度)等である。

7つの観点で整理をした具体的な指摘事項や意見の事例と、それらに対する所感のようなものを提示する。

「指定管理者制度の導入」に関する指摘・意見からは、監査人は図書館が「直営」である理由を一定程度把握した上でもなお、導入可能な業務範囲の検討や、導入を検討した記録、検討結果の公開を求めていることが分かった。県立図書館をはじめとした直営の施設は、指定管理者制度という運営形態の選択肢の存在を踏まえて、常に直営である理由を問われ、その理由の妥当性を問われ続けるのだということを実感する。

「運営の状況に関する点検及び評価等」に関しては、指定管理者制度導入施設との対比において、点検・評価の実施が強く要請されている。すなわち、直営施設である限りは、指定管理者制度導入施設と同等か、それ以上の厳密な点検・評価の実施が必要であるといえる。

「調査研究」という観点は、「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」で示されている「二 都道府県 3調査研究」に基づいて設定したが、「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(2001年)で「調査・分析・把握」とされていたことから、「分析」に言及した指摘・意見を整理した。その内容は「蓄積した利用者等の意見の内容を分類別・時系列に分析すること」を求めるものであった。利用実態や利用者の要望等に関しては、司書による現場の「経験知」と、収集したデータの「分析結果」を組み合わせた把握と、監査人や県民に対する説明が必要であるといえるだろう。

「域内の図書館への支援」という観点では、監査人と図書館との間でかなり論理的なやり取りが行われた事例があった。このことから、外部監査は図書館の考え方を対外的に提示する機会であるとも考えられる。

「図書館資料」については、「望ましい基準」には「網羅的・幅広い収集」「専門書・学術書の充実」とあるが、監査人からは、予算削減と整合した収集方針の見直しが求められている。また、「望ましい基準」には言及されていない「除籍」についての意見が出されていた。「施設・設備」については、「望ましい基準」では市町村との共同保存庫としての役割を県立図書館に求めているが、監査人は県立図書館の収蔵能力の限界を想定している。そして「職員」について、監査人はあくまでも人件費の削減を求めている。すなわち、図書館を構成する要素としての「資料」「職員」「施設」に関して、「望ましい基準」は拡大志向である一方で、監査人は縮減志向であることが分かる。

これらの結果は、県立図書館のあり方に関する数々の「問いかけ」であると理解している。なぜ図書館は直営であるのか、点検・評価は十分に行われているのか、県立図書館の「調査・研究」機能とは何か、経験知と根拠を組み合わせた論理的な説明ができるか、そして「縮減」の議論も必要ではないか...といった「問いかけ」である。図書館運営においては、こうした観点からの検討も重要であると考える。

まとめ

冒頭に、アドヴォカシーと包括外部監査はいずれも図書館運営面での「地域社会との連携と協働」に関わっていると述べた。包括外部監査による「問いかけ」に対しては、これからの図書館運営に関する議会・行政・県民の「連携と協働」による検討が必要である。一方で、図書館と地域との「連携と協働」による図書館アドヴォカシーによって、図書館の存在意義を広めていくことも必要である。つまり、包括外部監査の観点から運営の足元を固めつつ、アドヴォカシーの取組みによって図書館の支援者を増やしていくことが、これからの図書館運営には必要であると考える。地域社会との連携や協働は、一般には企画展示などのサービス面で議論されることが多いが、そのサービスを支える図書館運営という側面でも重要なテーマであると考えている。

とはいえ、図書館アドヴォカシーに共感して自らも図書館支援に関わろうとする住民や、これからの図書館運営の検討に積極的に関与する住民が、自ずと現れるわけではないだろう。果たしてどのようしたら社会的な活動に積極的に関わる地域住民が多数存在する社会となるのか、そのために図書館は何ができるのかを考え始めると、私のもう一つのテーマである「図書館と民主主義」と結びついてくるのであるが、その点についてもいつか、現場の皆様と一緒に考えることができればと考えている。

【質疑応答】

Q. 新型コロナの影響もあって、図書館に人を呼ぶ活動ができず苦慮している。また、「自宅でも利用できる図書館」を求める声が高まっているが、そのことについてどのようにお考えか。

A. 県立図書館における電子書籍の導入については、財政的に現実的かどうかの検討が必要だと考える。私としては、現在所蔵している県立図書館の資料を県域全体の人々に存分に利用してもらう体制を整え、協力貸出等の実績を上げることで、県立図書館が県民全体を支援しているのだという社会的な理解を高めることを重視している。

Q. 現在建設中の県立図書館の新棟の開館に向けて、新しい利用者を獲得するために、今まで利用していない人々に向けてアピールしたい。そのようなユーザーにはどのようなニーズがあり、どのような活動をしたら新しい図書館に来てもらえるのか、何か良いアイディアがあればご教示いただきたい。

A. 新規利用者を獲得したいというのは、どの図書館でも聞くことである。だだし、新規獲得も大事だが、現在の利用者を、講義の中で紹介した『ファンベース』という図書に示された「ファン=支持者」の定義にもとづいて位置づけ、意識的に大切にしていくことも重要であると考えている。『ファンベース』には、企業のマーケティングにおいては現在の顧客のうち、ファン(企業価値を支持する人々)を離さない取り組みが大事だと書かれている。また、「あなたの親しい人にこの施設をどの程度薦めたいですか」「そのような回答の理由は何ですか」という質問をすることで「顧客推奨度」を調査するマーケティング手法もあるとのことで、そうした調査から自館の強みやファン層を明確にしたうえで、対象となる人々に働きかけていくこともあり得るのではないかと考える。

以上