1947年から1949年にかけて生まれた第一次ベビーブーム世代は、堺屋太一氏によって団塊の世代と名づけられました。戦後の復興期に誕生した彼らは、右肩上がりの経済の中で成長。アメリカの豊かな生活に憧れ、高度成長の原動力となり、「ニューファミリー」といった新しい文化を創り出します。しかし、「男は仕事、女は家庭」という固定的役割分業が最も徹底された時代でもあり、女性の多くは数年間働いた後専業主婦となります。そして「会社人間」として仕事盛りの40代でバブル期を迎え、その後のバブル崩壊でリストラの波に襲われた夫を支えました。
この団塊の世代が、戦後70年を迎えた2015年にほぼすべて65歳以上の高齢者となります。高学歴化、都市化、サラリーマン化を定着させた戦後の変化の象徴である団塊の世代。彼らは従来の高齢者像もまた塗り替えつつあり、社会からさまざまな期待が寄せられています。超高齢社会に直面している今、何が団塊の世代には求められているのでしょうか。
図書のとびら
『日本米国中国団塊の世代』
堺屋太一編著 出版文化社 2009年 請求記号:361.64UU 27(22303515)公開
第二次世界大戦後は世界各国でベビーブームが起こり、その結果独特の経験と集団性を持つ、いわば塊のような世代が誕生しました。本書は、とくにそれが顕著だったアメリカ、中国に焦点をあて、日本とあわせてその世代の特徴を解説しています。泥沼となったベトナム戦争を経験し、そして老後を迎えた今もまた、サブプライムローン破綻による金融資産への大打撃に立ち向かうアメリカの団塊の世代。文化大革命が吹き荒れた10年間を生き延び、猛烈な競争による経済発展へと投げ込まれた中国の団塊の世代。堺屋氏は「米中の戦後っ子に比べれば、日本の戦後っ子、団塊の世代ははるかに安定した人生を送って来た、といえるだろう」と日本の団塊の世代を評しています。
『時代との対話 寺島実郎対談集』
寺島実郎編著 ぎょうせい 2010年 請求記号:304 1053(22400915)公開
日本総合研究所会長の寺島氏は1947年生まれ、つまり団塊の世代の先頭に属しています。本書は寺島氏が日本を代表する知識人と行った対談をまとめたものですが、その中の同じ団塊の世代である残間里江子氏との対談「ホリエモンを生んだ団塊世代のこれから」で、自らの世代について厳しく言及しています。「我々は前の世代を否定し、全共闘運動では自己否定と称し、ずっとノーと言い続け、逃げてきた。たいがい右肩上がりの環境をエンジョイして、ほとんどクリエイティブなことはしなかった。(中略)創造的とは言わないまでも、これから団塊の世代が次に来る世代の傘の雪、つまり、次の世代にのしかからない形の高齢化社会にできるのかが大きな問題だ」と。
『退職シニアと社会参加』
片桐恵子著 東京大学出版会 2012年 請求記号:367.7 418(22586879)公開
本書によると、1947年生まれの団塊の世代では、60歳定年時の男性の平均余命は22.2年になるそうです。1924年生まれの親世代の平均余命は約15年。団塊の世代にとって、定年後は余生というには長すぎる期間であり、引退後に何をして過ごすかは重要な課題となります。引退後は地域の役に立ちたい、働き続けたいという気持ちをもつ退職シニアは多いですが、それにはいわゆる「地域デビュー」が必要です。しかし、定年退職後に突然地域社会に向き合おうとしても、実際には厳しい現実に直面します。本書では、退職シニアの社会参加の問題について、科学的な調査データに基づき、個人(ミクロ)としての視点からだけではなく社会(マクロ)の視点から分析しています。
『団塊シニアの諸相』
日本経済新聞社産業地域研究所編著 日本経済新聞社産業地域研究所 2013年 請求記号:361.64 29(22692941)公開
