日時・会場

令和2年3月30日(月曜日) 14時00分から16時00分 於:県立図書館 新館4階セミナールーム

アドバイザー紹介

アドバイザー:明治大学文学部教授 青柳 英治 氏

筑波大学大学院博士後期課程修了。博士(図書館情報学)。
現在、明治大学文学部 専任教授。
図書館専門職員の人的資源管理、専門図書館のサービス活動と管理運営等を研究テーマとしている。

主な著作に

『専門図書館の役割としごと』(共著編、勁草書房、2017年)、
『ささえあう図書館:「社会装置」としての新たなモデルと役割』(編著、勉誠出版、2016年)、
『専門図書館の人的資源管理』(単著、勉誠出版、2012年)等がある。

概要 テーマ:「神奈川県公立図書館における非正規雇用職員の能力開発とキャリア形成 -日図協調査をもとに-」

1. レクチャーの趣旨

公益社団法人日本図書館協会(以下、日図協)の「非正規雇用問題に関する委員会」による、非正規雇用職員(以下、非正規職員)に関する調査結果をもとに、能力開発とキャリア形成に焦点をあて、その実態を紹介する。なお、このレクチャーでは、委員会の委員としてではなく個人の見解を述べることにする。

また、このレクチャーは、「平成30年度 能力開発基本調査」をはじめとしていくつかの報告を参照軸とすることで、今後、神奈川県立図書館の非正規職員の人材育成、キャリア開発を検討する際の一助とすることを目的とする。

2. 日図協調査の概要

本調査の目的は、公共図書館に勤務する非正規職員の実態を、労働条件・担当業務・能力開発・キャリア形成の観点から明らかにすることである。調査地域と対象範囲は、2018年12月1日現在、神奈川県の公立図書館に勤める非正規職員である。2018年12月に各自治体の中央館宛てに調査票の送付と、非正規職員への配布依頼がなされた。なお、神奈川県、横浜市、川崎市には中央館以外の各図書館にも送付・依頼がなされた。企業等の受託業者には、委員の直接訪問により配布の依頼がなされた。回答期限は2019年1月11日で、回収は回答者にあらかじめ渡された返信用封筒により日図協宛てに個別返送された。配布総数1,465に対して、最終回収数は547(回収率37.3%)であった。

3. 調査結果

ここでは、前述した4つの観点に基づく調査項目を、単純集計と雇用形態や他項目とのクロス集計を行うことで結果の一部を報告する。

3.1 属性

性別・年齢・司書資格・最終学歴について調査した結果、神奈川県の非正規職員の回答者像が見えた。40歳代から50歳代の女性が約70%と多く、全体の約半数が司書資格を有しており、同じく半数が大卒以上の最終学歴を修めている。

日図協をはじめとして、自治労、総務省などの各種調査によると、図書館における非正規雇用率は比較的高いことが分かっている。神奈川県を対象とした今回の調査では、雇用形態の状況は、自治体直接雇用が約70%、民間雇用が約30%であった。各雇用形態の内訳として、自治体直接雇用には、非常勤・嘱託職員、臨時職員、再任用・再雇用、その他の種別があり、民間雇用には、契約社員(無期、有期)、パート・アルバイト、その他の種別がある。

3.2 担当業務

非正規職員の担当業務は17の選択肢から複数回答によった。ここでは、担当業務の比率が20%以上の12業務を検討対象とする。

雇用形態別に担当業務を集計したが、実施率の順序に大きな差はない。ただし、12 業務と司書資格の有無をクロス集計した結果、有資格者の方が無資格者に比べ全体に担当業務の実施比率が高いことは分かった。読書案内・レファレンス、資料選択・発注、受入・分類・目録作成など、専門性の求められる業務は、有資格者が担うことが多い。

仕事の満足度についての単純集計では、満足層が81.5%、不満層が17.7% であり、多くの労働者が仕事に満足していると考えられるが、年齢とのクロス集計で見ると30歳代の満足層は他年代に比べて若干低い。雇用形態とのクロス集計の結果では、自治体直接雇用の場合は、臨時職員の方が非常勤・嘱託職員よりも若干満足層の比率が高く、民間雇用の場合はパート・アルバイトの方が有期契約社員よりも満足層の比率が高い。パート・アルバイトの方が一般的には雇用期間が短いことから、短期的に捉えた時には仕事の内容や賃金について満足度は高くなるという推測ができる。

