日時・会場

令和3年2月12日(金曜日) 14時00分から16時00分
於:県立図書館セミナールーム及び県立川崎図書館カンファレンスルーム
※講師(研究室)と各会場をWeb会議システムによりつなぎ、オンラインで開催

アドバイザー紹介

アドバイザー:株式会社栗原研究室 川島 宏 氏

一級建築士、代表取締役設計室長。
早稲田大学非常勤講師、明治大学・立教大学兼任講師。
日本図書館協会図書館災害対策委員会、図書館施設委員会委員。

主な著作に

『図書館施設論(JLA図書館情報学テキストシリーズIII 12)』(共著、日本図書館協会、2020年)、『よい図書館施設をつくる(JLA図書館実践シリーズ13)』(共著、日本図書館協会 2010年)等がある。

概要 テーマ:「自然災害と図書館 -事例を通じて備えを考える-」

私が地震の被害に関わるようになったのは、2003年に日本図書館協会の図書館施設委員会の委員になってからである。その年に宮城県北部連続地震が起こった。本日は県立図書館での講義なので、各地の地震において各県立図書館でどのようなことが起こったのかをあらためて振り返りたい。

2003年の宮城県北部連続地震は図書館の被害が甚大で、ガラスが割れ、本が大量に散乱した。県立図書館の被害が一番大きかったかもしれない。2か月後には同じような場所で激甚な地震が起こり、矢本町(現:東松島市)の図書館が大きな被害を受けた。

2004年に新潟県中越地震が発生した際には、県立図書館は地域の図書館の状況をホームページ上で発信した。大きな地震が起こると、県立図書館自体も大きな被害を受ける場合があるため、過大な期待をすることはできない。しかし、初期の段階では情報が重要であるので、県立図書館が情報の収集・発信の役割を果たしてほしいと個人的には期待している。

2011年に起こった東日本大震災は、被害が広範囲に及んだこと、津波の被害があったことが特徴とされている。特に沿岸部の被害が多く、できるだけ多くの図書館に足を運んだ。盛岡駅近くの複合施設に入っている岩手県立図書館は、まだ新しく、被害は小さかった。地震直後は約1,000人もの人々がアイーナ(いわて県民情報交流センター)へ避難したため、避難所状態が何日間か続いた。指定管理者の職員が、自発的に避難者への本の提供を行ったそうである。岩手県内の図書館では重篤な被害が発生し、スピーディーな情報収集は難しかったが、県立図書館が地域の図書館を回って援助を行ったと聞いている。

宮城県図書館は、山裾のような場所にある横に長い特徴的な建物だが、強化ガラスが割れるなどの大きな被害を受けた。地震後の4月に訪問した時は、再開に向けて準備をしている最中で、2003年の地震被害の教訓から書架のパーツをベルトで固定していた。地震から1か月経過しても大きな余震があり、戻した本が大量に落ちてしまうこともあって、職員は心が折れそうになったと話していた。ただ、写真ではビニルテープを落下防止のために巻いているが、テープを頑丈に巻くと「トップヘヴィ」といって上部が重くなり、本は落下しないものの床固定ボルトに負荷がかかり、書架ごと倒れる危険性がある。感震装置付きのバーは最上段に設置してあることが多いのだが、揺れのエネルギーをため込むことで、本棚ごと倒れるリスクに注意して、限定的に使用している。

