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トピックスのとびら

 図書館には図書、雑誌、地域資料、新聞、視聴覚資料、インターネットといったたくさんの情報のとびらがあります。
 そのとびらを開いて、時事的な話題を複合的な視点から紹介します。

No.95 村上春樹ワールド(2013年6月発行)

 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』という、タイトルからひどく想像力を刺激する村上春樹の新作が話題になっています。近年の出版不況をものともせずミリオンセラーを記録した『1Q84』に続き、新作の発売がこれだけ人々に熱狂的に迎えられる村上作品の人気のすごさ。彼の作品はさまざまな言語に翻訳され、今や日本だけでなく世界的に著名な小説家としての地位を確立し、2006年にはフランツ・カフカ賞、2009年にはエルサレム賞という文学賞をあいついで受賞しています。日本人作家ではノーベル文学賞に最も近い位置にいると言われている村上春樹。なぜ村上作品は国境を越え人々を惹きつけるのでしょうか。その魅力はどんなところにあるのでしょう。火曜日の昼下がりにスパゲティをゆでながらビールを飲み、スタン・ゲッツのテナー・サックスを聴きながら「やれやれ」とつぶやく、そんな村上春樹ワールドをめぐる冒険の旅に出てみませんか。

図書のとびら

『芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか-擬態するニッポンの小説-』
市川真人著 幻冬舎(幻冬舎新書) 2010年 請求記号:910.26-3030(22439491)公開
 村上春樹は芥川賞を受賞していません。1979年に『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビューしましたが、当時行われた芥川賞の選考会ではアメリカ文学の模倣であるとされ、続く『1973年のピンボール』でもまた、前作よりも肯定的に評価はされたものの受賞を逃しています。日本の近代文学史においてアメリカ的であることは何を意味したのか、村上春樹の作品はその流れの中でどのような意味を持っていたのか。村上作品を最初に支持したのは圧倒的に若者だったことの背景が見えてきます。

『謎とき村上春樹』
石原千秋著 光文社(光文社新書) 2007年 請求記号910.26-3014(22423396)公開
 日本近代文学を専門とする著者は大学の会議で、「文学で人を呼べる時代は終わった。」という言葉を投げつけられます。そのことに奮起し、講義で村上春樹の作品を取り上げ毎年500人近くの受講生を集めた著者。本書はその講義を基にしています。はたして文学は本当にその力を失ってしまったのでしょうか。村上作品の底に潜む仕掛けを丁寧に読み解き、散りばめられたいくつもの謎に迫る過程を本書を通じて体験すると、村上作品の魅力はもちろん、文学の持つ力を再発見できます。

『世界は村上春樹をどう読むか』
柴田元幸ほか編 講談社 2006年 請求記号:910.26RR-2470(21989009)公開
 アメリカでは「ムラカミエスク(村上春樹的)」、中国では「非常村上(すごく村上的)」、韓国では「ハルキ世代(セデ)」という流行語が生まれるほど世界中で人気を博している村上作品。2006年3月には、シンポジウム「春樹をめぐる冒険―世界は村上文学をどう読むか」が開催され、世界各国の翻訳者、出版社、批評家、作家が一堂に会し村上作品と翻訳について語り合いました。本書はその様子を記録したもので、なぜ人々が村上作品に国の概念を超える普遍性を見い出すのか、その魅力に迫っています。

『村上春樹の短編を英語で読む1979~2011』
加藤典洋著 日本経済新聞出版社 2011年 請求記号:910.26-3148(22542138)公開
 自らフィッツジェラルドを始め多くの作品の翻訳を手掛けている村上春樹の作品はアメリカ文学に影響を受けていると言われています。ではその作品が英訳されるとどうなるのでしょうか。著者は日本語が読めない留学生を相手に、英訳された村上春樹の短編を読み、英語で講義し、そしてそこで得た発見を再度日本語におき直すという過程を通して、これまでとは異なった新たな村上春樹像を浮かび上がらせています。自分の孤立をつきつめ、その後にある覚醒にいたる村上春樹の在り方とはどういったものなのでしょうか。