3.3 能力開発

今回のレクチャーでは、「能力開発基本調査」(以下、能開調査)の調査対象事業所に属している労働者を対象にした「個人調査」を参照した。なお、この調査は、厚生労働省が毎年実施するもので、今回の調査対象数(平成30年度調査)は、「個人調査」 は23,016人、有効回答数は12,452人、有効回答率は54.1%である。

比較した結果、図書館職員のOJT実施状況は能開調査のそれに比べ比率が高い。この傾向は、雇用形態や職員の種類によって若干の差があるものの、業務命令に基づき通常の仕事を一時的に離れて行うOff-JTや、職業に関する能力を自発的に開発する自己啓発についても同じことが言える。

職員が必要と感じている研修の種類には2種類ある。一つはレファレンスや修理、保存、装備、接遇など実務に関するもの、もう一つは関連する法律の知識、図書館を取り巻く最新動向等図書館職員としてのスキルアップを目指すためのものである。しかし、研修を受講するうえでは時間や費用の面に課題を抱える人が多くいることも分かった。

3.4 キャリア開発

自治体直接雇用の職員の90%以上が昇進機会を「ない」と回答しているのに比べ、民間雇用では職員の種類によって差はあるものの約25%程度が「ある」と回答しており、違いが明確になった。常勤職員や正社員への転換機会についても同じ結果が出ており、自治体よりも民間の方が正社員としての採用を柔軟に行えることが影響していると推測される。

現在の職場で働き続けることが図書館職員としてのキャリア形成につながると考えるかという質問については、比率を見ると自治体直接雇用ではどちらともいえないと感じているようだが、民間雇用では「つながる」と感じている比率が若干高い。また、同じ質問を年代別に確認すると、20歳代は「つながる」と答える比率が高いが、30歳代と40歳代は「つながらない」と答える比率が高く、年代によって今の職場をどう捉えているか異なることが分かる。とくに、働きざかりの30歳代から40歳代にとっては、現在の職場が必ずしもキャリア形成の上で望ましいと捉えられていない可能性があり、改善の余地があると言える。

また、今後も図書館職員として働き続けたいと考える人が、80%を超えている点は言及に値する。しかし、現在の職場での経験がこれからの図書館職員としてのキャリア形成につながると考える比率が若干低かった30歳代から40歳代は、働き続けたいと答える比率が他の年代よりも低い。将来働きたい雇用形態については、年齢が若いほど常勤職員・正社員での雇用を望み、40歳代以降は自治体直接雇用の非常勤・嘱託としての雇用が最も高い比率となっている。

一般に、これからも働き続けたいと考える理由には仕事内容の他に待遇面も含めて総合的に検討がなされる。今回の調査では現在の賃金に対する満足度は不満層の比率が高く、家庭の中での賃金の位置づけは主な収入源ではない比率が約70%であった。このことが、回答結果に影響している可能性が考えられる。

3.5 まとめ

今回のレクチャーでは、日図協調査の結果を紹介することで、神奈川県の公立図書館に勤務する非正規職員の能力開発とキャリア形成の状況を把握できたと思われる。同じ非正規職員であっても、雇用形態や職員の種類によって違いがあることも提示できた。

4. 今後の課題

これまでの報告を踏まえたうえで、雇用と勤続の関係について検討する。1995年に当時の日本経営者団体連盟(日経連)が行った「新・日本的経営システム等研究プロジェクト」の報告では、当時、新しい雇用システムとして「長期蓄積能力活用型グループ」「高度専門能力活用型グループ」「雇用柔軟型グループ」の3つのタイプを提示している。すなわち、従来の長期継続雇用にあたる「長期蓄積能力活用型グループ」、雇用する側の抱える課題解決に専門的能力で応える「高度専門能力活用型グループ」、雇用する側も働く側も多様な状況にある「雇用柔軟型グループ」である。この考え方をもとに、非正規職員の人材育成やキャリア開発について考える。

現在、神奈川県公立図書館の多くの非正規職員は「雇用柔軟型グループ」に属すると言える。今回の調査によると、非正規職員であっても有資格者は専門性を求められる業務を行っているがOff-JTをはじめとしたスキルアップの機会は多くはない。今後も図書館職員として働き続けたいと考えている人は80%を超えており、若い世代においては正規職員としての就職を望む声も多い。このような現状から、非正規職員の能力開発の機会を増やし、専門性を高めるとともに正規職員への転換機会を増やす流れをつくり出すことが考えられる。神奈川県で行っている主任司書採用のような機会をさらに増やし「雇用柔軟型グループ」から「高度専門能力活用型グループ」を経て「長期蓄積能力活用型グループ」へといった流動化を生み出すことが大切である。また、現在「長期蓄積能力活用型グループ」に属し、業務統括等のマネジメント業務を行う事が多い正規職員についても、高度な専門性を発揮することでサービス業務の最前線で働くことを想定したキャリアパスも検討し得るだろう。このように「長期蓄積能力活用型グループ」から一部「高度専門能力活用型グループ」に重なり合うよう人材の流動化が生じるようなキャリア形成も考えられる。

