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トピックスのとびら

図書館には図書、雑誌、地域資料、新聞、視聴覚資料、インターネットといったたくさんの情報のとびらがあります。
そのとびらを開いて、時事的な話題を複合的な視点から紹介します。

No.117 格差拡大への懸念(2015年4月発行)

 フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏の著書『21世紀の資本』(みすず書房,2014年〈請求記号331.82/14〉)が話題となっています。2013年9月にフランスで出版された本書は、2014年4月に英語版が出されるとアメリカで大ベストセラーになり、大きな波紋を投げかけました。12月に出された日本語版も、分厚い経済書としては異例の売れ行きを見せています。ピケティ氏は本書で、膨大な歴史データを基に、資産を持っている人が得る利益の伸び率の方が、労働者の賃金の成長率を上回る事実を明らかにしました。あの「r(資本収益率)>g(経済成長率)」という不等式です。
 2011年にアメリカで起きたウォールストリート占拠運動では、"We are the 99%"がスローガンに掲げられました。アメリカ社会の貧富の格差を示した言葉です。また日本では非正規雇用が拡大し、労働市場の約4割を占めるに至っています。ピケティ・ブームの背景には、格差拡大への問題意識が存在しています。

図書のとびら

紹介資料表紙 『なぜ私たちは、喜んで“資本主義の奴隷”になるのか? 新自由主義社会における欲望と隷属』
フレデリック・ロルドン著 杉村昌昭訳 作品社 2012年 請求記号:332.06 142(22634752)公開

 著者は「銀行の国有化」を提案するなど、現行の金融体制に対しラディカルな批判を行っているフランスの経済学者です。本書で著者は、新自由主義は賃金労働者を、労働がもたらすお金ではなく、労働それ自体によって喜ばせようとしていると主張しています。つまり、賃金労働者が嬉々としてその行動力を企業に捧げ、自己実現できるようにしているのだと。しかし一方で、新自由主義はここ数十年間なかったほど賃金労働者を手荒く扱ってもいると述べています。この新自由主義の矛盾したやり方は、いたるところで暴力と不満を触発し、満ち足りた賃金労働者と不満足な賃金労働者を生み出しました。分極化した社会において、最も抑圧された層から始まった不満は、歴史を動かす可能性があると結んでいます。

紹介資料表紙 『格差社会』
橘木俊詔編著 ミネルヴァ書房 2012年 請求記号:361.8 233(22632756)公開

 本書で論じられているのは、日本におけるさまざまな格差問題です。ホームレスといった目に見える形で理解できる男性の貧困と比べて、隠された形でしか出現しない女性の貧困。子どものいる貧困世帯であっても、税金をはじめとする負担が児童手当などの現金給付を上回っているため、政府による「所得再分配」後も子どもの貧困率がほとんど改善しないという事実。1990年代から不況の影響を受けて、深刻な就業問題に直面している若者の実状。現役世代よりも所得格差が大きいという、他の国では見られない特異な特色をもっている日本の高齢者など。実証データを元に格差に関して多様な角度からアプローチし、現状と課題、そして今後取るべき対策を論じています。

紹介資料表紙 『孤立無業(SNEP)』
玄田有史著 日本経済新聞出版社 2013年 請求記号:366.28 290(22705917)公開

 ニート研究の第一人者である著者が、本書では「孤立無業(Solitary No-Employed Persons)」の問題に焦点をあてています。20歳以上59歳以下の在学中を除く未婚無業者のうち、普段ずっと一人か、一緒にいる人が家族以外にはいない人は2000年代半ば以降急増。2011年度時点では162万人に達したそうです。その背景の一つとして著者が挙げているのが、若者無業者の孤立です。ニートの特徴は、仕事を探す活動や準備をしていないという点でした。孤立無業であるかどうかの判断で重要なのは、友人や知人との交流がないという点です。今やどのような人でも無業者になれば孤立しやすく、一度孤立無業からニートへという悪循環のスパイラルに陥ってしまうと、抜け出すことが難しいと指摘しています。