『村上春樹を音楽で読み解く』
栗原裕一郎ほか著 栗原裕一郎監修 日本文芸社 2010年 請求記号:910.26-3043(22448021)公開
 村上作品には数多くの音楽作品や音楽家が登場し、新作が出る度に話題になります。ところが全作品に登場した音楽家と楽曲をつぶさに拾い上げたリストには立派なものがあっても、作品の中で音楽がどういう役割を果たしているか論じた評論や批評はあまりありません。本書はそのような現状に対し、中心を文学から音楽に移して村上春樹の小説を読む/読み直すことを試みています。ジャズ、クラッシック、ポップス、ロック、それぞれの分野のディスクガイドもついているので、読了後は村上作品を読みながら取り上げられている楽曲を聴きたくなります。

雑誌のとびら

「村上春樹 新作小説 「色彩」「多崎つくる」「巡礼」の謎 : 4・12発売!
『週刊文春』文芸春秋 55巻15号(通巻2719)[2013年4月11日]p130-133 請求記号:Z051-196
 新作が発売された4月12日の前日の記事です。3月15日からインターネット書店「アマゾン」上で予約受付が開始され、わずか11日間で一万部を突破したこと、書店も準備に追われていることなど、その大フィーバーについて言及しているだけではありません。さまざまな人々が、「「色彩を持たない」とは何を意味するのか」、いろいろ想像しています。発売前からこれだけの特集を組まれる村上春樹はもはや現象といってもいいのではないでしょうか。

「スペインにおける村上春樹の受容に関する予備的考察 : 『ノルウェイの森』を中心に 」
『国際関係・比較文化研究』静岡県立大学国際関係学部 11巻1号[2012年9月]p109-127 請求記号:Z319-519
 スペイン文学研究者森直香氏の論文です。村上作品の持つ普遍性とは何か考えさせられます。現在スペインで最も売れている日本人作家は村上春樹ですが、実は最初の翻訳である『羊をめぐる冒険』はあまり注目を浴びませんでした。ところが『ノルウェイの森』はヒット。その要因ははたしてどこにあるのでしょうか。村上作品の受容が人々の置かれている状況と密接に関係している様子がみえてきます。

「村上春樹に会いに東京へ旅するということ」
『Courrier Japon』講談社 8巻1号 (通巻86)[2012年1月]p58-66 請求記号:Z051-890
 米国人ジャーナリストでピュリツアー賞受賞作家Sam Anderson氏によるインタビュー記事の翻訳です。日本のメディアにはほとんど登場しない村上氏の日常を垣間見ることができます。自分は日本ではアウトサイダーだと常々感じてきたと語る村上氏を、Sam Anderson氏は次のように描写しています。「村上は見事な英語を低い声でゆっくりとしゃべる。」さらにSam Anderson氏は村上春樹と一緒にランニングもします。「ランニングスタイルは彼の性格の延長線上にある。気楽で、揺るぎなく、淡々としている。」。

「BECOMING JAPANESE」※英文
『The New Yorker』New Yorker Magazine 72巻40号[1996年December23&30]p60-71 請求記号:Z053-N
 日本文学に精通したIan Buruma氏による記事です。「Haruki Murakami was said to be Tokyo's Bret Easton Ellis‐loved by the kids, hated by the grownups. And then he had a revelation.」とキャプションがついていますが、Bret Easton EllisはアメリカのジェネレーションX(ケネディ政権からベトナム戦争までの時代に生まれた世代)を代表する作家の一人です。『ノルウェイの森』で若者に人気を博した村上春樹を老舗雑誌がこれだけのページ数で詳しく特集したことは、アメリカでの村上作品への注目度の高さを物語っています。

視聴覚資料のとびら ~村上作品に登場する音楽をピックアップ!~

「記事名・内容」の〈〉内は当館資料番号です

ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド/『スタン・ゲッツ・アット・ストーリーヴィル Vol.1&2』より
作曲者等:スタン・ゲッツ(テナー・サックス),ジミー・レイニー(ギター),アル・ヘイグ(ピアノ),テディ・コティック(ベース),タイニー・カーン(ドラムス)1990年 請求記号:CD23 ケツツ(41286089)視聴覚資料室公開
 「僕は腰を下ろしたまま「ジャンピング・ウィズ・シンフォニィ・シッド」のはじめの四小節を口笛で吹いてみた。」(『1973年のピンボール』p151〈21283510〉)。村上春樹が敬愛するジャズサックス奏者スタン・ゲッツのソロにあわせて、「僕」は気持ちよさそうに口笛を吹いています。

