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トピックスのとびら

 図書館には図書、雑誌、地域資料、新聞、視聴覚資料、インターネットといったたくさんの情報のとびらがあります。
 そのとびらを開いて、時事的な話題を複合的な視点から紹介します。

No.112 イスラム世界との対話(2014年11月発行)


 2014年6月10日、イスラム過激派組織「イスラム国」がイラク北部の大都市モスルを掌握しました。さらにシリアとの国境地帯へと進撃を開始した「イスラム国」に対する空爆は8月8日以来100回を超え、その報復として「イスラム国」が8月19日にインターネットを通じて公開した米国人ジャーナリストの殺害映像が、世界を震撼させています。
 「イスラム国」の前身は、2004年頃からイラクなどで活動していた武装集団といわれています。2001年の米国同時多発テロ(9.11)以降、こうした一部の過激派の行動により、イスラム教に対する差別と偏見が増長されるという状況が続いています。しかし、「アッラーの目に最も高貴なる者は、最も公正な者なり」(『聖クルアーン』49章14節より)や、「一人を殺すは万民を殺すが如く、また一人を生かすは万民を生かすが如し」(同5章33節より)とクルアーンにあるように、本来イスラム教は公正や平和を尊重する宗教です。日本にも多くのムスリム(イスラム教徒)が訪れるようになっている今、相互理解のためにもイスラム世界に関する知識を増やしてみませんか。

図書のとびら

『聖クルアーン』
モハマッド・オウェース/小林淳訳 マグフール・アハマド・ムニーブ監修 イスラム・インターナショナル・パブリケーションズ 1988年 請求記号:167.3 113(22436380)書庫1門

 アッラーが預言者ムハンマドを通して与えた啓示がクルアーンです。コーランとして知られていますが、アラビア語の発音に近い表記はクルアーンになります。この聖なるテキストは、ムハンマドの死後正典化され受け継がれてきました。本書はクルアーンをアラビア語と日本語で併記し、さらに解説をつけたものです。ムスリムの生活は、クルアーンとムハンマドの言行録(スンニ)に基づいたシャリーア(イスラム法)によって隅々まで定められています。たとえば女性のヴェールについても、24章32節に、女の信者はヴェールを胸まで垂れ、その美しさや飾り物を夫や子供達以外の人目に触れさせてはならないと実際に書いてあります。

『イスラーム世界歴史地図』
デヴィッド・ニコル著 清水和裕監訳 明石書店 2014年 請求記号:227 151(22728521)公開

 イスラム社会が成立する以前の中東・アラビア半島の諸宗教や生活文化、イスラム出現に至る世界情勢などに丹念に触れ、そこからムハンマドの布教、各地へのイスラム勢力の拡大などを分かりやすく説明しています。豊富な図版や地図も掲載されており、イスラムを知るための格好の入門書です。たとえば、ムハンマドの死後、指導者の役割を引き継いだカリフ(ハリーファ)の内、第4代カリフ=アリーこそが正当な後継者であるとするシーア(シーア・アリーの省略形)派の存在。対して多数派であるスンニ派とはシーア派以外の人々のことであり、ムハンマドの言行録(スンニ)に基づきそれを実践するムスリム全般を指すこといった基本的な知識を得ることができます。

『日本のムスリム社会』
桜井啓子著 筑摩書房(ちくま新書420) 2003年 請求記号:167MM 128(21625439)公開

 バブル期の日本には、イランやパキンスタン、バングラデシュといったイスラム圏から多くの外国人労働者たちが出稼ぎにやってきました。その後、日本の景気後退や不法残留者の摘発によって大半が帰国しましたが、残っている人々は既に日本での暮らしが10年を超え、安定した生活基盤を築いています。本書は、異質なものを排除する傾向が強い反面、宗教的なものに関しては比較的寛容で無頓着な日本社会の中で、ムスリム達は一日5回の礼拝や一か月に及ぶ断食、女性のヴェールの着用といった自分たちの信仰をどのように守って暮らしているのか、具体的な事例を元にその全体像を明らかにしています。

『世界に広がるイスラーム金融 中東からアジア,ヨーロッパへ』
濱田美紀/福田安志編 アジア経済研究所(アジ研選書23) 2010年 請求記号:338.22 52(22494694)公開