紹介資料表紙 『現代日本の「社会の心」 計量社会意識論』
吉川徹著 有斐閣 2014年 請求記号:361.4 888(22751242)公開

 本書の第5章「総中流社会から総格差社会へ」の中で著者は、「総中流社会は幻影的だが幸福でいられる社会であったのに対し、総格差社会は覚醒的であるがゆえに幸福ではない社会である。」と述べています。1970~1980年代に格差が平準化し、不平等が大きく解消されたという客観的な事実は、階層調査データからは確認されないそうです。ただ、だれもが全速力で走っている状況では、自分がその集団のどの場所にいるか気にならなかっただけであると。しかし、成長の熱気から醒め、同じところに長く立ち止まっている今、私たちはそれぞれの持っているものの違いや、自分の立ち位置の細かな序列に目が届くようになり、格差と向き合い続けなければならなくなっているとあります。

紹介資料表紙 『格差拡大の真実 二極化の要因を解き明かす』
経済協力開発機構(OECD)編著 小島克久/金子能宏訳 明石書店 2014年 請求記号:331.85 29(22770093)公開

 経済協力開発機構(OECD)加盟国と多くの新興国で拡大し続けている所得格差。本報告書では、この格差拡大をもたらしている要因を分析し、それに対処する有望な政策について論じています。アメリカだけでなく、デンマーク、スウェーデンといった伝統的に平等主義の国でさえも、高所得者と低所得者の所得格差が広がっているとあります。ちなみに日本の所得格差は10対1で、1980年代半ばと比較して、所得が最も低い階層の実質所得は低下しています。所得の再分配の程度は、ほとんどの国において2005年までの20年間で大きくなりましたが、アメリカを筆頭として英語圏諸国を中心に最高所得層の所得占有率が上昇。市場所得の格差は拡大していることが分かります。

雑誌のとびら

紹介資料表紙 「ピケティ『21世紀の資本』を読む―格差と貧困の新理論」
『現代思想』青土社 42巻17号 2015年1月臨時増刊号 請求記号:Z105-9

 アメリカの有力紙『ニューリパブリック』と、イギリスの独立系シンクタンクIPPRが行ったピケティ氏本人へのインタビュー記事の翻訳が冒頭に掲載されている他、国内外の識者の論説を掲載しています。たとえばノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏は、高賃金のエクゼクティブは社会的規範に拘束されつつ自身の賃金を定めているとするピケティ氏の考えに対し、厳密さを欠いているとしながらも、『21世紀の資本』は私たちの経済の言説を変えたと高く評価しています。また、マルクスを研究しているデヴィッド・ハーヴェイ氏は、ピケティ氏のデータ集には多くの価値あるものが含まれているが、不平等と寡頭政治という傾向が出現する理由についての説明には重大な欠陥があるとしています。

紹介資料表紙 「ピケティにもの申す! 」
『週刊エコノミスト』毎日新聞社 93巻7号(通巻4384号) 2015年2月17日 p82-92 請求記号:Z330.5-5

 ピケティ氏本人へのインタビュー記事に加えて、フジマキ・ジャパン代表取締役の藤巻健史氏や、ライブドア元社長の堀江貴文氏など、さまざまな立場にある識者たちのコメントを掲載しています。ピケティ氏は「日本では高齢者の世代が資産を持ち、比較的裕福なのに比べ、若者が所得などで不利な状況に置かれている。大きな問題だ。この状況を解消するために、低所得者層や中間層に減税を行う一方、高所得者層の資本などへ累進的な課税を強化すべきだ。」と語っています。対して藤巻氏は、富裕層課税は日本ではすでに十分過ぎるといっていいと指摘し、行き過ぎた格差是正政策の結果が低い成長率であり、財政赤字の累積だと語っています。

紹介資料表紙 「対談 民主主義のモデルチェンジだけが、資本主義をコントロールできる トマ・ピケティ『21世紀の資本』に佐藤優が迫る」
『AERA』朝日新聞出版 28巻8号(通巻1494号) 2015年2月23日 p10-15 請求記号:Z051-203

 対談では佐藤優氏がピケティ氏に鋭い質問を投げかけています。ピケティ氏が提唱する「資本税」を徴収するためには、国家的もしくは超国家的な権力執行機関が必要となるが、強力な官僚機構は人民の権利、自由を不当に侵害する危険性をはらんでいるのではないかという問い。これに対しピケティ氏は、巨大な政治共同体を組織するのは確かに難しいが、今日の世界では小さな政治共同体として生きていくことも難しく、私たちはどちらかの困難を選ばなければならないと答えています。巨大な政治的共同体は作れる可能性があり、民主主義が再び資本主義をコントロールできるようにするためのたった一つの選択肢であると。