ノーウエジアン ウツド/『ラバー・ソウル』より
作曲者等:ザ・ビートルズ 1987年 請求記号:CD24 ヒート(41163601)視聴覚書庫1
 「それはどこかのオーケストラが甘く演奏するビートルズの『ノルウェイの森』だった。そしてそのメロディーはいつものように僕を混乱させた。」(『ノルウェイの森』(上)p5〈12764122〉)。飛行機から降りようとした「僕」を激しく混乱させ揺り動かしたこの曲は、ジョン・レノンが主に作詞作曲したビートルズの名曲で、1965年発売のアルバムに収録されています。ちなみに療養所で「直子」にリクエストされた「レイコさん」はギターでこの曲を弾き語ります。

歌劇「泥棒かささぎ」序曲/『ロッシーニ&ヴェルディ 序曲集』より
作曲者等:ロッシーニ作曲 クラウディオ・アッバード指揮 ロンドン交響楽団 1978年 請求記号:CD10 ロツシ(41013145)視聴覚資料室公開
 「僕はFM放送にあわせてロッシーニの『泥棒かささぎ』の序曲を口笛で吹いていた。…クラウディオ・アバドは今まさにロンドン交響楽団をその音楽的ピークに持ちあげようとしていたのだ。」(『ねじまき鳥クロニクル』第1部p7〈20792719〉)。冒頭で「僕」がスパゲティーをゆでながら聴いている曲です。ロッシーニが25歳の年、ミラノ・スカラ座のために作曲したオペラで彼の通算21作目にあたり、景気のいい軽快な序曲は特に有名です。

『マイ・フェイバリット・シングス/『マイ・フェイバリット・シングス』より
作曲者等:ジョン・コルトレーン(ソプラノ・サックス),マッコイ・タイナー(ピアノ),スティーヴ・ディビス(ベース),エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)1988年  請求記号:CD23 コルト(41253030)視聴覚資料室公開
「僕は沈黙を埋めるために口笛を吹く。『マイ・フェイバリット・シングズ』、ジョン・コルトレーンのソプラノ・サックス。もちろん僕のたよりない口笛では、びっしりと音符を敷きつめたその複雑なアドリブをたどることはできない。」(『海辺のカフカ』下p276〈21570544〉)。オリジナルはミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』で歌われている有名な一曲です。

『ファイブスポット・アフターダーク/『ブルース・エット+3』より
作曲者等:カーティス・フラー(トロンボーン),ベニー・ゴルソン(テナー・サックス),トミー・フラナガン(ピアノ),ジミー・ギャリソン(ベース),アル・ヘアウッド(ドラムス)1996年 請求記号:CD23 フラー(41230822)視聴覚資料室公開
 「A面の一曲めに『ファイブスポット・アフターダーク』っていう曲が入っていて、これがひしひしといいんだ。トロンボーンを吹いているのがカーティス・フラーだ。」(『アフターダーク』p29〈21788625〉)。どうして自分の楽器としてトロンボーンを選んだのか、その理由を「マリ」に尋ねられ「男」が答える場面です。「そうだ、これが僕の楽器だって思った。僕とトロンボーン。運命の出会い」。トロンボーンとテナー・サックスというユニークな組み合わせの楽曲です。

シンフォニエッタ/『シンフォニエッタ』より
作曲者等:レオシュ・ヤナーチェク作曲 チャールズ・マッケラス指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1981年  請求記号:CD10 ヤナー(41031964)視聴覚資料室公開
 「曲はヤナーチェックの『シンフォニエッタ』。渋滞に巻き込まれたタクシーの中で聴くのにうってつけの音楽とは言えないはずだ。」(『1Q84(BOOK 1)』p11〈22306310〉)。チェコの風土に根ざした作品を多く残したヤナーチェクの晩年の大作であり、壮大な響きを持つこの管弦楽曲は、現実の1984年と異界の1Q84年を、そして「天吾」と「青豆」という二人を結びつける役割を果たしています。