高齢化が進む中で「元気な老人」であり続けている人々、下の世代に比べて相対的に豊かである人々といったイメージが流布している団塊の世代。しかし、「元気だ」といわれる彼らの感性や感覚は実際にどうなっているのか。そして、彼らが人生に求めているものとは。若々しいと思われがちながらも、基本的には年相応に「大人しい」感覚・感性に転じている様子。今の生活におおむね満足し、「人とのつながり」、「ココロの豊かさ」を大事にして過ごしている日常。また、「終活」を意識している一方で、そのことを考えると憂うつになり、できれば自分の好きなことに集中したいという本音。変化している団塊の世代の実像に迫った調査報告書です。
『終章を生きる 2025年超高齢社会』
下野新聞編集局取材班 下野新聞社(下野新聞新書7) 2013年 請求記号:367.7 423(22677371)公開
2025年には団塊の世代が75歳に達し、65歳以上の高齢者が日本の総人口の30%を超えると予想されています。そのような状況で、誰もが最期まで望むように生きられる社会の実現に向けて必要なものは何なのか。本書は栃木県の地方紙『下野新聞』に2011年から2012年にかけて掲載された、豊かな終章のありようを問う長期連載記事をまとめたものです。独居高齢者が増える中で在宅医療を充実させていくには。治療や延命だけを目的とするのではなく、苦痛に対応する緩和ケアを充実させることで「命の質」を高めるには。具体的にさまざまな事例を取り上げ、長生きして良かったと思える社会の在り方をどう作っていくか、私たちに問いかけています。
雑誌のとびら
「団塊よ、下流社会を救え」
『文芸春秋 』文芸春秋 92巻5号 2014年4月 p292-299 請求記号:Z051-12
カルチャースタディーズ研究所を主宰する社会デザイン研究者の三浦厚氏が、新しい高齢社会モデルを団塊の世代に向けて提言した記事です。いじめ、不登校、パラサイトシングル、フリーター、ひきこもりが増加し、不況の波に飲まれて貯えもない「団塊ジュニア」。もはや「下の世代に支えてもらえる」時代ではなく、「下の世代を支えることを考える」時代であると指摘する三浦氏は、健康であり貯蓄もあり、何より地域活動や社会活動をしたいという気持ちの強い活力のある団塊の世代だからこそ、「友達介護」で同世代で支え合うような、新しい社会モデルを作りだすことができるとしています。
「団塊世代の小児科医として言いたいこと 「小さいもの弱いもの」に触れよ」
『中央公論』中央公論新社 129巻6号(通巻1567号) 2014年6月 p128-131 請求記号:Z051-4
聖路加国際病院顧問の細谷亮太氏が団塊の世代に向けて、人生の後半戦を迎えるにあたって、「小さいもの弱いもの」すなわち「子ども」について真剣に考えるべきだと主張した記事です。子育てに失敗した団塊世代は、孫を通じて初めて本当の意味で「子ども」と向き合うことになると述べる細谷氏。孫を見て自分が子どもだった頃を振り返る作業は、これまでどんなことを考え感じながら生きてきたのか、その足跡をたどることにもつながります。自分の人生を整理するためにも、団塊の世代は下の世代に目を向け、実の孫だけでなく、子育て支援サークルなどに参加して、小さい子どもと触れ合って欲しいと語っています。
「団塊世代論の中心問題 現代社会論の視点から」
『桃山学院大学社会学論集』桃山学院大学総合研究所 48巻1号 2014年7月 p69-95 請求記号:Z305-539
団塊の世代については、バブルが崩壊した1990年代以降、多様な議論が展開されるようになりました。そして団塊の世代が一斉退職する2007年問題に直面するにあたり、世代論は本格化します。この論文では、桃山学院大学の宮本孝二教授が、それらの各論を踏まえた上で、戦後の日本社会の変動と今後の動向について考察しています。団塊の世代が時代の変化とともにどのように語られてきたのか、堺屋太一氏をはじめとした代表的な論説を年代を追ってまとめてあるので、これまでの世代論の流れを全体的につかむことができる内容となっています。
「人生残り3分の1 どう生きようか 団塊世代ど真ん中対談 上野千鶴子×鈴木敏夫」
『AERA』朝日新聞出版 27巻34号(通巻1464号) 2014年8月 p65-67 請求記号:Z051-203