紹介資料表紙 「特集 格差サバイバル」
『週刊東洋経済』東洋経済新報社 6580号 2015年2月28日 p44-97 請求記号:Z330.5-2

 上位1%の富裕層がますます富むことで格差が拡大しているというアメリカは、ピケティ理論の典型例です。しかし記事では、日本の格差は下が沈み込むことで拡大するという特殊な形で、ピケティ氏の理論では説明がつかないと指摘しています。1980年と比べて、日本の大衆層(所得下位90%層)の平均所得は8割の水準まで落ち込んでおり、これほどまでに著しく大衆層の平均所得が低下した国は他に見当たらないそうです。しかも、従来の「下に沈み込む力」はそのままで、さらに「上に引っ張る力」が加わったら、日本の格差拡大は今後いっそう加速することになります。その渦に飲み込まれないためにはどうしたらいいのか、具体的なサバイバル術を紹介しています。

紹介資料表紙 「ピケティはなぜ「アイドル」になったのか」
『新潮45』新潮社 34巻3号(通巻395号) 2015年3月 p60-65 請求記号:Z051-142

 『絶望の国の幸福な若者たち』等の著書で知られる若手社会学者古市憲寿氏が、討論番組『ニッポンのジレンマ』のためにピケティ氏へインタビューした時のことを書いた記事です。相次ぐ収録や講演で疲労困憊の中、インタビューでは日本の若者たちを励まし続けたピケティ氏。日本では高齢者が富を独占しているとした上で、それでも若い世代への投資は社会全体への投資であり、すでに富を蓄えた人に対する資産課税の強化については、高齢者を含めて説得する方法はあると明るく語ります。まさに熱血講義。「「民主主義は戦いだ」など、専門分野から飛び出す内容に関しては、意外と精神論が多かったことが印象的だった。」とは古市氏の感想です。

インターネットのとびら

厚生労働省 若者雇用関連データ
http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/ 12.html
 若者の就職状況に関するデータが掲載されています。2011年3月の卒業者において、中学、高校、大学の卒業3年後の離職率は、それぞれ64.8%、39.6%、32.4%となっていること。ニート状態にある若者は、2002年以降60万人台で推移していること。フリーター数は2003年に217万人に達して以降、5年連続減少するも、その後2年連続で増加を続けていること。15歳から24歳までの完全失業率は、2009年には9.4%と高水準で推移していることなどが解説されています。

内閣府 子どもの貧困対策の推進
http://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/index.htm
 子供の貧困率が16.3%と深刻化している状況を受けて、政府は2014年8月に「子どもの貧困対策大綱~全ての子供たちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指して~」を閣議決定しました。本ホームページにはその全文がPDF形式で掲載されています。貧困の連鎖によって、子供たちの将来が閉ざされることは決してあってはならないとし、幼児教育時点の基礎学力などの差にも注目した、幼児教育の無償化の推進及び質の向上も盛り込まれています。

総務省統計局 統計Today 一覧
http://www.stat.go.jp/info/today/index.htm
 国の中枢的な統計機関である総務省統計局の広報資料「統計Today」では、さまざまな話題が取り上げられていますが、その一つとして「不平等指標と様々な不平等について考える」(No.53 2012年6月28日)が掲載されています。ジニ係数や「国民生活選好度調査」の結果、「賃金構造基本統計調査(賃金センサス)」の結果などからみえる不平等をそれぞれ分かりやすく解説しています。

国立社会保障・人口問題研究所 「生活保護」に関する公的統計データ一覧
http://www.ipss.go.jp/s-info/j/seiho /seiho.asp
 1996 年に設立された国立社会保障・人口問題研究所は、人口や世帯の動向をとらえるとともに、内外の社会保障政策や制度についての研究を行っています。「生活保護」に関する公的統計データ一覧も掲載しており、生活保護を受ける人の数が2011年から200万人を突破し、戦後の混乱期を抜いて過去最多となっていることが分かります。