イスラーム金融という言葉を聞いたことがあるでしょうか。クルアーンは利子(リバー)を禁じており、さらに投機(マイスィル)を避けよと教えています。そのため、イスラーム金融は利子の概念を用いない金融として知られています。本書によると、オイルマネーの増大という背景もあり、イスラーム金融は急速に拡大し続け、2010年には1兆米ドルの資産に達するそうです。しかし、預金に利子をつけることができないイスラーム銀行はどのように資金を集めているのか、従来型の金融とどう共存しているのかなど、疑問は湧いてくるばかり。本書はイスラーム金融についての説明の他、各国における現状を分析しています。

『サイバー・イスラーム 越境する公共圏』
保坂修司著 山川出版社(イスラームを知る24) 2014年 請求記号:167 158(22736904)公開

 本書では、中東で生まれたイスラム教と、欧米を起源とするインターネットの関係ついて考察しています。イスラム世界では、かつてコーヒーショップなどで行われる自由な議論が、公権力に圧力をかけ社会を変革させる要因になっていました。しかし、そういった場が政府や体制による弾圧の対象となり弱体化した今、代わりにサイバースペース(仮想空間)上のイスラム共同体に新たな議論の場が生まれています。「サイバー・イスラーム」での議論は現実に影響を及ぼし、アラブの春では重要な役割を果たしました。ただ一方で、インターネット上に残される過激なテキストや動画は、時限爆弾にもなり得るという危険性にも言及しています。

雑誌のとびら

「中国「ウイグル弾圧」が引き金に アジアでも火を噴く「イスラム聖戦」 」
『選択』選択出版 40巻8号(通巻474号)2014年8月 p36-39 請求記号:Z051-91

 中国の習近平政権によるウイグル族への徹底的な弾圧が、中東のイスラム過激派とムスリムが多数を占めるウイグル族を結びつける事態を引き起こしたと伝えています。中国最大のガス田がある新疆ウイグル自治区では、資源を確保したい中国政府側との衝突が連日のように起きています。情勢は悪化の一途をたどっており、窮地に追い込まれた分離独立派が、シリア・イラクの混乱によって動きを活性化させたイスラム過激派と連帯する可能性が出てきました。「イスラム国」の躍進がアジア出身の過激派予備軍に与えた影響は大きく、いつ過激派ゲリラが新疆ウイグル自治区に入り込んでもおかしくないとしています。

「イスラム国という「聖戦集団」の正体 戦争と春が生んだ怪物」
『AERA』朝日新聞出版 27巻37号(通巻1467号)2014年9月1日 p63-65 請求記号:Z051-203

 イラク戦争とアラブの春の後の混乱に乗じて、「イスラム国」が勢力を拡大した状況を解説しています。「イスラム国」の指導者であるバグダディは、ビンラディン等よりも1世代若い、アルカイダ「第2世代」にあたります。しかし、「イスラム国」はアルカイダの強い影響を受けながらも、現在のザワヒリ率いるアルカイダとは目的を異にしています。彼らの特徴は、イスラムの原点に戻った国家を実際に建設するために、領土を奪い制度を作ろうとする強い意志を持っているところです。記事では、「イスラム国」は支配地域で厳格な独自の法を適用し、治安回復に努めて住民の支持を得ている面もあると指摘しています。

「穏健派スンニはイラクを救えるか 」
『Newsweek』阪急コミュニケーションズ 29巻34号(通巻1413号)2014年9月9日 p34-35 請求記号:Z051-197

 スンニ派である「イスラム国」によって崩壊の危機に直面しているイラク。その事態を防ぐには、アメリカがイラク国内の穏健なスンニ派と協力する必要があるとした記事です。スンニ派であった独裁者サダム・フセインが失権して以来、イラクでは代わりにシーア派が実権を握り、スンニ派はクルド人と共に政府の要職から締め出されてきました。「イスラム国」は、こうしたシーア派中心の政治に幻滅したスンニ派の支持を集め、勢力を拡大させています。穏健なスンニ派住民と共闘するには、まずスンニ派に対する不公平な扱いをやめ、包括的な政権を樹立しなければなりません。至難の業ではあるが、試す価値はあると結んでいます。