【質疑応答】

Q. 「今の仕事に満足しているか」という質問と、「現在の職場で働き続けることが図書館職員としてのキャリア形成につながると思うか」という質問は、「将来、どのような立場で働きたいですか」という質問と相関があると思われるが、統計的に有意な相関は認められたか。

A. 調査結果については、この調査を実施した委員会の委員で分担して、主に、単純集計といくつかの項目をクロス集計してそこから読み取れる傾向をまとめている。統計的な有意差については現時点では検討していない。

Q. この度の実態調査は神奈川県を対象としたものだったが、非正規雇用職員のキャリア形成のために、当館が取り組むべき課題について御提言をいただきたい。都道府県立図書館による取り組みは市町村図書館の参考になるという点もふまえ、アドバイスをお願いしたい。

A. 市町村については、多様な状況がありなかなか一言でお答えすることはできない。今回のレクチャーの内容も含めて、実情に合う点を取り入れてほしい。

Q. 日本国内の図書館での非正規職員のキャリア形成事例、海外の図書館でのキャリア形成事例について知りたい。

A. 日図協が主催する全国図書館大会の中に、職員問題を扱う分科会があり参考になる。たとえば、2018年度の大会では『これからの専門職制度を考える』をテーマにし、非正規職員に関しても話題に上っていた。海外の事例としては、2019年度の図書館大会の同分科会で、金城学院大学の薬師院氏が「職員制度の確立とは何か:フランスの非公務員図書館員に関する調査から」と題して報告された。この中でキャリアの前提となる公務員としての図書館職の身分規定について詳しく説明されている。大会記録を参照してみると良いのではないか。

Q. 図書館として、非正規職員に対し提供できるキャリア形成に有効な研修は何か。たとえば、どの図書館でも通用するスキルである「著作権」、汎用性の高いスキルである「プレゼンテーション能力」「クレーム処理技術」等が考えられる。

A. 個別具体的な研修をあげることは控えるが、理想としては非正規職員であっても、正規職員と同内容の研修を受講できる機会があると良いとは思う。現在の図書館の現場では、利用者に直接関わるサービスの多くを非正規職員が担っていると考えられる。そういった職務の状況を考えるならば、雇用形態の別をなくして必要な研修を受講できる環境、仕組みを整える必要があると考える。

Q. 非正規職員には任期があるため、一定のキャリアを期待しての雇用であり、キャリア形成を育まない風潮があったと思われる。非正規化が進み、正規職員は計画・立案など運営・管理、非正規職員は実務という役割分担をする傾向も表れた。会計任用制度の登場は、「集団としての司書職の確立」にどのような流れをもたらすのか。司書のキャリア形成において、正規と非正規の役割分担(住み分け)をしていくべきなのか。

A. 会計年度任用職員の制度は2020年度からはじまるものであり、実際にこの制度はまだ動いていないため、コメントすることが難しい。日図協では、会計年度任用職員に関するセミナーも開催したようだが、そこで話題に上ったこととしては、待遇面に焦点が当てられていた印象がある、と聞いている。役割分担や住み分けについては、これからのことなので、現時点でのコメントは難しい。

Q. 非正規職員は研修を受講する時間が制限され、昇進・昇格の機会がないことから、キャリアアップを図る意義も見失いがちである。非正規職員が研修を受ける意義は何か、また、どのような方向性の研修を受けていくべきか。

A. 昇進、昇格は処遇の話であり、研修の受講は能力開発の話である。どちらも組織の中で人に関わる問題であり、延長線上にあると言えるが、切り分けて考えた方が良いと思う。研修の受講は、担当職務の質を向上させることを目標に行われるため、本来、正規、非正規の区別をすることは望ましくない。研修の受講等により能力が高められ、良いサービスを提供できるようになった結果として個人の評価が高まり、中長期的に見て昇進昇格に結びついていくのが理想ではある。

以上