宮城県図書館は比較的建物のダメージが少なかったため、5月に再開することができたが、福島県立図書館は再開までかなり時間がかかった。インターネット上には「軒が破損した」「ガラスが何枚か割れた」という情報が出ていたが、たとえ30センチ角であっても4メートル角であっても、文章上ではどちらも「ガラス1枚」である。実際に訪問したところ、大きく破損した軒がぶら下がって危険な状態になり(訪問時撤去済み)、目視で高さ4メートル程のガラスが割れていた。幸い怪我人は発生しなかったとのことだったが、人がいれば死者が出てもおかしくない状況だった。この調査から、実際に足を運ばないと分からない事があることを実感した。図書館内は天井から空調の吹出し口が大量に落ち、改修時には樹脂製の軽い物に変更された。外に避難した後に落下したため、人に大きな被害はなかったが、上から落ちてくるものは非常に危険である。また閉架書庫内では、膝まで埋まるほど本が落下した。元に戻すのは職員の手だけでは足りないため、ボランティアに手伝ってもらいつつ、訪問時(6月)整理は続いていた。福島県でも大きな余震があったため、再度落下してしまう資料もあった。

茨城県立図書館は、県庁の議会棟だった建物を改修して図書館として使用しているユニークな例である。外観はそれほど被害を受けているようには見えなかったが、中では天井パネルが剥がれたり落下したりした。また、3層吹き抜けのエントランスホールで避難誘導をしていた職員が、上から降ってきたコンクリート片が頭に当たり、重篤な怪我を負って入院した。工事を経て秋に再開したが、頭上に危険があると、再開までの大きな足かせとなる。

公共の建物(図書館)には、災害が発生する前に「人」と「資料」を守るための防災計画を作成する義務がある。図書館は防災計画を作成し、避難誘導や消火・救命などの訓練を実施しているはずである。災害発生時のマニュアルは必要であるし、訓練も行った方が良い。私は日本図書館協会の施設委員会、そして建築士の立場であるから、施設面に対するアドバイスの比重が大きくなるが、施設を調査することは備えの中でも重要である。例えば構造を把握したり、家具を脆弱なものから変えたり、また、避難経路の確認と確保といった備えが必要である。被災後の対処方針は、応急危険度判定によって判断することになる。

続いて、東日本大震災の被害から、各図書館がどのように復興したのかを写真と共に紹介したい。図書館施設委員会による『東北における新たな図書館の動き―震災から立ち上がる図書館』にもリポートしている。大槌町立図書館は津波で壊滅的な被害を受けて解体されたが、利用者を避難させて職員も丘へ避難し無事であった。被害があった一帯は嵩上工事を行い、図書館は場所を移して複合施設の3階部分に新しくオープンした。

陸前高田市立図書館は、7名の職員が図書館の隣の体育施設に避難した。そこには100名近くの人が避難したが、数人を除いて津波で亡くなった。その後、嵩上工事が入念に行なわれ、その上に新図書館が建った。気仙沼市図書館は高台の上にあったため津波被害がなく、早いうちに開館出来たが、躯体破損の状態が危険と判断され、同じ場所に建て替えられた。南三陸町図書館では館長が亡くなられた。図書館の背後に海があり、全て流された。2019年4月に別の高い場所に複合施設としてオープンした。

多賀城市図書館は地震被害がありつつも建物は生かせたが、駅前に場所を移して新館オープンした。大崎市図書館は地震の揺れによるダメージはあったものの再開できたが、後に建替えられた。名取市図書館は古い建物だったために、柱、梁に重篤なヒビが多数入り、立入禁止となった。201812月に駅前に場所を移して、複合施設の一角にオープンした。北茨城市立図書館は駐車場に漂流物などが残ったが、建物は無事だった。場所を変えて新しくオープンした。

原発エリアの図書館のうち、南相馬市立小高図書館は複合施設で長く閉館していたが、再開した。富岡町図書館も複合施設であるが、2018年に再開した。しかし大熊町などの帰還困難区域では、未だ図書館が使用できない状況が続いている。