「アジア重視とシェールで手薄の中東 怪物「イスラム国」は米国が生んだ」
『週刊エコノミスト』毎日新聞社 92巻39号(通巻4361号)2014年9月16日 p80-83 請求記号:Z330.5-5

 混迷した中東問題の全てに共通するのは、アメリカの中東地域への関与の低下であると指摘しています。イラクやアフガニスタンに積極的に介入したブッシュ政権の「中東民主化構想」に比べると、オバマ政権の中東への関心は薄くなっています。オバマ政権が打ち出しているのは、台頭する中国を抑えるためのアジアに対するリバランス(再均衡)政策であり、シェールオイルの生産を増やし中東からの原油の輸入比率を下げるシェール革命です。しかし、アメリカが手を引き始めた中東の状況は悪化するばかりで、「イスラム国」の出現という事態も起きてしまいました。オバマ政権は大きく政策転換を図る可能性があるとしています。

新聞のとびら ~かながわとイスラム~

イスラム誘客強化 横浜市 戒律対応店やモスク情報
『日本経済新聞』 2013年12月6日 朝刊 神奈川版 p35
 横浜市と公益財団法人である横浜観光コンベンション・ビューローが、市内観光にムスリムをもっと積極的に誘客することを目的に、モスクの場所といった情報を提供するウェブサイトや交流サイトを開設したり、事業者向けの研修会を開くことを伝える記事です。ムスリムの多いマレーシアとインドネシアからの訪日客は増加しており、ムスリム旅行客のための食材や、礼拝に関する知識を提供することで、受入環境を整えるとあります。

礼拝マット 無償貸与 横浜市、イスラム客増で 宿泊施設に
『日本経済新聞』 2014年6月4日 朝刊 神奈川版 p37
 ムスリムが礼拝の際に使うマットとコンパス。この2点をムスリム旅行者のために無償で貸し出す事業を横浜市が始めたことを取材した記事です。マットとコンパスは40セットで16万円弱。横浜市が一括で購入し、希望する宿泊施設や飲食店、観光施設などに設置してもらう形をとるそうです。横浜市は2013年度からマレーシアを海外誘客の対象地域に加えてプロモーション活動を展開しており、ムスリム旅行客の獲得の強化に乗り出しています。

食品「ハラール」のおもてなし イスラム教の戒律に合う認証制度
『朝日新聞』 2014年9月17日 朝刊 横浜版 p34
 2020年に開かれる東京五輪では、世界中から多くの観光客が訪れます。食べ物や飲み物にも厳しい戒律のあるムスリムをどうもてなしたらいいのか。川崎市で開催され、ホテルや飲食店の従業員等40人が参加した「やさしいハラール講座」を取材しています。日本のしょうゆは、保存料としてアルコールが添加されている物が多いですが、ムスリムにとってアルコールは禁制品。おもてなしにはちゃんとした知識が必要になります。

イスラム客誘致、慶大と県、来年度に整備事業
『日本経済新聞』 2014年9月30日 朝刊 神奈川版 p39
 神奈川県が慶應義塾大学と組み、2015年度からムスリム受入の整備事業を始めることを伝える記事です。イスラム圏から訪れた留学生の意見を募り、彼らの視点を生かした観光モデルを作成していくとあります。他にも、イスラム教の戒律に沿った「ハラル認証」を取得した県内ブランド牛の生産を目指すことや、一般向けにイスラム教や語学の講座を開催するなど、さまざまな事業に取り組む予定だそうです。

インターネットのとびら

一般社団法人ハラル・ジャパン協会
http://www.halal.or.jp/
 ハラル・ジャパン協会はハラル(ハラール)の知識普及と、教育、調査活動、ハラル商品サービスのPRを主体とした団体です。イスラム教がアルコールや豚肉を禁じているのは広く知られていますが、実はそれだけではなく、ムスリムが口にできるのはイスラム法において合法なもの、すなわちハラルに処理された食品のみなのです。本サイトではハラルとはどういったものなのか、日本におけるハラル事情など、基礎的な知識が紹介されています。