アカデミズムや言論の世界で戦ってきた上野千鶴子氏と、エンターテイメントの世界を牽引してきた鈴木敏夫氏。ともに同じ1948年生まれになる2人の対談記事です。鈴木氏は「この歳になって振り返ってみたら、アメリカに翻弄されてきたなと思い知らされたんです。」と語り、そして上野氏は「長い間、私たちは年長の世代に向かって、「こんな世の中に誰がした」と石を投げてきたのに、考えてみたら、自分たちが逆の立場に立たされて。(中略)団塊の世代には戦争責任はないかもしれないけど、戦後責任はあると思うんです。」と語ります。軽妙なやりとりの背後にある、生きることへの真剣な思いが伝わってきます。
新聞のとびら
[日本2020]団塊の世代
(1)「僕って何?」今も (2)子が年金パラサイト (3)介護 シニアが救う (4)60歳代高齢者にあらず (5)自分らしい最期 求め
私の「これまで」「これから」(インタビュー特集)
『読売新聞』東京版 (1)2014年7月9日 朝刊 p1/(2)2014年7月10日朝刊 p1/(3)2014年7月13日朝刊 p1/(4)2014年7月15日朝刊 p1/(5)2014年7月16日朝刊 p1/特集 2014年7月17日朝刊 p15
「高度成長」から「バブル」、そして「超高齢」へと団塊の世代が生きる時代は変化しています。その変化をどう受け止めるのか。団塊の世代全員が70歳以上になる2020年を前に、超高齢社会を左右する巨大な「塊」の在り方について問題提起した連載記事です。
第1回目の記事では、団塊と重なる全共闘世代の心情を描いた『僕って何』で1977年に芥川賞を受賞した三田誠広氏の言葉を紹介しています。「団塊全共闘ですね。それは自分たちの利益だけを優先するのではなく『この国の存続に何が必要か』を考えること。若い世代も団塊世代も『自分に何ができるのか』を考える時でしょう。」。失業や低収入で結婚も自立もままならず、親の年金に依存する「年金パラサイト」の増加。介護保険には綻びが生じているのに、生活に余裕のない子どもに頼れない現実。自立して日常生活を送れる「健康寿命」をできるだけ延ばさなければ、現役世代の保険料負担が限界を超えてしまう社会保障制度。多くの人が「最期は自宅で」と願いながらも、実際には病院で亡くなる人が76%に上る中、どうすれば自分らしく人生を締めくくれるか最後の答え探しが求められる「多死社会」。連載では、さまざまな問題に向きあい奮闘している団塊の世代一人一人の生き方を丁寧に取り上げ、その実状を浮き彫りにしています。
インタビュー特集の中で、元プロ野球選手の村田兆治氏が語っている言葉が印象的です。「理想を失った時に人は老いる。ベストを尽くし、駄目だったら受けいれればいい。課題ができればそれも面白い。年を取ったら有言実行がいい。自分で目標を明確にできる。人生はいつまでも限りなき挑戦だ。」
インターネットのとびら
内閣府 平成24年度 団塊の世代の意識に関する調査結果(概要版)
http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h24/kenkyu/gaiyo/index.html
内閣府は2012年に、団塊の世代に対して、高齢者に対するイメージや経済状況、仕事、社会参加、介護といったことに関するさまざまな質問調査を行いました。結果からは、「70歳以上」を高齢者だとみている様子や、生活費に対する不安からできる限り仕事を続けたいと思っている様子など、その意識を読み取ることができます。
博報堂 エルダーナレッジ開発 新しい大人文化研究所
http://www.h-hope.net/
「博報堂エルダービジネス推進室」は、10年にわたって「団塊の世代」を中心とした研究を行ってきました。2011年2月からはその研究対象を40~60代以上に拡大し、「新しい大人文化」に関する情報発信を行う研究所を展開しています。ホームページには50歳以上のエルダー世代に関する興味深いレポートが掲載されています。