続いて、2016年に起こった熊本地震においてどのようなことが起こったかを振り返りつつ、地震をはじめとする自然災害に対する備えについて説明する。

益城町では町の被害は大きかったが、図書館は新しい施設でほぼ無事だった。熊本県立第二高校は、外観は無事のように見えたが、診断の結果建て替えることになり、仮設の校舎を建てた。熊本県立図書館では上の階の揺れがひどく、吊り照明が破損した。特注品の照明であったため復旧に手間取り、再開までに時間がかかった。宇城市立中央図書館では、外壁の脱落、内壁の損傷、アルミ製天井ルーバーのあばれ、集密書架の変形といった被害があり、再開までに約1年を要した。くまもと森都心プラザ図書館では、複合施設の上階の設備破損から水が降ってきた。合志市ヴィーブル図書館も、消火系統からと思われる水漏れが天井から発生し、本やAV機器が水損した。

かつて海・河川・沼だった場所は、液状化のリスクが高いうえに、揺れの度合いが大きくなる場合がある。また、「川」や「浜」など水辺に因んだ地名の場合は、かつて地盤が弱かった可能性がある。災害予測の備えとして、土地にまつわる資料を改めて確認することが望ましい。神奈川県も地震の危険度は高いため、建物の構造などを含めてリスクを知っておくことが重要である。

災害によって立ち入りが出来なくなってしまった事例として、宇土市役所がある。鉄筋コンクリート造建築で、耐震診断により脆弱だということが分かっていたが、学校の耐震改修の方を優先し、庁舎の改修が後まわしになっていた。その結果、地震により建物が壊れ、職員も入れなくなり、建物内の資料・情報の早期回収ができなくなった。耐震改修の重要性を再認識する教訓となった。

家具類や事務室の備品などは、きちんと固定されていることが大事である。カラーボックスを固定せずに積んだ状態のまま本を入れていたり、使われなくなった家具を調達して固定せずに置いていたりしたところでは、倒れる・滑るといった被害が多く発生した。

吊り照明や空調の吹出し口、高所に置かれたものなど、高所からの落下物による負傷も非常に危険である。図書館によっては背の高い書棚に本を入れているところもあるが、可能であれば置かない方が安全である。

熊本大学の図書館では、学生のために部分的に開館をしていた際に、書架の間にヘルメットが用意されていた。この大学では書架の上部2段に転落防止のブックキーパーを付けており、効果的だったと聞いている。

益城町の図書館では「図書館ができること」として災害関連の一次資料の保存を行ったり、避難経路や非常口の掲示、利用者用のヘルメットの設置などが行われていた。

また、図書館による支援の事例としては、高台にあった石巻市図書館が避難所となった。大船渡市立図書館は複合施設の2階にあるが、施設が避難所となったため、館を閉鎖して物資の置き場として使用された。

【質疑応答】

Q. 被害を受けた図書館のうち、立入禁止となった図書館(名取市図書館)からはどのように本を運び出したのか?

A. 職員がヘルメットをかぶって作業を行い、人力で運び出した。作業には1か月ほど要した。柱と梁にヒビが入り構造上危険であるため、早めに2階から本を降ろし、荷重を減らすように伝えた。

Q. (宮城県図書館の事例を受けて)地震の際は本の落下を防ぐことが一番だと認識していたが、ある程度大きい地震に備えて、書架が倒れないようにすることの方が重要か?

A. 書架メーカーも建築士も、大きな地震があった際には本が振り落とされることはやむを得ないと考えている。本が落ちないことにより、書架が倒れて人を押しつぶしてしまうことの方が危険である。まずは人命が第一である。

Q. 現在建設中の県立図書館の新棟では、天井までの壁面書架を検討しているが、高い所から書物が落ちてくる危険性を再認識した。人の背丈よりも高い所から本が落下しないような工夫が必要であると思うが、注意すべき点をご教示いただきたい。

A. 高い所には、百科事典など落下時の危険性が高い本は置かないでほしい。上部には空本を置いている例もある。ドラマティックな空間を演出する書架の例もあるが、転落防止のバーを常設する、軽めの本を置く、滑り止めを敷くといった方法もある。高い位置に書架をつくる場合は、不用意に設置せず、揺れが発生した際に備えて慎重に判断してほしい。

以上